第34話 プラズマの底で

プラズマの海では、ほとんどのセンサーが役に立たない。それゆえ、頼りになるのは中性微子ニュートリノのセンサーだった。質量をエネルギーに転換する際発せられる放射を捉える。あるいは、恒星が放射するそれを敵が遮る事による僅かな差を読み取るのである。

されど、中性微子ニュートリノの透過率は極めて高い。これは、センサーで捕捉するのが極めて困難であるのと同時に、敵の影もごく希薄であることを意味する。

それでも金属生命体群は索敵部隊を展開。敵の行動をプロットしつつ、行動半径を絞り込みつつあった。いかに神出鬼没とはいえ、亜光速機動できない以上は移動できる範囲に限界があったから。

もふもふ側を捕らえる罠は、徐々に完成しつつあった。


  ◇


居留区セツルメント、居住区画。

外で戦争が始まっても、この巨大な空間は以前とさほど変わらなかった。エネルギーや資源の統制が大幅に強まったり、ときおり都市が軌道を変更する際、強いGがかかるくらいで。

都市に暮らしている限り滅多に感じることのない、重力。加速度から生まれたそれは、地球人類の科学者アインシュタインが提唱したところによれば質量の生み出すものと区別が付かない。

町のそこかしこに落下防止のネットが増設され、出歩く者も少なくなった中。円筒形の市街地の中腹にある小さな家で、三人のもふもふが集まっていた。

のっぽ。まん丸。そしてちびすけである。

異種族(人類というらしい)と金属生命体との会話は彼らも聞いていた。あの突撃型指揮個体はご丁寧にも、居合わせたもふもふたちのために同時通訳してくれたのである。おかげで三人はいらぬ守秘義務を負ったわけだが。

まさか、友好的な金属生命体などというものがいただなんて。

一夜の冒険の最後に知り得た事柄としては破格であろう。

この事実を知るのは彼ら以外には諸都市の主要人物のみである。事態の重要性を鑑みた首脳陣の判断だった。おかげで彼らは。この重大な事実を他人に打ち明けることもできず悶々とする羽目になったのである。

「種族の最後の一人になるって、どんな気持ちなのかな……」

まん丸が呟いた。この場にいる誰にも想像のつかぬことである。せいぜい自分なら、悲しみのあまり丸くなって動かなくなるだろうなという漠然としたことくらいしか思いつかない。

「……ものすごく丈夫な精神を持ってるんだろうな」

「あのひとは平気そうに見えたけど」

のっぽが答えるが、彼自身そんなことは信じてはいなかった。あれほど感情豊かな知的生命体である。悲しみだけが欠落しているとは思えない。

「……会いに行こう。あの人に」

「はぁ!?待てよ、僕たち謹慎中だぞ!怒られちゃうぞ!!」

「今度はこっそり行くのも通用しないだろうし」

「……だから、真正面から行く。会わせてもらえるように頼むんだ」

ちびすけの言葉に、残り二人もあきれ顔となった。この友人は、いざという時の行動力も凄まじい。

「それ、何とかなると本気で思ってる?」

「……正直言うと思ってない」

三名は、笑った。

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