第90話 教育の賜物
オルグスの街の入り口に着くと、ネロ達はそこから町を見渡す。
初めて来たときのような寂れた様子はなく、町は労働者たちでにぎわっている。
「ここも三ヵ月ぶりか」
「問題なさそうね、皆生き生きしてる。」
「ついでだからレイジさん達にも会って行こうよ。」
「そうだな、顔くらいは出しておくか……」
「レイジって?」
「うん、レイジさんはね……」
エレナがピエトロに前回の出来事を話しながらレイジの家へと向かった。
――
「へえ、アルカナのホーセントドラゴンかぁ、ちょっと興味あるね」
「あ、それなら私の作った図鑑があるよ?」
そう言ってエレナがカバンの中から自作の図鑑を取り出す。
「へえ……これがいつもエレナが書いていた図鑑か……」
ピエトロは興味津々でエレナに渡された手作りの図鑑を見る。
そしてホーセントドラゴンの項目を見つけると、初めこそ上機嫌に見ていたピエトロだったが内容を読むにつれて、少しずつ表情を曇らせていた。
町中を少し歩くとレイジの家の目印となっている赤い屋根の家にたどり着く。
「確かここだったよな?」
四人はレイジの家に到着すると、ドアを二度ノックする。
すると、聞き覚えのある元気な少年の声が、ドアの向こうから返ってきた。
「は~い、今開けるねー」
そして扉が開くと中からは、レイジではなく甥にあたるコルルが出てきた。
「あ、お兄ちゃんだぁ!」
ネロの姿を見るや、コルルがネロの膝に抱きつく。
「っと、久しぶりだな。」
ネロが少し頬を緩ませながら抱き着くコルルの頭を撫でる。
「うん、久しぶり~、お姉ちゃんも久しぶり~、あとハエーテルも久しぶり~。」
「その名前まだ覚えてたの⁉︎ちょっとネロ、どうすんのよ!変な覚え方してるじゃない!」
「俺の教育の賜物だな」
ネロが目を閉じうんうん、と頷く。
「ところでコルル君、レイジさんいる?」
「ううん、レイジおじちゃんは今出かけてるよ。」
「じゃあ、お父さんは?」
「あ、うん、中にいるよー、ちょっと待ってて」
そう言うとコルルが振り返り、家の奥に向かって……
「おい!糞親父!」
と大声で呼びかけていた。
「……なんていうか、なかなかワイルドな子だね。」
「これもネロの教育の賜物ね。」
「……俺、ここまできつく教えたっけ?」
コルルの呼びかけからしばらくたった後、奥から父のレンジがやってくる。
しかし、その姿は三ヵ月前の時とは違い、髭が整っており、前のような刺々しい雰囲気は感じなく、一児の父親として柔らかな物腰になっていた。
「コラ、コルル!そんな言葉づかいはダメって言ってるでしょうが!」
「……よう」
雰囲気の変わったレンジに、ネロは少しよそよそしく声をかける。
「ええと……お前らは……おお、あの時の!なんだ、随分でっかくなったじゃねぇか!」
「ええい、鬱陶しい!触るな!」
レンジがネロ頭を強く撫で回すと、ネロはすぐさま払いのける。
「で、どうしたんだ?」
「一度ミディールに帰るからその前に様子を見に来たんだよ。」
「その後、貴族の方はどうですか?」
「ああ、それなら問題ねぇ、あれ以降この街には関係者以外人っ子一人きやしねぇからな。」
――それはそれで問題じゃないのか?
