高き杉の血は女子を敬いし候
悠久の冬の京、冬京。
その冬京の御剣に佇む御剣神宮。
この日本が、常冬の結界で覆われた今となっては、季節の概念は無くなってしまった。
だが、それでも、来る春を祝う「祭」の準備を進めている。
「と言うのが、此度の祭祀の段取りになるのだが。」
慣れた調子で、祭祀の説明をするのはこの神社の巫女、高杉玲奈。
その横に並び、その補佐をするのは姉の神無。
特別な祭祀の時以外はこの二人で神社を切り盛りしているのだが、人入りの多くなる祭祀の際にはやはりどうしても人手が不足する。
そこで、この神社を仮の宿とする、高杉家の書物に記された退魔師達にも協力を仰ぐこととなった。
元より気心の知れた者同士の集い。
断る理由など何もない筈であったが。
「ちょっと聞いておきたいんだけど、雪人君はともかくとして、俺もこれを着るのか?」
口を挟んだのは、銀髪の青年。Cafe「Fox&Wolf」の店主の弟、
彼が「これ」と言って指し示したのは白い着物に緋色の袴。いわゆる「巫女装束」風の衣装である。
「何度か説明をしたと思ったが、改めて説明するぞ。」
そう言って玲奈は、御剣神宮の成り立ちについて語り始めた。
この御剣神宮は、古くから高杉家の女によって守られてきた。
ゆえに、その先代達への敬意を示す意味で、御剣神宮では男女を問わず、この紅白の衣装でその業務を遂行することが決まっている。
そう、正装なのだ。
「えっと、じゃあこれは何なんでしょうか?正装ともちょっと違いますよね?」
そう切り出したのは、
彼は、先に瑠璃が言った様に一見すると女子と見間違う容姿で、そして本人はそれをひどく嫌っていた。
彼用に、と用意された衣装は丈が短いモノであり、この冬京の御剣の地から少し離れたところにある街で流行って居そうな、いわゆる「萌え」を意識した衣装であった。
「特別製だ。お前が一番似合うんじゃないかと思って用意したんだが、着てくれないか?」
と、困惑したような表情を見せた。
玲奈は知っていた、自分の提案が断られそうな時に困った表情を見せれば目の前の弟子は断れないと言うことを。
「それ、本当にズルいですよ。」
観念したのか、それ以上は何も言わなかったし、渋々ながら寸法に問題は無いかと試着もしていた。
こうして、春を祝う神事の準備は、進められていった。
なお、その年の参加者は例年のそれを大きく上回ったそうだ。
冬ノ京ニ妖ノ踊ル 祀之巻 ~高き杉の血は女子を敬いし候
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