年上の幼なじみがオタクで頭が痛い
斉藤ナオ
第1話 脱オタ宣言とショタ疑惑
1話 脱オタ宣言とショタ疑惑
フラれた。
2月のバレンタインに告白されて、今は4月。
俺、
俺たちは1年の時は同じクラスだったが、2年のクラス替えで向こうが2組、俺は6組とわかれた。
でも俺は幽霊部員(ちなみに陸上部)だったので、成田が部活のない日に一緒に帰ればいいし、休日には遊びに行こうとも思っていた。
「坂井くんとは、もう••••••つきあえない」
始業式の帰り、成田に呼び出されて、ウキウキで行ったら••••••。
「え? 俺、なんかムカつかせることした?」
「ムカつくと言うか••••••」
「何? 俺が悪かったなら、謝る!」
必死か! 俺?
「あーっ••••••、はっきり言っちゃうと!」
な、なんだ?
「坂井くん、オタクなんだもん!」
はい、回想終わり!
俺は頭を振って、あらためて自分の部屋を見回す。
大きな本棚が1つ、2つ、3つ••••••。
マンガとラノベでギッチリだった。
ラノベは奥と手前の二重で置いている。
とはいえ、俺が買ったのなんて、ほんの一部だ。
じゃあ、誰がって話になるんだろうけど••••••。
「洸太ーっ!」
来たか。
扉がバンッと開く。
「な、何を考えているのよ~!」
「これに詰めて、ここにある本、全て売ってやる!」
「な、な••••••」
ワナワナとしている侵入者に、俺はかき集めた紙袋を見せながら決意表明した。
「兄ちゃん、全部捨てちゃうの?」
小学4年の弟も心配して部屋に入ってくる。
「捨てない。全部、売るんだ。
「でも、ミーのじゃないの?」
「なんでウチに美月のマンガがあるんだ? 俺の部屋にある本をどうしようが、俺の勝手だ!」
「ひ~ど~い~よ~!」
あぁ、今まで静かだったのに••••••。
「なんで? なんでいきなり売るとか言いだすの?」
あぐらで作業していた俺に、四つん
ため息をつく。
亮太を見ると扉に半分だけ身を隠していた。
お前か、言ったの••••••。
犬みたいな格好で俺を
隣りに住んでいる高校1年で、俺たち兄弟の幼なじみ。母親同士が昔からの友だちで、小学生のころは一緒に旅行にも行ったりしていた。
長いストレートのはずだが、無造作に後ろで束ねて、前髪はピンで目にかからないようにしている。目がいつも笑っているみたいに細い以外は整っていると言えなくもない。
ただ、メガネに中学ジャージ姿の美月は身長が150センチ以下ということもあって、どう見ても中学生にしか見えなかった。
ジャージも今の1年と同じだから、一緒に外を歩いたら俺が上だと絶対思われる。
もう1度、ため息をつく。
「なんで売るかって? い・ら・な・い・か・ら・だ!」
「ウソだーっ! 洸太だってめちゃくちゃ好きなの、いっぱいあるって言ってたじゃん!」
「そうだ。好きなのも、もちろんある。でもな••••••」
本棚からあふれそうな、いや一部あふれているマンガを見て俺は言った。
「少女マンガや同人誌は別だ!」
+++
経緯を話そう。
まず、中井美月。
こいつは重度のオタクだ。
マンガ、ラノベ、ゲーム、同人誌をこよなく愛する二次元人だ。俺も小学5年でこいつに会うまでは、普通にマンガは読むし、ゲームもしていた。
が・・・。
おもしろいからと言われるがまま、少女マンガやちょっとHな青年誌、ラノベに至るまで、俺は美月の英才教育をいつの間にか受けていた。
