第54話 グリフォン
タールの町から少し離れた場所にある岩山は、冒険者たちの修業の場として知られている。
ウルフやゴブリンといった下級モンスターの巣窟になっており、街からも短時間で帰ってこられ、駆け出し冒険者の修業場としては打ってつけの場所である。
しかし今はその場所に例のグリフォンがいた。
グリフォンは全長二メートルの四足歩行の獣の体に鳥がくっついたような姿が特徴のモンスターだ。
普段は地面に降りているが、獲物や敵と戦う際、空中へと飛び上がる。
顔にある三つの眼で、上空から標的を定めると急降下し、その長く鋭い獣の爪で襲い掛かる。
また、上空から身体についている人一人分を覆えるほどの大きな翼で真空波を起こし、体内に魔力の源であるマナを溜める事が出来る体質から更に風属性の魔法を使う事ができ、中級の風属性の魔法を使う事ができる。
上空で魔法を唱えるので、非常に厄介なところもある。
また、光るものを集める習性もあるので、金属製のアイテムを持ってる者は狙われやすい。
「……という感じですかね」
「だ、そうだ」
その岩山に行く途中の間で、エレナがグリフォンについて語り終えるとザックはポカーンと口を開けたまま唖然としている。
「……まさかグリフォンの特徴を全部把握してんの?」
「いえ、グリフォンというより図鑑に載ってあったモンスターのことなら、全て覚えました。」
「……マジかよ」
エレナがモンスターマニアを名乗ったので、物の試しに質問してみれば、まるでマニュアルでもあるかのように事細かな解説が返ってきた。
「ザックさんは討伐モンスターの事を調べたりはしなかったんですか?」
「調べるけどそこまで普通は調べねーよ、基本調べるのはモンスターの平均レベルやステータス、弱点と言った戦闘の事関連だけだからな。図鑑の特徴なんて調べてたらきりがねぇよ。」
ザックはエレナの知識に感心するも内心は少し引き気味であった。
「さっすが、エレナね!」
「ん?」
「あ、しまった」
突如見えないところから、聞こえた声にザックが周りを見渡す。
姿を隠していたのを忘れて、つい口をはさんだエーテルが、思わず自分の口を手でふさぐ
「いま、なんか聞こえたような……」
「……気のせいだろ」
「そうか、ならいいんだが」
ザックが気のせいと判断すると、エーテルはホッと胸を撫でおろした。
「流石その歳で、モンスター研究の旅をすることだけはあるな。ところで、二人はどういう関係なんだ?見たところ兄妹にも見えないが」
「え⁉︎わ、私とネロはそ、その……フィ……フィ……」
久々にされた質問に、エレナは相変わらずゴニョり始める。
するとネロの耳元からザックに聞こえない程度の声で頑張れ~という小さなエールが聞こえてくる。
「だから、その……フィ、フィ……」
――相変わらず変わらねえな
前まではネロが人と(主に平民と)話そうとしなかったので、口を挟まなかったが、今はそんな考えはないのであっさりとネロが答える。
「俺とエレナはミディールで家が近くて、幼いころから一緒なんだ。まあ兄妹みたいなもんだやつだ」
ネロがそう答えると、エレナが、あ、っと口を開き、苦笑いをした後、婚約者と説明してもらえなかったのがショックだったのか、少ししょんぼりした。
――わざわざ、言いふらさなくていいだろうに
そして今度は耳元からブーイングが聞こえ始める。
ネロが声の聞こえる方に強く息を吹きかけると、姿の見えない声の主は、小さな悲鳴を上げ、そのまま遠ざかっていった。
「幼い頃から一緒か、うちのパーティーと一緒だな、俺達も全員幼馴染のパーティーだったんだぜ」
「へぇ、幼馴染でパーティーかぁ、仲よさそうですね。」
「まあな、うちのパーティー、『アイアンナイト』は幼い頃から五人一緒だったからな、チームワークの良さならどのパーティーにも負けなかったよ……」
