#4 戦闘&ダンシング
ミカとナツミは高崎セントラル駅からでる。
「大丈夫か?」
「え?」
「草津に比べて空気が悪いからな。気分とか大丈夫か?」
「あ、はい。大丈夫です。ありがとうございます」
様々な悪臭とぎらつくようなネオンの光、そして、重度に汚染された大気……地方から出てきた人間の中には、気分が悪くなるものも多いらしい。ミカはタクシーを止めると乗り込む。
「どちらまで?」若いドライバーが聞いてくる。
「このメモの場所まで」
「ここですね。わかりました」
タクシーが走り出す。受け渡し場所は例の重役の別宅だ。個人的に雇用するというのは噓ではないらしい。ミカがナツミを見ると落ち着いている……「個人的な雇用」の意味が解っているのだろうか?
「大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
「なあ、もし……」
ナツミとの会話中にミカは違和感を覚える。タクシーは大通りをそれて脇道へ。
「なあ、道はあってるのか?」
「ええ、こっちの方が近道なんですよ」
何気なくミカはドライバーの証明写真を見る。そこには年老いたドライバーの写真……
「そうだ、ナツミ!ちょっとこっちにこいよ!」
「え?」
ミカはナツミを抱き寄せる。
「な、なんですか?」
「いやな。これで最後だから、ちょっと楽しませてもらおうと思ってな?」
「え?え?」
タクシーは急カーブに入り大きく減速する。
「行くぞ!」ミカは左腕でタクシーのドアを思いっきり殴りつけ、破壊するとナツミを抱き車から脱出する。
「くっ、にげるぞ!」
ナツミの手を引き路地に逃げ込む。壁にはパイプが複雑に絡みところどころ蒸気が噴き出している。
右! 左! 右! 右!
走り続ける。しかし
「どうも、またお会いしましたね」
一つの影が立ちふさがる。ミカは影を見た瞬間、躊躇わずに銃撃!
「無駄ですよ」
しかし、銃弾は赤熱した刀に止められる!
ミカは立ち止まり相手を確認する。カフェで出会った男だ。男の目は緑色に光っている。銃弾を止める超反応……サイボーグ化した目と神経ブーストによるものなのだろう。
「さて、こうしてお会いできましたが、あなたにはここで死んでいただかなければなりませんね」
ミカはナツミを突き放しながら銃撃する。ナツミは壁の側で座り込む。
「無駄ですよ!」
男は銃撃を弾きながら接近。刀が迫る、下手に受け止めれば焼き切られる。
左手で刀を弾くはじく。
アームの表面が溶ける。
超反応でもかわせない距離での銃撃!
「くっ!」
しかし、弾切れ!男の鋭い蹴りによってミカを壁にたたきつける。
「ぐはぁ!」
かろうじて立つことはできるが、動くことはできない。
「ここまでですね。ですが、簡単に死ねると思わないことです。私を馬鹿にしたことを十分に後悔していただきましょう」
「がぁぁぁぁぁ!」
アームの肘から先を斬り落とされる。気を失いそうになるほどの激痛……各種の神経接続が無理やり切断される痛みは生半可なものではない。
「私をコケにした罪はこんなものではありませんよ?」
男は刀を振り上げる。
「や、やめてください。僕が一緒に行きますから……これ以上は」
ナツミが声をだし、男を止める。
「私たちに抵抗せずについて行くと?」
「はい」
「そうですか……しかし、彼女には大きな借りがありますからねぇ」
ミカはそのやり取りを見ている。ミカは思う。冷静に考えればこのまま助けられるのが最善の方法かもしれない、と。しかし、同時に自分の心がそれを否定する。ミカが死ねばナツミは連れ去られる。無意味な行動かもしれないが、彼は自分の身を挺してミカを助けようとしてくれている。
「助けなくちゃな……」
ミカが、周囲を見る。蒸気が噴き出す太いパイプ。ミカはゆっくりとパイプのそばまで移動する。男はまだ気づかない。
「おい……何、無駄口を、叩いてるんだ? 女一人、殺せないのか?」
男が振り向く。ミカは必死に罵倒する。
「おいおい、こんな美人よりも、そんな坊ちゃんの方が……好みか? この変態野郎が……」
「まったく、死にぞこないが……いいでしょう。殺して差し上げます!」
男が近づき大きく刀を振り上げる。
壊れた腕でミカはパイプを思いっきり叩く!激痛が走るが、今はその痛みが気を失うのを防いでくれる。
「なっ!」
蒸気が噴きだす!サイボーグ化した目は蒸気による急激な変化に耐えられず、一瞬だが機能がマヒする。だが、ミカにとってはそれで十分だった。
「このクソッタレがぁ!!!」
最後の力を振り絞り、ミカが壊れたアームで力の限り男の顔を殴りつけ、アスファルトに叩き付ける。更に渾身の力で男の頭を叩き潰す!男の頭はトマトのように潰れ絶命する。
「ミカさん!」
ナツミが近寄るが、ミカはふらつき壁にもたれかかる。
「逃げろ……」小型ハンドPCの留め具を口では外す。
「え?」
「俺は、もう動けない、のんびりしてたら……後続の部隊が来る……」
「で、でも!」
「こいつを、持っていけ、金ならある。雇い主の、ところに、行ってもいいし、自由になるのでも、なんでもいい……」
「な、なんで、そんなに優しく……」
ミカはナツミに力なく抱きつき、キスをする。
「惚れた弱みって、やつさ。さあ、いけよ……あ、そうだ、一つだけ頼みが、ある。たまにでいいから、俺のことを、思い出してくれよな」
精一杯の笑顔、しかし、ナツミはミカを横たえると。その場を動こうとしない。遠くから足音が聞こえ始め、だんだんと近づいてくる。
ミカにはもう話す力も残されていない、音さえも聞こえない、ナツミの顔はまだ見えている。背後から重装備の兵士がゆっくりと迫ってくる。
兵士がナツミの肩に手をかけようとする。
あ り が と う
ナツミの唇が動いた次の瞬間、兵士の首が飛ぶ。
その手にはヒート・カタナ!ナツミは疾風のように兵士たち接近する。兵士たちも即座にナイフや近接装備に切り替え近接戦闘に移行する。鍛えられた兵士たちなのであろう、しかし
ああ、綺麗だ……ミカはその光景を見、心の中でつぶやく。
斬る、払う、断つ、躱す、突く、受け流す、打つ……血しぶきが舞う凄惨な光景……だが、静寂の中で、まるで踊っているかのような戦い……
それは瞬く間に終わると、ナツミがゆっくりと近づいてくる。
血まみれで、それでも美しさは変わらない……
ミカはその光景を最後にそのまま気を失ってしまった。
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