「ところでそっちの子は?……見た所貴族っぽいが……」
「初めまして、ネロ達と旅を同行させてもらっているピエトロ・ブルーノと申します。」
ピエトロが貴族らしく紳士な態度で頭を下げる。
しかし慣れない挨拶にレンジが少し戸惑いを見せる。
「あ、これはどうも……ってブルーノだぁ⁉︎」
名乗ったピエトロの姓に気づいたレイジがすぐさま距離を取る。
「お、おい、ブルーノっていやぁゲルマと同格の奴じゃねぇかよ!なんでこんな奴とつるんでんだ⁉」
「まあ、いろいろあってな。まあ安心しろ、こいつは大丈夫な奴だ。」
ネロにそう言われるとレンジは今一度ピエトロの方を見る。
ピエトロがいつものようにニコリと笑ってみせると、レンジも少し警戒心を解いて元の位置へと戻る。
「そ、そっか……ならいいんだが。」
「そういえばレイジさんの方は元気ですか?」
「あぁ、今は買い出しに行ってるがすぐに戻ってくる……と言ってるそばから帰ってきたみたいだな」
レンジの言葉と後ろから聞こえた足跡に振り向くと、後ろにはたくさんの袋を手に持ったレイジがいた。
「あ、レイジさんお久しぶりです」
「おや、誰かと思えば、君たちはネロ君とエレナちゃんとエーテルちゃんだったっけ?ネロ君は随分大きくなったねぇ、そちらの彼は?」
「ああもう、兄弟そろって同じこと聞くなよ!説明するのが面倒くせえだろ」
「ハハハ、それはすまないね。まあ、こんなところで立ってないで上がりなよ、旅の話も聞きたいしさ。」
レイジの言葉に甘える形で四人はそのまま家の中へと入って行った。
――
「……へぇ、君たちもいろんなことに巻き込まれてるんだね。」
「ゲルマにブルーノ、アドラーの最悪貴族のツートップじゃねえか。」
「ま、ここの奴らが貴族を嫌う理由がよくわかったよ。」
レイジとレンジ、そしてネロとエレナとピエトロの五人がテーブルに
着きコーヒーを飲みながらこれまでの出来事を話し合う。
その間、エーテルはコルルの遊び相手となっていた。
「それにしてもレンジさん、随分雰囲気変わりましたよね?」
「そ、そうか?」
「ああ、はっきり言って気持ち悪い。」
「ハハハ、こいつも父親になろうとそれなりに頑張ってるんだよコルルもすくすくと成長してるし……少し言葉遣いが気になるけど」
「ほんと、糞親父なんて呼び方、どこで覚えたんだよ?」
レンジの言葉にネロは露骨に視線を横にそらした。
「ところで、僕から一つ質問があるんですが、いいですか?」
「あぁ、なんでも聞いてくれ」
「ここでは以前ホーセントドラゴンが出たと聞きましたがその後、鉱山でモンスターが出たことはありましたか?」
ピエトロの質問にレイジとレンジが一度顔を見合わせる。
ホーセントドラゴンが出たと聞かれれば分かるが、モンスターが出たかという質問に二人は首をそろえて不思議がった。
「そういや、出てねぇな。ドラゴンもモンスターも」
「というより、今までもあのトカゲ以外でモンスターは出てねぇんじゃねーか?」
「なるほど……」
ピエトロが難しい表情で俯くと小さくやっぱりか、と呟いた。
「どうかしたのか?」
「うん、ちょっと気になるところがあってね。すみませんが鉱山の中って調べられますか?」
「あ、ああ、今日は無理だが明日なら大丈夫だ。」
「わかりました、じゃあネロ、悪いけどミディールには先に君達だけで言ってくれるかな?僕はここで少し調べたいことがある。」
「どうした?何か気になる事でもあったのか?」
「うん、少しね」
そう言うとピエトロはまた一人でぶつぶつと言い始める。
「そっか、じゃあ先に行ってる、調べ終わったらまた連絡くれ。」
「わかったよ。」
「よし、じゃあ今日はうちに泊まっていくといい、部屋なら一杯余ってるからね。」
「ありがとうございます。」
ピエトロが笑顔で頭を下げる、話が一段落したところで、ネロも椅子から腰を上げた。
「そんじゃあ俺たちもそろそろ行くか。」
「君達は泊まって行かないのか?」
「そうだぜ、今から港に向かっても日が暮れてるぜ?どうせ明日まで船は出ねえんだろ?」
「悪いが、こっちは一秒でも早く国へ帰らなきゃならねぇんだ、だから船の奴らに明日の明朝に船を出すように掛け合わねぇといけねえしな。」
「そっか、じゃあまた、次の機会で」
「はい、エーテル、行くよー。」
「ちょっと待って!まだこの子に礼儀ってもんを――」
「あ、そ、じゃあお前も置いていくな」
「待ってー!行く行く、行くからぁー」
そういいながらエーテルが慌ててネロの後を追う。
こうしてネロとエレナとエーテルの三人は、故郷ミディールへ帰るため、テットへと向かった
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