168話 ダブルデート
――ガガ島 エルドラゴ邸
「はぁ……エレナ達、今頃うまくやっているかな?」
屋敷の海が見渡せるバルコニーがある部屋で、海を眺め黄昏ているエーテルがポツリと呟いた。
「そんなに気になるならピエトロ様を送った後、城に戻ればよかったんじゃないですか?」
そしてそれを、その部屋を掃除しながら聞いていたエーコが返す。
「私もそれを考えたわ、でも駄目なのよ!二人にはそろそろ私抜きでも恋愛を発展させて行ってもらわないと!そう、これは愛の鞭よ!」
「際ですか。」
エーテルが熱く訴えてみせるが、エーコはあまり興味なさそうに流すように返事をして淡々と部屋を箒で掃いていく。
「そう言えば、ピエトロ様はどこに行ったんですか?帰ってから見かけてないけど」
「ああ、ピエトロならエレナの家にいるメリルのところに行ったわ、なんか今後の事について話があるとかで。」
「へぇ……」
「ね、なんか二人、怪しくない?」
「は?」
「ずっと前からの顔見知りらしいし、もしかして今回の戦いをきっかけに二人が恋に目覚めたりして!」
そう言って新たな玩具を見つけたように目を輝かせるエーテルにエーコは呆れたような視線を送る。
「エーテルもそういうの好きですねえ。」
「だって私は妖精だからね。今はエレナ専属の恋の
そう言って勝手に盛り上がるエーテルは陽の光を浴びて輝く海を見ながら二人の恋の行方を見守っていた。
――
一方その頃、そんなエーテルの思いとは裏腹に、二人はそれぞれ別の異性と共に過ごしていた。
エリックにお茶に誘われていたエレナは、エリックと共に王都テトラの街中にある喫茶店に来ており、二人はその店でそれぞれ好きな飲み物とデザートを頼みながら、会話をしていた。
「へぇ、エレナさんはモンスターを調べることが好きなんですね。」
「はい!幼い頃に祖父から譲り受けたカーミナル家のモンスター図鑑を見てからモンスターの虜になっちゃって、モンスターを見るためによく父や幼馴染の後をついていってよく怒られていました。」
会話というよりは、モンスターの事を聞かれたエレナが殆ど一方的に話す形になっているが、エリックはエレナの話を楽しそうに聞いていた。
「ハハ、思ったよりもお転婆なんですね。」
「よく言われます、最近は友人に言われるまで服やアクセサリーといったオシャレにも興味ありませんでしたから……」
「それは少し意外でした、エレナさんは出会った時から凄く素敵な格好をしていたのでそんな風には見えませんでした。まあ、元が凄く素敵なので何を着ても魅力的ですが。」
「そ、そんな事、無いですよ」
「いえ、少なくとも僕には魅力的でしたよ。」
真っすぐ見つめられてそう告げられると、あまり褒められ慣れていないエレナは顔を赤くし、俯き顔を逸らす。
「そ、そんな事より、エリック様は何かご趣味とかはあるのですが?」
そしてすぐさま話題を変える。
「そうですね……私は幼い頃から――」
そうして二人は会話を弾ませていった。
それからも話は絶えることなく続き、エレナ達が店に来てから数時間もの時間が経過したころ、ようやく話に区切りが見えてくる。
そしてそのタイミングを見計らって、今まで聞き手に入っていたエリックが話を切り出した。
「エレナさん、少しいいですか?」
「え、あ、はい?」
先程から笑顔で話を聞いていたエリックが真面目な表情で尋ねると、自分が一方的に話していたことに気づき、エレナは今度は自分が聞き手に回る番と言わんばかりに手を膝に置いて聞く姿勢に入る。
「今日はあなたとお話をして、あなたの人となりと言うものを更に深く知ることができ。そしてそれによってあなたへの自分の気持ちも改めて確認することができました。なので単刀直入しに言わせてもらいます。エレナさん!」
「は、はい!」
名前を呼ばれたエレナが思わず返事をする。
エリックはそこで一度言葉を区切ると小さく深呼吸をする。
そして……
「僕はあなたに助けられた時からあなたに恋をしてしまいました、もし良ければ、僕と婚約という形でお付き合いしてもらえませんか?」
と、聞き逃れもできないほどはっきりと告げた。
「え、えぇ⁉」
そして真っすぐ見つめられて言われたその言葉に、エレナは今までにない程に顔を真っ赤にして硬直してしまう。
「どうでしょうか?」
「ど、どうって言われても……」
自分には幼い頃からネロという婚約者がいるので、そういう話はもう来ないと思っていただけに
エリックからの告白にエレナはただ戸惑うばかりである。
「そもそも、どうして私なんでしょうか?」
エリックは後継ぎから外れた三男とはいえ、公爵家の家柄で王族の血も入っている。
容姿も人柄も良く、探せば自分よりもいい人など沢山見つけられそうなのにと、考える
エレナに対し、エリックは少し神妙な顔つきで答える。
「アドラー帝国で捕まったあの時、僕は自分の不甲斐なさに絶望していたんです、捕まった民のためと言って一人で突っ走り、逆にそのせいでいろんな方に迷惑をかけてしまい、その情けなさで押しつぶされそうでした。……でも、その時にエレナさんがかけてくれた言葉で僕は凄く救われたんですですから……」
「エリック様……」
真っすぐな気持ちをぶつけられたエレナは少し心が揺らぐも、しかし自分にはネロという婚約者がいるのを理由に断わりを申し入れた。
