第27話 レイジとレンジ


港町テットから外に出て北にある町、オルグス。

近くに鉱山がある以外何のとりえもないと言われているこの町には、自然と客足など集まらず、鉱山で働く労働者たちやその家族で成り立っている町であった。


翌日、二人は鉱山のモンスター討伐を女将に名乗り出ると、女将にオルグスの町の住人であり鉱山で働く男、レイジを紹介された。


「しかし、驚いたな、まさかこんな子供が討伐に名乗りを上げてくれるなんてね。」


 肉体労働をしているためそれなりのガタイはしてはいるが、明るい金髪と温厚そうな顔つきで、昨日いた労働者たちよりも気さくで接しやすい相手だ。

 多分、昨日の一件をの事もあって女将なりの配慮で選んでくれた人材なのだろう。


「初めまして、エレナです。そして……え~隣にいるのがネロです。」


 レイジに微塵も興味を持たないようにそっぽ向くネロを申し訳なさそうに紹介するエレナ。

 そんな二人に対してもレイジは優しく微笑みかける、エレナも礼儀正しくお辞儀をするが、ネロは相変わらずの態度だった。


「しかし本当に大丈夫かい?いくら君たちが強いとはいっても、敵は巨大で数人がかりの大人でも全く歯が立たなかったが」

「安心してください、ネロは百人の兵士が束になっても勝てませんから。」


 エレナがずっとレイジと話をしている間もネロは全く口を開かなかった。


 昨日のエレナの言葉に少し心境が揺れながらも、相変わらずネロの行動は変わっていない。

いや、むしろ酷くなっていた、優しいなどと言われたものだからそれを意識してしまい、意地を張るように、杜撰に振舞っていた。

 三人が互いの自己紹介が終ると、早速オルグスへと向かった。




――

「なるほど、つまり二人は、世界中のモンスターを調べるためのモンスター巡りの旅をしていると。」


 オルグスまでの道中の間、レイジとエレナがお互いの情報を交換しあっていた。


「……あ、はい、だから、遠慮なさらずに頼ってください。」


――俺はそんな目的じゃないけどな。


 ネロは心の中でそう呟くが口に出すことはなかった。


「しかし、本当に無償でいいのかい?」

「はい、大丈夫ですよ……あ、ここは島のとは違うのね」

「それはありがたいね、しかし、まさかこれほどとは……」


 レイジが先ほど現れたモンスターの死骸をマジマジと見つめる。


 ここまでの道のりで現れたのは下級モンスターのゴブリン三体とウルフ五体、そしてここら辺ではそれなりの強さを誇るオーガ一体。

 それをネロは瞬時に倒して見せた。


「はい、ネロは凄いんですよ……おお‼︎これは!」

「いや……君も十分凄いよ」


 さっきから目を輝かせながらモンスターの死骸を弄り倒しているエレナに対してそう小さく呟いた。




――

オルグスに着くと二人は町にある一番大きな建物の前まで連れてこられる。


「とりあえず話をつけてくるから少しの間、ここで二人は待っていてくれ。」


そう言うとレイジは一人建物の中へと入っていく。


「せっかく助けてやるっつってんのになにを話をする必要があんだよ。」


外に放置されるとネロは不機嫌になる。エレナは気持ちを察するように苦笑いをした。


「しょうがないよ、向こうには向こうの事情があるんだし、ただそれにしても……」


エレナはふと街並みを見渡す。

元々人が少ない町とはいえ、町は活気がまるでなくゴーストタウンのようにさびれていた。


「やっぱり、これもここを治めている貴族の人のせいなのかな?」

「さあな、俺の知ったこっちゃない、俺がどうにかするのはモンスター討伐だけだからな。」

「うん、わかってる。」

「それにしても遅いな」


ネロは苛立ちを募らせる。



――

建物の中の一室では今、モンスター討伐に関する会議が行われていた。


「と言うことでその二人にお願いしようと思っているんだが、どうだろうか?」


レイジが一通りの経緯を説明すると集まってる者達は沈黙した。

無償で引き受けてくれると言うのは非常に魅力的だが、二人が子供ということと、そして何より貴族というのが最大のネックになっている。


「その二人なら倒せそうか?」


この町、労働者のリーダーである顎に髭を蓄えた少し厳つい男がレイジに尋ねる。


「二人というより一人ですが、はっきり言ってかなりの手練れですね。まだまだ上限はわかりませんがとりあえず町の外の生息しているゴブリンといった下級モンスターはもちろん、オーガすらも瞬時に倒す実力は持っています。」