受けてしまっていた••••••。
まぁ、確かにおもしろいと思うものもあった。
しかし••••••。
「あげるから、好きな時に貸して!」
今にしてみれば、美月の策略だったとしか言いようがない。こうしてみるみるうちに、俺たちの部屋には美月のコレクションが増えていった。中には亮太には見せられない(っちゅーか、18禁だから俺も美月もダメだろう)同人誌まである始末だった。
この見た目でよく買えるな••••••。
この1年は美月が受験だったこともあって、話す機会もなかった。俺も中学1年になり異性である美月に対して話しにくくなっていたから調度よかった。
そして美月の影響をモロに受けた俺は類友というべき友だちとよく遊ぶようになっていた。そいつらとは話をしていて楽しかったし、家にいる時はマンガやラノベを読んでいた。
こうして俺の中学1年は過ぎると思った矢先、バレンタインに告白された。
友だちからはリア充爆発しろ!とか色々言われたが、俺は普通に嬉しかった。
成田萌香はかわいいと思ったし、初めてのことで舞い上がっていた。ホワイトデーのお返しもしたし、映画にも見に行った。春休みが終わって、学校で成田と会うのが楽しみだった。
そして、冒頭に戻る••••••。
禁煙して肺がもとに戻るのに5年、10年かかるっていうのを聞いたことがある。今すぐオタクをやめないと、高校でも同じ目に合うんじゃないか?
ゾッとなった俺は、こうして脱オタを決心した。
••••••したわけだが。
+++
「お世話になった同人誌やマンガ、ラノベというものは、常に心にあって、ふとした瞬間に再会したくなるのですよ!」
「黙れ、クッチーか!※1」
「くっ、素晴らしいこの反応速度、この戦闘能力!」
「また、古いところから。ゼクス・マーキスか! トールギスみたいに、こいつらともおさらばしろ!※2」
亮太が俺たちのやりとりを楽しそうに見ている。やめろ! そんな純真そうな瞳で見るべきものじゃない! そう、俺たちが生まれる前のアニメネタで盛り上がっているこの事実が問題だ••••••。
こんな
「美月。これらは俺にくれたんだよな?」
「・・・そうだけど。本当に売っちゃうの?」
「売る!」
幻となったリア充ライフを奪った元凶を消すことに、俺はなんのためらいもなかった。
「ミーがかわいそうだよ!」
そこに突然、亮太が間に入ってきた。以外な伏兵に一瞬戸惑ったが、すぐに態勢を立て直す。
「亮太。この中には美月も兄ちゃんも見ちゃいけない本もあるんだ。警察に捕まりたくなかったら処分するしかないんだ」
18禁ネタをだされて、何も言えなくなる美月。その様子を見た亮太は部屋から出ていった。
な、なんで俺が後ろめたさを感じなきゃいけないんだ。ここで負の連鎖を断ち切らねば!
「何やってんの、あんた••••••」
その声に俺は肩をビクッとさせてしまった。振り返ると、お盆にジュースとお菓子をのせて、母さんが立っていた。
「美月ちゃん、久しぶりねぇ」
「お邪魔しています」
しおらしく頭を下げる美月をジト目で俺は見ていると、母さんがとんでもないことを言い出した。
「それにしてもスゴいわよね。立高に受かるなんて。うちの洸太なんか、ものすごい通知表持ってきたんで、ボコボコにしてやったわよ。それでね、美月ちゃんにお願いがあるんだけど••••••」
「・・・はい?」
「洸太に勉強を教えてあげてくれない?」
な、なんちゅーこと言い出すんだ、この人は!
