No.56 児童ポルノはそそりません?


「あ、これは失礼。申し遅れました。わたくし校長の菰田こもだです」

「ども、高天原です」


 手を出して来たので、握手を交わす。菰田校長の後ろでは教師人生終わった......みたいな顔をして肩を落とす伊福貴。


「それで、問題が解決できるってのは......」

「えぇ、実はわたくし校長も兼ねてスクールカウンセラーも務めているんです」

「スクールカウンセラー......ですか」


 何だそれ。俺の頃には無かったぞ。あれか、ジェネレーションギャップってやつか。


「簡単に言うと、悩みを抱えている生徒との相談役です」

「あぁ、なるほど」

「あの、確認したいんですが、現川うつつがわ一夏いちかさんが今回の主犯格なんですよね」

「はい、そうです」

「やっぱりですか......」


 菰田校長がため息交じりに俺に確認を取った。


「やっぱり、というのは?」

「実は我々職員も、現川一夏には手を焼いていまして......」

「はぁ」

「過去にもこのようないじめがあったんですよ。しかしいくら指導してもなおらないんです」


 マジかよ。現川一夏ってそんなにヤンキーだったのか。俺の頭の中でのイメージはケバケバした黒ギャルだったんだけどなぁ。


「しかもいじめの対象は、皆不登校生なんですよ」

「それは、現川さんに何かしらの理由があるんですか?」

「......高天原さん、スクールカーストというものをご存知でしょうか」

「え、あ、はい。確か生徒間における階級の差みたいな」


 これは知ってるぞ。昨日平戸さんに教えてもらった。ひどいところでは最下層の生徒はトップの生徒と目も合わせちゃいけないとか。


「そうですそうです。はっきり言って、原因はこれなんです」

「というと?」

「現川一夏さんはスクールカーストのトップに君臨しています。つまり、誰も彼女に逆らえない状態なんです。現川さんが気に食わなければいじめるし、別に理由は無くてもいじめることもあるんです」

「そんな理不尽な......」


 理由があろうがなかろうが、現川一夏はスクールカーストトップだからいじめてもいいみたいな事か。何故なら誰も逆らう事ができないから。理不尽だが、これが現実のようだ。

 しかもカースト制度は生徒だけにとどまっていない様に感じる。証拠に、校長の後ろに突っ立って放心状態の伊福貴がそうだ。あいつは自分は現川一夏に教師として見られていないのだろう。


「えぇ、本当に理不尽なんです。ですが、これも現実。どうにか切り抜けなければいけない。わたくしが不登校生と話をして、頑張って学校に登校しても現川さんに追い返される形になってしまうんです」

「指導しても変わらないんですか?」

「むしろひどくなってますね。反抗期ですからね、大人の言う事を素直に受け止めようとしない」


 まぁ、それは仕方が無いだろう。だが、いくらなんでもひど過ぎだ。理不尽極まりない。

 犯罪者が言えた口ではないが......。


「そこで、わたくしが推奨しているのがですね。保健室登校というものなんです」

「保健室登校......」

「はい、名前の通りで教室ではなく保健室に通うものです」


 確かこの前のドキュメンタリーでもやってたな、保健室登校。教室じゃなく保健室に通い、徐々に学校に慣れていくというやつだ。


「学校には来たことになるので、登校日数にちゃんとカウントされます。不登校の子にはまずこれで、学校に慣れてもらうようにしてるんです」

「はぁ、しかし授業はどうなるんですか?」

「授業は......その、自習という形になるんですが。お気に召しませんでしたか?」


 いや、別にお気に召さなかったわけじゃない。というか、まずはしっかり現川一夏に指導を行う言質を取らねば。

 その事について、菰田校長に問いただすと、


「えぇ、それはもちろんです。担任の伊福貴先生とわたくし、本人と保護者さんでしっかり指導をしていきます。何せ言葉の暴力、物理的暴力に加え犯罪まがいのことをやらかしたのですから」