そう自慢げに語るザックだったが、それと同時に少し寂しげな表情を見せる。
「いいですね、なんかそう言うの、で、そのパーティーの皆さんは今どこに?」
純粋な興味で質問したエレナだったがその後、すぐにその問いを後悔した。
「……死んだよ、全員。グリフォンに殺されてな」
「え?」
その言葉にエレナが硬直した。
「別になんてことはねえさ、冒険者をやってるならよくある事だ。それにそういう覚悟はあったからな。」
そう言ってザックが気にしない素振りを見せるが、エレナは悲観な顔を隠せないでいる。
「……お前だけが生き残ったのか。」
「生き残されたんだ、このグリフォンの情報をギルドに伝えるためにな。俺達はあのグリフォンが、普通じゃないと気づくとすぐさま撤退した、だが逃げ切れないと覚悟すると仲間は俺だけを逃したんだ。」
ザックは足を止めず一度空を見上げると、雲を見ながら自嘲気味に笑った。
「皮肉なもんだよな、まともに戦えない俺が生き残るなんてな。パーティーの中で一番弱い俺を逃がして何になるってんだ、でも俺が代わりに盾になっていたら、誰も逃すことなんてできなかった。我ながら見事なチームワークだな……クソッ」
自分を皮肉るようにそう吐き捨てると、ザックは悔しそうに肩を震わす。
「本当は情報を伝えたら、そのまま冒険者はやめるつもりだったんだ、でもギルドの奴らは伝えたところで、この話を公にはしなかった。仲間を犠牲にして持って帰った情報なんだぞ⁉︎だからそのままで、やめられるなんてできなかった!せめてグリフォンだけを倒したくて。」
ザックが怒りを感情をぶつけるように興奮しながら話す姿をネロはただ無言で見ていた。
「……で?その例のグリフォンはどんな奴だったんだ?」
「ただのグリフォンだよ、見た目もレベルも、ただ違ったのは奴の魔法だ」
「魔法?上級魔法でも使うのか?」
「……わからない、俺もあんな魔法を見たのは初めてだった。威力も速度も段違いで、まるで生きているかのように追いかけてくる禍々しい魔法だった。」
「なんかのスキルとかは?」
「いや、スキルでもない、だからこそ余計危険なのさ。」
もしスキルならまだなんとかなる、スキルはサーチで効果がわかるからだ。
しかし、その魔法がその相手のオリジナルの魔法だったら、情報が一切なく。威力も効果もわからない。下手をすれば即死効果を持っている可能性だってある。
「そして、もう一つ気になったのは奴の額の眼だ。奴が魔法を唱える時、眼の色が黒色から深紅のように紅い目に変わったんだ。」
「赤色の眼……もしかしてロードグリフォンかも?」
落ち込んでいたエレナが少し立ち直ると話に加わる。
「ロードグリフォン?」
「うん、ここら辺では見かけないから、この大陸の図鑑には載ってないんだけど、北の大地にいる赤い目をしたグリフォンのこと、かなり強いらしいけど……ただ」
エレナが少し歯切れの悪そうな顔をする。
「ただ、ロードグリフォンは色も体格も普通のグリフォンよりも違い、眼も全ての眼が赤色で額の眼のみって言うのはいなかったと思うの。」
「環境の問題で中途半端な進化したとか?」
「わからない、もしかしたら新しい種かもしれない。」
いつもならここで目を輝かせてしまうエレナだが流石に先ほどの話の後ではそう言う考えは浮かばなかったようだ。
「……ちょっとしけちまったな、一旦この話は終わりにしよう、さあ、もうすぐ着くぜ。」
少し重い空気になったのを気にしたのかザックが戯けた顔で再び和ませようとする。
二人もそのことを察するとそれ以上は話を広げることはなかった。
――
「ほら、もうすぐ奴の巣だぜ」。
ザックが前にある少し広々とした岩場に指をさす。
確かに何かがいるあとは残っていたがそこにグリフォン自体はいなかった。