美月も突然の申し出に戸惑っているみたいだった。
が••••••。
美月が悪そうな顔で一瞬俺を見ると、次には優等生スマイルで母さんに向き直った。
「わかりました。中学2年は大事な時期ですからね! 私で良かったら!」
「本当! ありがとう。洸太ったら最近は生意気だけど、昔はミーミーってべったりだったものね! 良かったわね、洸太」
「な、何勝手に決めてんだよ! そんなの・・・俺には••••••」
「は~い~? 何か文句でも?」
「・・・です」
「聞こえなかった」
「ないです!」
この時、俺涙目だったと思う。
そこに美月が母さんに、いかにも申し訳なさそうな雰囲気で
「あの、お願いがあるんですが••••••」
「あ、もちろんバイト代もだすわよ」
「いえ、バイト代はいいので、そのお恥ずかしい話なんですが、部屋にマンガとかあると私も集中できない時もあるので、できたら洸太くんの部屋にそういった本、置かせていただけると••••••」
て、て、てっめぇ~!
何が集中だ、俺の部屋より魔窟じゃねーか!
あと、そういった本という言葉で18禁同人誌までくくるんじゃねー!
本当、血の涙がでそうだよ••••••。
母さんは当たり前のようにOKをだすと、あとはお若い人同士で、と言って消えた。
「真美さん、相変わらずファンキーだったなぁ」
問題は全て片付いたと言わんばかりに笑っている美月の頭を、俺は手にしていたマンガで思いっきり
+++
「勉強見てもらうのはアナタなんだから、細かいことは2人で決めなさい」
放任主義を超して、もはや放置だな••••••。
というわけで美月と話した結果、英語と数学を見てもらうことにした。週2回7時から1時間半。
マジか••••••。
俺とは反対に美月はオススメの参考書や問題集を買って楽しそうにしていた。
そして、今日が第1回目。前回のテストを見たいと言いやがったので、しぶしぶ見せる。
「パラメーター初期値、低いなぁ~。無理ゲーとは言わないけど、キツいなぁ••••••」
こと勉強に関しては何も言えないことは自覚している。ただ、ゲームで例えるな!
「美月って学校の勉強についていけてるの?」
俺としてはわずかばかりの反撃のつもりだったが••••••。
「学年で10位前後?」
チーターじゃねーか!
そして、30分後。
「••••••となります。わかった?」
悔しいが理解できちまった。きっと参考書がいいんだろう。
「じゃあ、ここからここ。アホみたいに解いて。パターン覚えてもらうから。あ、あと次回ここテストするから」
問題集の方も少しやり方が違うだけで、さっきやった同じ方法で解けた。おまけに次にここをテストにするなんて言われたら、頭に入るまでやるしかねーじゃねぇか。
ふと美月を見ると俺の横でマンガなんか読んでやがる••••••。母さんがいくら渡すか知らねーが、ムチャクチャ楽なバイトじゃね?
「ミー、大丈夫?」
亮太が部屋に入ってくる。もともとこの部屋は兄弟共用なので俺なんかは全く気にしてなかったが、母さんから邪魔するなとか言われてたんだろう。
むしろ気になったのは美月のテンションの上がり方だった。こいつの亮太大好きオーラは、この間久しぶりに来た時にも感じていたが••••••。読み途中のマンガを放り出して満面の笑みで迎え入れる。
「全然いいよーっ、どうしたの?」
俺の第六感が何かを察知する。俺自身も感じていたが、美月のかわいがり方には幼いながらも引く時があった。それが美月より俺の方がデカくなった頃、急にピタッとなくなった。
当時は俺も異性を意識し始めたり、自分の気持ちを持て余していたから気づかなかったが••••••。
問題集を終えて美月を見ると懇切丁寧に亮太の勉強を見ていた。
オタク世界で少女趣味はロリ、男同士のはBL、女同士のはユリ••••••。
少年好きは何て言ったか••••••。
「ショタ?」
美月の肩がビクリとなる。
「な、な、な••••••。」
声の出ない美月。
マジか••••••。
俺は亮太を抱きかかえて、美月から離す。
「いや、違うから。違うから」
手をバタバタさせる美月をしり目に、俺は決意も新たに誓った。
ぜってーオタクやめてやる!
※1 げんしけん二代目123話より
※2 新機動戦記ガンダムW34話より
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