第25話 何かが起きた


あいつら・・・・の青い点は、もう無いな」

 俺の口から独り言が漏れる。


 あいつら・・・・……ネギとサルケンの2人組だ。

 最後に2人組の青い点を確認したのは、もう2時間ぐらい前の話し、今、千里眼マップに彼らの姿は映ってない。

 今いる場所は、奴らに襲われた場所まで差し掛かった所だ。

 あの時の奴らは何を勘違いしたのか、先行していた聖服組の後を尾行して来て、集団から別れた俺と穂弓を襲おうとした。

[ その時俺は、サルケンに剣で刺されたが、聖服の力は圧倒的で、怪我1つせず、肉体強化された俺達の敵ではなかった。


「さあ、千里眼マップに映ってないのなら、ダンジョンに始末されちゃったのじゃないかしら? 自業自得よ」

 彼女は、冷たく言い放った。

 俺も同意だ、いきなり人を刺すような奴を救おうとまでは、全然思わない。

 シモベのレベルが上っていた場所に放置されたネギとサルケンの運命は、このダンジョンが決めただろう。

「ああそうだな、最後まで・・・・迷惑な奴らだった」

 俺の言葉に少し考える素振りで、彼女が答える。

「うん、多分この程度の場所では大丈夫・・・だわ。ダンジョンには迷惑・・な死に方もあるしね」


 ……迷惑な死に方?


 彼女の言葉に少し引っかかったが、俺達は枝道に残っていたシモベを掃討しながら、元来たY字路まで進む。


 途中、レベルアップの機会が訪れたので、またガバメントの進化を選択した。

 基本はガバメント・MEUピストルのままだが、1つ楽しい機能が追加されていた。

 サプレッサー減音器が装着できるようになった。

(※サイレンサー消音器ではない。発射時、銃口から噴出する可燃性ガスが炸裂する時の音が、あの大きな発射音になる、この銃口部分の音を筒の中に複数作られた金属の部屋で囲って減らす役目がサプレッサー減音器である)

 発射音は全部消えないが、亜音速弾の性質上、音速を超える銃よりずっと音を抑えられるので、離れた場所にいるシモベに囲まれる心配は減ったと思います。

 うーん、いいねえ。ニヤニヤ。

 後それから、サプレッサー減音器装着して撃つと、反動がかなり減ったので、連射する時に連続で当てるのが楽になったのが儲けものでしたよ

 良い物だけど、問題もあり、ジャムが怖いのでそこは覚悟して使う必要がありそう。

 ジャム……この場合は、エジェクション トラブル排莢不良の心配ですね。

 発射ガス圧も変化するので、連射がキツイかなあ、でもガバメントだからその辺りは余裕のある設定になってるようで、今のところは問題は起きてない。

 ジャムったらさっさと銃は諦めて、ポーチに仕舞った日本刀の出番にする事にします。



 さて、俺がニヤニヤしながらミズキさん達と別れたY字路まで戻った頃、2人の間で問題が起きる。

 水が無くなった。

 スタートの時、水の補給を完全に忘れていた俺が、分けてもらっていた水を使い切ってしまっていた。

「すまない、一本しか持って無いと思わなかった、君の分まで飲んでまった」

「夕夜が飲みたそうだったので、止めなかったけど、私の手持ちはそれだけよ。残り時間は、後3時間ぐらいあるわね」

 彼女は、自分のポーチからスマホを取り出し、時間の確認をしていた。


「残り3時間か……どうするかな」


 ちょっと中途半端な時間。

 我慢すれば大丈夫かもしれないけど、水が無いと思うと急に欲しくなる。

 あ、そうだ、スタート地点まで戻れば、クラスの奴ら大量に水を持って降りてきてたはず。

 あいつら皆、武器と一緒に掴めるだけ水を持ってきて、中央に置いてた。

 しょうがない、一旦戻って、あの水を持ってくるか。

「穂弓、スタート位置まで水を取りに戻ろうか?」

「うん、そうしよう」

 彼女は、少しでも2人で移動できる時間が取れるのが嬉しいようだ。

 


 2人がスタート位置まで戻ろうと歩き出した時、千里眼マップ上に、俺たち2人以外の青い点3つが、ここへと移動しているのが見えた。

 ?

 誰か3人が、最初にスタートした方向から走ってきている。

「穂弓、また青い点が3人分近づいている、走ってるらしい、すぐに来るぞ」

「了解」

 2人は自分の武器を出し、警戒をする。

 俺も聖服の右太もも部分にあるホルスターから、MEUピストルを引き抜きサプレッサー減音器を外して、両手で通路の先へと銃口を向ける。


タッタッタタタタタ

 最初に聞こえたのは、足音。

 続いて、通路の薄闇から、人影が浮かんできた。


「止まれっ!」

 俺は鋭く誰何《すいか》する。

 前から走ってくる人影は、それでも走る速度を落とさない。

 聞こえてないのか?

 もう一度声をかけ、警告をする。

「止まれっ、撃たれたいのか?」

 止まらない。

 しょうがない、威嚇射撃をする。


パンッ!


 斜め下に銃口を向け、威嚇射撃をした。

 その音に驚いたのか、前からきた3人は、ようやく止まった。

 お互いの顔が見える距離まで近づいていて、誰が来たのか分かった。

 確か3人とも陸上部の女子だ。

 一番手前から、野口、渋井、高橋の三人組が息を切らして、今にも倒れ込みそうになっている。

 その顔は恐怖に引きつっていた。

「ゼッゼッぜったっ助けて」

 ネギやサルケンと違って、どうやら俺たちへの攻撃の意志は無さそうだ。

 こいつら何かから逃げてきたのか?

「どうした、何が有った?」

「ば、化け物、化け物がきた」「死んだ、男子も何人か分からないけど死んだ」「逃げてきたの」

 一度に3人がまくし立てるように喋って聞き取り難いが、スタート位置にシモベの襲撃があったようだ。



 パニックになっていた3人を落ち着かせ、スタート地点で何が起きたのか、話しを聞き出す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る