「なんだ、今は不在なのか?」
ネロがその岩場に不用意に近づいた、その矢先だった。
「ネロ、上よ!」
「え?」
姿を隠していたエーテルが、突如姿を現し上空を指さした、
そしてすぐさま指の方に目を向けると上から巨大な真空波が飛んできてネロに直撃した。
「ネロ⁉」
真空波の風圧により周りの砂塵が巻き起こる。
そして、砂塵が消え始めると砂まみれのネロが姿を現す。
「……ったく、いきなりなにしやがんだ」
「お、おい!大丈夫か⁉」
「ただの風のだろ?心配される理由が見当たらん」
「ただの風って……」
ネロが空を睨みながら見上げる、すると上にはグリフォンが上空で待機していた。
「アレが例の……」
確かに見た目では、何もおかしいところはなかった、そしてそのグリフォンの額の目に注目する。
「……あれ?額の眼……紫色ですよ?」
「え?そんな馬鹿な⁉」
エレナの予想外の言葉に、ザックも目を細めてマジマジと見る、しかしグリフォンの眼は遠くからではあるが、確かに紫色に見える。
そしてグリフォンはその三つの眼でネロをじっと見ていた。
――狙いは俺か?
自分の巣に入られたのが気に入らなかったのか標的にされたネロが、ニヤリと笑った。
「お前らは近くの岩陰に隠れてろ!」
「ひ、一人で戦うつもりなのか?」
「元々そういう話だっただろう?」
「いや、でも……」
「ザックさん、ネロなら大丈夫ですから」
ザックがエレナに押されながら一緒に岩陰に隠れる。
それを確認するとネロは再びグリフォンに目を向ける。
すると、グリフォンがさっきよりも上昇しており、一度クアァっ!っと鳥の様な咆哮を上げるとそのまま一気に急降下してネロへと襲いかかる。
ネロもすぐさま身構えた。
……しかし、その動きに危険を感じたのか、グリフォンは突如勢いを殺し、手前でとどまった。
「チッ、なかなか察しの良い奴だな。」
ネロが小さく舌打ちする。
グリフォンは、今度は見えなくなるくらいまで高く上空に上昇していく。
「……逃げられたか?飛べる敵は厄介だな。」
流石のネロも空を飛ぶことはできない、ネロが警戒を解いた直後、再びエーテルが大きな声で呼びかけた。
「違う!攻撃来てるわよ!」
「何⁉」
そして上空からは風の魔法が来る。
「これが、噂の魔法か」
ネロは状態異常の効果を恐れ、今度は横に跳んで避ける
しかしその魔法は禍々しいオーラ―が纏い、まるで生きているように軌道を変え、そのままネロに目がけて襲い掛かった。
そしてネロに直撃すると今度は周りが吹き飛ぶくらいの大きな爆風が巻き起こった。
「ネロ!」
「なんて威力だ⁉︎」
岩陰に隠れながら二人が爆風の中心を心配そうに見つめる。
しかし、爆風がおさまると、そこにはやはり無傷のネロがいた。
「……ッてぇ……なんなんだ、この魔法?」
身体に大きな変化はなく、状態異常の効果はないと知るとネロは安堵する。
「……今のを、くらっても何ともないのか?」
「こんな攻撃何発喰らっても死な……」
しかし、ここでふとネロはいつもと違うことに気づく。
――今、痛みを感じた?
ここ数年、ステータスが上がりすぎて、痛みを全く感じなくなるまでなっていたネロにが僅からながらに痛みを感じた。
――
名前通り一切防御を無視してダメージを与える効果がある。
「久々だぜ、痛みなんて感じるなんてよ」
そう呟きながら余裕の笑みを見せるも、内心ネロは少し苛立っていた。
「しかし、なんなんだあいつ……」
「今の禍々しい魔法に色が変わる眼……まさか⁉」
エレナが何か気づくと思わず声を上げた。
「ネロ!あのグリフォンの眼は普通の目じゃない!あの眼はオーマの眼よ!」
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