「ほう、オーガを瞬殺とな」


 その一言で周りから小さく驚きの声が上がる、オーガといえばここら辺ではかなりの強さ持っている。しかしそれと同時に反対の声も上がった。


「その二人ってあの港にいたあの貴族だよな?確かに女の子の方は貴族としちゃ珍しく礼儀正しい娘だったが小僧の方はいかにも貴族らしい奴だったぜ。」


その声にレイジは反論できずに言葉を詰まらせる。

確かにネロの態度は良い印象とは言えない、その一言で傾きかけていた意見が再び元に戻った。


「ふむ、どうするべきかな……」

「一度会ってみませんか?そこまで連れてきていますので。」



――


二人がレイジに案内された場所へ行くと、そこにはたくさんの男たちが集まっていた。


「ふむ、君達が討伐してくれると言う二人だね?」

「はい、ミディール国領土、ガガ島西側領土を治めるカーミナル伯爵家、長女エレナ・カーミナルと、同じくガガ島東側を治めるネロ、ティングス・エルドラゴ伯爵です。どうぞよろしくお願いいたします。」


不粋な態度をとるネロの代わりにエレナが礼儀正しい挨拶をする。しかしその貴族らしい品のある挨拶をするエレナに場の空気は少し凍りついた。


「こ、これはどうもご丁寧に、ところで本当に何の見返りもいらないのかね?」

「はい、もちろん。困っている人々を助けるのにいちいち理由なんて作っていられませんよ。」


 エレナがそう言って微笑みかけると、その言葉に周りから関心の声が上がる。そばにいたネロが「働くのは俺だけどな」と小さくこぼした。


「ま、貴族様は俺達のはした金なんていらねえよな、平民からたっぷり絞った金があるし」

「こらレンジ、よさないか。」


 少し歓迎ムードになりかかった雰囲気を切り裂くように、椅子に座らず壁にもたれかかっている一人の男が嫌味ったらしく言ってくる。


「二人とも、失礼なことを言ってすまないね、こいつはレンジ、俺の弟だ。」


レイジが紹介するとレンジはフンッと鼻を鳴らす。レイジと同じく金髪で少し似た面影はあるものの顎に生えた整っていない無精髭と釣り上がった目つきがレイジとは違ってとっつにくそうな男であった。


「貴族がなんもなくて平民の手助けなんてする訳ないだろ?目的はなんだ⁉︎」

「レンジ!」


 レンジの言葉にネロが殺気をみせると、エレナが笑顔を見せながら周りにバレないように後ろからネロを抓る。


「目的というならそのモンスターを見てみたいってのが一番な理由です。もし、それでも無償というのに不安を感じるならば、ここら辺の地図やら地形を教えていただければありがたいです。」


「おお、それくらいなら」と言う声が上がりだんだん反対の声も少なくなっていった、……一人を除いては


「やっぱり俺は反対だ!こんな奴らや手を借りなくても自分達で何とかやっていけるさ」

「レンジ、良い加減状況をよくみろ!今回は相手が悪い。怪我人も多数出てる、貴族がどうとか言ってる場合ではないんだ。だいたい俺たちでどうやって倒すつもりだ?」

「トラップを買ったり、ギルドに要請したり色々あるだろ!」

「そんな金があるとでも?毎日食っていくのがやっとのこの状況下で。」

「あーそうだったな、貴族様に多額の金を貢いでるからな。だとしても貴族の手は借りねぇ、あんな奴らのせいで俺達がどれだけ苦しめられてると思ってるんだ!どうせそこのガキどももおんなじだろ?」


レイジとレンジ口論がヒートアップし、エレナが少しあたふたしてる中、

痺れを切らしたネロが口を開いた。


「さっきから聞いてりゃゴチャゴチャとうるせぇな!こっちがやるっつってんだから、家畜共は黙って従えばいいんだよ!」


初めて口を開いたネロの言葉に周りに一瞬の沈黙が訪れると、レンジが怒りの矛先をネロに変えた。


「な、なんだと!クソガキ、もういっぺん言ってみろ!」

「なんだ?やっぱ家畜の頭じゃ俺の言葉は難しかった?ならもっと簡単に言ってやる。黙って従え、愚民ども。」


 ネロの言葉に激昂したレンジが飛びかかろうとするも周りに押さえつけられる。


「止せ、レイジ、少しは落ち着け!」

「離せ兄貴!これだから貴族には、いっぺん思い知らせてやらねぇと……」

「ネロも挑発しないで!」

「うるせぇ、引っ込んでろ!こういう奴らには一度立場を教えてやらねえ――」

 

そこまで言うと不意に頭をピヨピヨハンマーでどつかれる。


「ちょ⁉おま⁉なに⁉やめ……」


 エレナがネロを止めようと無我夢中でハンマーを叩き続ける。

 そしてエレナが我に返った頃には、ハンマーで叩かれ続けたネロはいつの間にか気絶していた。


「あ、ネロ⁉︎……ま、いっか。」


 一度は慌てるそぶりも見せるも、状況的に考えればこの状態が一番いいと判断すると、そのまま置いておきエレナが周りに深く頭を下げる。


「皆さん、ネロがほんとにほんとにホン、トーに、失礼なことを言ってすみませんでした!」

「……いや、こちらもレンジが大人気なかったね。とりあえずこいつの説得はしておくから今日はうちで休んでくれ。ここから赤い屋根のところがうちの家だから」


そう言われるとエレナはもう一度深くお辞儀をして部屋に出るとネロを引きずりながら赤い屋根のの家へと向かって言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る