「あの、その気持ちはすごく嬉しいのですが、私にはすでにその……フィ、フィア……」
「ええ、勿論あなたに
「え、えーと。」
この言葉で諦めると思いきや、食い下がられたことにエレナは次の言葉を考えておらず唯々狼狽える。
「それに叔父に話を聞いた限り、あなたの婚約者はあなたに対し恋愛感情があるとは思えません、聞いてる限りでは仲のいい兄妹に思えました。」
「そ、それは……」
それは以前エーテルにも指摘されたことで、それを言われると反論ができない。
エレナはどんどん追い詰められる。
「ですが私は本気です、本気であなたを愛しています。もし領土が問題とするのなら、ガガ島は全て彼に委ねてもいい。それに、彼にはもう一人婚約者がいるでしょう?」
「え?」
その言葉にエレナはふと我に返る。
「おや?聞いていませんか?オルダのヴァルキリアことミーファス・テッサロッサ様のことです、確かにまだ確定までしていませんが、一夫多妻制度を設けているこの国で断る理由もないでしょう。」
――い、一夫多妻制ぃ⁉︎、
それもエレナは初耳の話である。その言葉でエレナの心に更なる動揺が生まれる。
「もちろん、僕なら断りますがね。僕が愛せるのはエレナさん一人だ。でも彼はそうじゃないでしょうから断ることもないでしょう。ですからあなたさえよければ僕と婚約していただけませんか?」
「わ、私は――」
色々な思考が絡み合う中エレナはとっさに浮かんだ言葉を口にした。
――
一方その頃
「はあぁぁぁ!」
テトラの近くにある森の中、ミーファスの気合の入った掛け声が辺りに響き渡った。
その声が発せられると同時に突かれた槍を、ネロは手に持つ剣で難なく受け止め、弾く。
「流石だな、エルドラゴ殿、大会で戦った時は力技で戦うものばかりと思っていたが、剣術もこれほどの実力を持っていたとは……」
「貴族のたしなみ程度で鍛えただけですよ。」
と、軽く反撃しながら返すが、正確に言えばそれは前世で身に付けた実力であり、ネロとしては一度も剣の鍛錬はしたことはない。
「謙遜するな、我が槍を難なく受け止める剣士が国に何人いると思うんだ?それで嗜む程度と言うならば我が国の貴族どもは皆貴族失格だな。」
そんな冗談を交えた会話をしながらも二人は攻防を緩める事なく続けていた。
そしてそんなひと時を二人っきりの場で過ごした後、二人はそれぞれ武器を収める。
「ふう、いい汗がかけた、やはり我ら武人はこうやって対話過ぎるに限るな。」
「……そうですね。」
その言葉にはネロも同意する。
初めて会う相手と話すのはやはり、苦手なところがある。
それに比べると戦いながら会話をすると言うのは割と考える時間がないため、ついポンポンと思いついた言葉を言ってしまうので意外と互いに本音を言い合えたりするものである。
「ところでエルドラゴ殿」
「ネロでいいですよ、その名はは呼びにくいでしょうから。」
「そうか、ならば私もミーファスでいい。では改めて、ネロ殿は例の話は考えてくれたか?」
「例の話?」
「もちろん結婚の話だ。」
「……あ。」
その一言でネロは自分がここに来た理由を思い出す。
「フフッまあいい、それだけ熱中していたとしておこう、で、どうだろうか?私としては先程の闘いでますます其方を気に入ったぞ。そなたの方はどうだった?」
「……まあ、こちらも嫌う理由は見当たらないですね」
「そうか、ならば今一度聞こう、ネロ・ティングス・エルドラゴ殿、私と結婚してくれまいか?」
「……」
その申し入れに対し、ネロは今度はしばらく考え込む。
「ああ、もちろん、まだ時間が欲しいというならいくらでも待つぞ?」
黙り込むネロを見て、ミーファスはそう付け足すが、ネロはその言葉に小さく首を振る。
「いや、待たなくていい、別にそこまで悩むほどの事でもないからな」
そう言うと、ネロはその場で返答を返した。
――
「あ、ネロ……」
互いのデートが終ると、二人はほぼ同時刻に部屋に到着した。
「エレナも帰ってたのか」
「う、うん。その……きょ、今日のデートはどうだったの?」
「デート?」
「ほ、ほら、オルダ王国の人と……」
「ああ、そう言えばあれデートだったのか。」
と、緊張して問いかけたエレナとは逆にネロは特に何もなかったような態度で答える。
「それで、どうだったの?」
「別に、お前が気にするようなことはなかったぞ?」
「そ、そうなんだ。」
「そういうお前はどうだったんだ?」
「え?私?」
そう尋ねられたエレナは今日の事を思い出し顔を再び真っ赤にする。
「ああ、エリックはどんな奴だった?」
「あ、うん。すごくいい人だったよ。私のモンスターの話にも耳を傾けてくれたし。」
「へぇ、それはなかなか物好きな奴だな。」
「う、うん。それでね、エリック様が今度ネロとも話がしたいって」
「俺と?」
「うん、だから明日王都にある店に来てほしいって。」
ネロはその話に少し眉を顰めながらも、分かったと言うと、その日はそのままいつもと変わらぬ様子で夜を過ごし、眠りについた。
ただ、エレナは今日エリックにした返答の事が頭から離れずにいた。
『私は、ネロが良いなら構いません。』
――もし、ネロが構わないって言った時、私は……
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