いつか勇者とよばれるまで~サーティンクエスト~

@arika_mutuki

第1話 興り

”声が聞こえる”


叫び声が



”全てが燃える”


目の前で



”暗闇に堕ちる”


自分の世界が……


コンコンッ

『起きて!ピュトン!早くおきなさい!』


覚えのある声が聞こえ、目を覚ます。


アンタレス歴789年龍の月。


厚手の藁布団から出ている顔に冷気を感じる。


眠気まなこでドアのほうを見ると、ステラおばさんが心配そうな顔で立っていた。


『寝坊とは珍しいねぇ。体調でも悪いのかい?』

普段は早起きして家の仕事を手伝っているので心配してきてくれたみたいだ。


『すいませんステラおば……ステラさん。

少し寝つきが悪くて朝方まで起きてました。。すぐ手伝います』


だるさが残る身体をおこし、布団から出る。

暖炉の火は消え、室内にも冷気がただよう。


『。。何か余計な言葉が聞こえた気がするけど、、寝ぼけてるみたいだね。。今手は足りてるから。

しんどかったら休んでいいんだよ。』


ステラさんは、父の妹で僕の叔母にあたる。

両親がいない僕を引き取って仕事と居場所をくれた。

小さいころからお世話になっているので、世界で一番頭があがらない存在だ。


もちろん両親がいなくなった経緯も知っている。

小さい頃から何度も同じ悪夢でうなされた。

そのたびにステラさんが抱きしめてあやしてくれたのを覚えている。

今朝の寝坊の理由にも思いあたっているかもしれない。


両親と一緒に住んでいた村がモンスターの群れに襲われたのは6歳の頃だ。

大型のモンスターは1匹でも脅威になる。

小さな山村に住む村人では、とても太刀打ちできるはずがなかった。


今でも、鮮明に覚えている。

家の中まで魔物が襲ってきたとき、前に出てかばってくれた母親を。一撃で命を奪いさった、かぎ爪を。

頭から浴びるようにかぶった、燃えるような紅を。


その瞬間、意識は途切れていた。

次に眼を覚ましたのは村の集会所だった。

顔見知りの近所の人たちに何か話かけられたと思うが、よく覚えていない。


外に出ると父親の亡骸を見つけた。

村や家族を守るため、魔物相手に勇敢に立ち向かっていたという。

遺体の損傷は激しかった。しかし、抱きつき声をあげた。

力をこめる度に体が赤へ染まる……ただ、声をあげた。


全てを奪った 災厄に対して


全てを失った 自分の弱さに対して。




そして、ひとしきり泣いたあと、村を救ってくれたのは滞在していた冒険者だったと聞いた。


使い込まれた地面へつくような両手剣を背中にさし、濃い顎髭にこの地域では珍しい黒髪黒眼の戦士

重そうな鉄のハンマーを腰に下げつぶらな瞳にワシッ鼻が特徴のドワーフ

腰まで届きそうな美しい金髪の持ち主であり弓を携える女エルフ

磨かれた石をはめこんだ杖をもち、薄汚れたローブをかぶりながらもどこか気品を感じさせる年配の紳士


今振り返るともっていた装備から中堅クラスの冒険者だったと推察できる。

思えばよくモンスターが襲ってきたときに滞在していたのは本当に運が良かった、いなければ村は全滅していたかもしれない。

村で亡くなったのは……ピュトンの両親だけだった……


不幸にも一番はじめにモンスターから狙われたらしい。


たまたま村にいただけの、面識もない冒険者


彼らにとっては朝飯前の行為だったのかもしれない。

しかし、絶望にいる僕にとっては、一筋の光に見えた。



それ以来冒険者に憧れ、仕事の合間に体を鍛えたり、削った木剣で稽古をしている。


毎日行っている農作業とあわせ、それなりに体は鍛えられてきた気がするぞ!



『やっぱり今日は調子が悪いみたいだね。。

ボーっとしてるみたいだし1日ゆっくりおし!いいね!』

バンッ


ドアを閉め、ステラさんが去っていった。

『いつも嵐のように来て去っていくなぁ。』


とても気さくで、とても面倒見がよくて、

とても働き者の良い女性で、尊敬できる。


ただ、少しせっかちなところがあって話の途中とかで行ってしまうこともあるんだよな。。

ああ言い出したら何いってもだめだな。。


せっかくだけど部屋で1日こもってるのも申し訳ない。

少しマキ割でもしようか。

寒くなってきたし燃料はいくらあっても困らないからね。


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