第21話 童貞の言い訳

……ふう


 って、え?

 俺1人ぼっちになってるじゃん。


 索敵マップを観ると、周りには赤い点は存在せず、ちょっと先のメイジゴブリンを倒した辺りに青い点があった。


 冗談だろ?

 パーティー組んでる俺を置いて、1人で行っちゃったのか?

 いや、嫌われてるのは分かってるけど、捨てていくなんて、いくらなんでも酷すぎないか?

 さっきの戦闘でも、打ち合わせや連携は取らないし、自分勝手だし、いくら美人だとは言ってもこれは非道いだろ。

 きちんと抗議しないと、こっちが危ない。





~◆◇◆~



 俺は急いで彼女のいる所まで走っていくと、ちょうどメイジゴブリンの残骸…塩の塊の中から、少し大きめの魔石を掘り出していた。


 すぐ後ろに立ったのに、こっちを振り返ろうともせず、無視されている。


 ……やっぱり言わなきゃダメか。


「穂弓さん、ちゃんと話しさせてくれないかな?」

「……」


 はあ、やっぱり無視か。真っ直ぐ言うか。


「あのさ、今からミズキさんの所に戻りませんか? もう二人きりは無理ですよね」

「……」

 彼女は塩の塊を触り続けて、全然こちらに反応してくれない。


 ん?

 彼女の背中、小刻みに震えている? えー、笑われてるのか。


 急速に自分の中の怒りや、他の感情が冷えていく。


 もういいや、お別れ言って、彼女の前から消えよう。


「はあ……そんなに俺の事嫌いなら、俺、あんたの前から消えるよ。ソロでやるからとりあえずミズキさんの所に行こう、送って行くからそこでお別れしよう……なあ、聞いてるのか?」

 俺は彼女の肩に手をかけ、振り向かせようとした。

 黒く長い髪の毛がはらりと乱れて横顔が見えたが、すぐに俺の手を払って、顔を背ける。

「触らないで」

 震える声で拒絶された。


 あれ?

 見てはいけない物を見た気分。


 今見たのが幻影じゃない証拠に、彼女の顔の下の白い塩に、ポタポタと雫が落ちている。

 彼女の肩が小刻みに震えていたのは、泣いていたからだった。


 ……?

 えっ? えっ? えっ?

 ちょ、俺何やったの? 彼女を泣かせちゃったの?

 あれれれえ?

 さっきまで俺の方が泣きたい気分だったのに、これはいったいなんで? え?


「ちょっちょっ、どうしたあ? 何が有った? ……あ、俺か、俺が触ったのがそんなに嫌だったの? ゴメンね。って、いやっ、あのっ、えーどうしよう」


 いや、本当に困った、正直穂弓さんは超美人で、ただでさえどう接すれば良いのか分からないのに、その人が泣いてて、どうすればいいの? パニクるわあ。


「えー、何でだー……って、俺ってそんなにキモいのか。そうかあ、キモいのかあ、もー、勘弁してくださいよお。ほんとゴメンなさい、むしろ神様ごめんなさい。だからもう泣かないで、お願いです」


「ち…う」


 ……ん? 穂弓さん何か言ったかな?

「え?」

「ちがう」

「えっえっ、何が違うの? ゴメンね、俺キモくてゴメン」

「だから違うって言ってるじゃないっ!」


 立ち上がりながら黒い髪をブンッと降って、こっちを睨んでる彼女の顔は、なんと言えば良いのか……こわい。


「あ、はい、ごめんなさい」

 とりあえず、謝っておこうね、うん。

「そんな事で謝られたくないっ、うう、夕夜が覚えてないのが悪いんでしょ」

 あー、泣きながら怒ってるや。

 覚えてないのが悪いって言われましてもね、色んな部分に記憶がないのに……理不尽だ。

「ごめんなさい」

「だから謝らないでって言ってるじゃない、バカ」

 今度は、涙を止めようと力を入れている。

 両腕を伸ばし、両手をギュッと握って、うつむき気味になっている。


 ナニコレ? 童貞の俺どうしろと?


「あ、あのですね、お互いに行き違いがあるみたいです。だ、だからね、少し落ち着いて話しをしようよ、ね」


「ううう、バカ、ヒック、夕夜のバカ、うう、本当は、謝りたいのは私なのに……あの日夕夜が居なくなってからずっと苦しくて、ずっと謝りたくて…うう……やっと逢えたのに…やっと逢えたのに何で私の事覚えてないのよ、それに私の目の前でこれ見よがしに、他の女の子と話なんかしちゃって、うわああああああ」

 とうとう、小学生のように大泣きしだした。


 こんな時、俺がイケメンだったら全部解決なのに。

 イケメンなら抱きしめて慰めれば全解決なのに。

 神様は、俺をどこにでもいる冴えない男子高校生にしてしまった。

 残念な俺が、彼女みたいな美人を抱きしめたら、それは事案だ。

 通報されて、関係各所にFAXで不審者情報として警戒されてしまう。

 詰んだ……


 俺が馬鹿みたいに突っ立っていたら、彼女の方から俺の胸に顔をうずめてきた

「ううう、夕夜がまた私たちの事捨ててどっか行っちゃう。私の事忘れて消えちゃう、ううう、行かないで……捨てられちゃうのはやだ」


 はい?

 こ、これは……あれか?

 恋愛物で見たことのある、俺には縁がないと思われていた世界。


 こ、この場合、か…肩を抱いてアレをナニしてコレすれば良いのか?


 ゴクンッ!

 勇気を出せ、俺。


 ふ、ふおおおおお。

 俺の中の勇気回路を全開で開き、震える手で、か…肩を握ろうとした。

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