「犯罪まがいというか、普通に犯罪ですけどね」


 児童ポルノ所持罪に、強制わいせつ罪は適応されんのかな。


「重々承知しております。今度こそは改善するようしっかり指導いたしますので。今回は訴えたりなどはなさらないということで、よろしいんでしょうか」

「えぇ、さすがにね。まだ中学生ですし」

「ありがとうございます。あ、話がずれてしまいましたね。保健室登校のことですが」


 おっと、そうだった。俺としては別にどっちでもいいと思うのだが、折角学校に登校したというのに授業せずボーっとしておくのもどうかと思う。

 それに師匠は現川一夏に学校に来たらヌード写真を拡散すると脅されているのだ。もし学校に来ているとバレれば一大事だろう。

 うーん、どうしたものか。


「五島さんは、どうしたいですか? いきなり教室ではなくて、保健室で徐々に慣れていくんです」

「わたしは、教室で授業を受けたい......。でも、それが出来ないのもわかってるから......」


 師匠もお悩みのようだ。ま、そーだろうな。今の師匠にとって学校に行く行かないは問題じゃない。

 現川一夏に復讐出来るか出来ないかなのだ。

 ならばどちらでもいいだろう。


「あの、明日一回試しで保健室登校ってことでいいですか?」

「はい、もちろんですとも。イヤだったら、教室に行ってもいいと思いますよ。明日には現川さんを指導しますので」

「了解です。じゃ、行きましょうか師......椿」


 危ない危ない。伊福貴と菰田校長の前で師匠と呼んでしまうところだった。設定は従兄だからな。


「それじゃ、五島さん。明日は教室じゃなくて保健室に来てください」

「......はい」


 俺たちが生徒指導室を出ようとしたとき、菰田校長が深々と礼をした。それを見て、放心状態だった伊福貴も慌てて礼をしていた。




「ふ~ん。じゃ、一応は学校に行けるって訳なのね」

「わたしは学校に行く行かないはもうどうっちゃいい! わたしのあいつらへの怒りは指導するってだけじゃ収まらないぞ!!」

「まぁまぁ。あの感じはきっと停学ぐらいにはなりますから」


 ソファの上でピョンピョン跳ねて憤怒する師匠をなだめつつ、今日あったことをサヤ姉に話している。


「でも、スクールカーストなんてあたしたちの頃はなかったわよ」

「俺もそんな詳しく定義が定まってたわけじゃないけど、そういう風潮はあったんじゃないかな」

「僕は常に最下層の住人だったからね、友達いなかったよ。分かるなぁ、ぼっちとかいじめられっ子の気持ちww」


 平戸さんが遠い目をして笑う。あんたの場合は、恐れられてて誰も近寄らなかっただけだと思うけどなぁ。


「それと、その担任の先生よ。イマドキの若い教師って皆そんな感じなのかしら」

「いや~、あいつだけだろ」

「わたしらに言われても、どうしようも出来ないことばっかりだったぞ」

「そいつは、相当のクズ教師だな」

「うわっ、カズか。いつの間に来てたんだよ」


 後ろから突然かけられた声に飛び上がってしまった。声の主は結婚詐欺師、佐世保させぼ和人かずひと。通称カズ、ナルシー(彼杵そのぎだけ)。


「他人の親御さんに自分の愚痴を爆発させちまうような教師は、ダメだダメ。クズクズ」

「カズにだけは言われたくないと思うぞ、全人類が」

「そこまで規模広い!?」


 ん~、カズのクズさ加減は春昌はるまささんとどっこいどっこいだからなぁ。


「それはどうだろうなぁ......w」

「え、何がですか?」

「本当のクズ教師は、伊福貴じゃないのかもって話だよwwww」


 どういうことだ。クズ教師は伊福貴じゃないかも?


「ま、僕の気のせいだと思っておいてくれw」


 そんな思わせぶりな態度を取る平戸さん。

 だが俺たちはまだ分かっていなかったのだ。

 

 クズは他にもいたという事を......。

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