【第三章】笑顔の裏に隠された真実
第39話 Professional -Ayaka side-
雨季に入ったシェムリアップはあちこちが水浸しになっている。オールドマーケット周辺の冠水は特にひどく、バイクの車輪は半分以上が水の中だ。
わんぱくな子供たちは大はしゃぎで川に飛び込み、大人たちもそれに負けじと深みに釣り糸を垂れて水の祭典を楽しんでいる。
クメールの民は自然現象に腹を立てても意味が無いことをDNAレベルで知っているのだ。
こんな雨季の風物詩を目の当たりにすると、電車が止まったくらいで車掌を怒鳴りとばす日本人が、とんでもなく下等な生物に感じられた。
何かが壊れかけた日本からシェムリアップに戻って数ヶ月。近頃は、父から週に一度のペースで電話がかかってくる。離れているからこそ親子ならではの照れ臭さが薄れ、本音で語り合えたのだ。空白の年月を埋めるのは、それほど難しくなかったのである。
この日も、そんな父にカンボジアの写真を送信しようとMacBookを開いた時だ。
ベンさんからメールが届いた。
※ ※
Hi Ayaka,
先ずはメコン・デルタの潜入調査、ご苦労様。
キミたちが危険をかえりみずに掴んだ情報は、犯罪ルートを暴くための大きな一歩になるだろう。
素敵なフィアンセは元気かい?
彼が日本でコンタクトをとった鍼灸師の話は非常に興味深い。
私は正直、驚いている。
一般人である君たちの強い信念を持った行動に。
私はそれに応えなければならない。
身分をひた隠しに君たちの情報を
黙っててすまなかった。
私は、某国の対外諜報機関に所属する特殊捜査プロフェッショナルだ。
おそらく君たちの人生のうちで我々のような人種と接触するのは、これが最初で最後の機会になる。
それほどまでに、極めて稀、いや、ほぼゼロに近い確率のケースだと受け取ってくれ。
本音を言えば、ただのオジサマでいたかった。
しかし、今後は君たちをプロフェッショナルの一員として認めよう。
さっそくだが、ここからは機密情報だ。
読み終えたメールは必ずデータシュレッダーにかけてくれ。
勘がいいアヤカなら、もう気付いた頃じゃないか?
メコン・デルタから移送された子供たちが次に連れて行かれる拠点はトンレサップ湖さ。
人身売買、拳銃密売、違法薬物製造、凶悪犯罪者の隠匿及び怪死事件・・・。
スペシャルな情報の数々がデータベースから炙りだされた。
水上集落の調査はメコン・デルタ以上に注意が必要だろう。
そんな悪の巣窟に君たちだけを向かわせるのは心苦しいばかりだが・・・、これだけは分かってほしい。
私が自分のポストを部外者に明かすことは万死に値する行為だと・・・。
Good luck!
※ ※
バスの中で見たドス黒いビジョンが蘇る。
私たちは、もう引き返せないポイントまで来ていたのだ。
「トンレサップ湖に行かなきゃ・・・」
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