第21話

 


 ロイド歴三八八四年一月


 京の都にイシキ家が進軍したとタナカ衆から報告があった。その事を察知したタナカ衆が母上の実家であるカモン家とアズ姫の実家であるホウオウ家にお知らせし共に無事京の都を出る事ができたと報告を受けた。

 カモン家はアズマ家を頼ってこっちに向かっているとも聞いたが、ホウオウ家は王を連れて北上したとも報告があった。

 恐らくホウオウの義父殿はアサクマ家を頼るつもりだろう。アサクマ家は三ヶ国を治める大貴族だし現当主にはホウオウ家の血も流れている。そして何よりも王の妃の一人がアサクマ家の縁者なのだ。


「さて、アズ姫に何と言おうか・・・」


 思わず呟いてしまったが、タナカ衆の頭領であるダイトウ・タナカは何も聞いていないと言う感じでスルーしてくれた。


「引き続きカモンの伯父上、ホウオウの義父殿の動向、それにイシキとミナミの動向を注視してくれ。必要であればカザマ衆を動かすが人手は足りているか?」

「問題ありません。我らタナカ衆のみで事足りまする」

「ならば良し。それと済まぬが伯父上と義父殿に金を届けてくれ。急な事であったであろうから手持ちが寂しかろう」

「はっ!」


 カモンの伯父上には一〇〇カン、ホウオウの義父殿には五〇〇カンを用意しダイトウ・タナカに持たせる。

 伯父上は近々このミズホに来られるだろうから一〇〇カンもあれば問題ないだろう。しかし義父殿はアサクマ家を頼るし何より王がご同道しているそうなので、五〇〇カンを用意した。

 しかし義父殿はこの一月という冬真っ只中に北へ向かうとはチャレンジャーだな。王が寒いとか我儘言わなければ良いのだがね。






 ロイド歴三八八四年二月


 ホウオウの義父殿からお礼の手紙と品が届いた。ダイトウ・タナカに持たせた金が有り難いと感謝の手紙だ。俺が思ったように何の準備もせず京を飛び出したから手持ちが寂しかったそうだ。

 そしてお礼の品が俺にとっては喉から手が出るほど欲しかった物で、俺はそれを見た時飛び上がったほどだ。

 どうやら義父殿はアズ姫から俺がこれを欲しがっていると聞いていたようでこの品をお礼としてタナカ衆に持たせたようだ。

 義父殿から頂いたお礼の品には前世の日本に似た図が描かれていた。つまり『ワ国の地図』だ。


 しかし日本によく似た風土だと思っていたが、本当に日本だったとはね。予想はしていたがここまで地図が似ているとは思わなかった。

 俺が義父殿から頂いた地図は前世の地図のように地形や道路などの情報はない。大まかな形と細かく区切られた国の名が記されているだけの昔の戦国時代の縮尺など関係ない物と同じように本州、四国、九州がしっかりと記載されており蝦夷地(北海道)の事は記載がない。それでもこれは俺にとって非常に重要な情報なのだ。

 この地図から想像するに西にはユーラシア大陸があり、その遥か西にはヨーロッパ、更に西にはアメリカ大陸があるのではと心が躍る。

 まぁ、今から外国の事を考えても埒が明かないので、自分の足元を固めよう。


 地図によるとミズホの国は京の都のあるヤマミヤの国(山城)からアワウミの国(近江)を挟んで隣になる。つまり前世で言う美濃の国だ。斎藤道三が治めていた美濃の国だ。

 ミズホの国をアズマ家と三分割しているクニシマ家とマシマ家との位置関係からすると現在アズマ家が治めている地域は西部なので岐阜市より西側、所謂西濃地域の三分の二程度だと思われる。

 最大勢力のマシマ家が岐阜市を含めた西濃地域の三分の一と中濃全域に東農の一部、残りのクニシマ家は東濃の七割程度を治めていると思われる。

 美濃の国と言えば岐阜市にある稲葉山城、この世界では金華城だ。難航不落の堅城と言われたが後に羽柴秀吉に仕えた竹中半兵衛がたった十数人で落としたと言うのは良く知られている話だと思う。

 そんな事よりもだ、この地図によって俺の進むべき道が明確になった。

 織田信長が尾張の津島の港から得られた莫大な富によって傭兵を雇い尾張・美濃・伊勢・近江と勢力を広げ天下を統一する寸前まで行った。やっぱ港が有ると無いとでは全然違うのだ。

 だが、太平洋側に出ても紀伊半島を回って堺、そして瀬戸内海を通り博多に出てから大陸と貿易となる。それに対し日本海側なら直接大陸と交易ができる可能性があるのだ。


 確か前世の記憶では明(中国)は貿易を許可していたのが大内氏だったし大内氏が滅ぶと交易を絶ったなんて聞いた記憶がある。ただ抜け道もあり確か倭寇によって貿易が出来ていたはずだが、明はそれを禁止したはずで・・・

 イカン、イカン、これはあくまでも日本の戦国時代の事でそれ以前には勘合貿易だってあったんだから先ずは海を手に入れる事を考えよう!


 そうなるとキシンがミズホの国を統一したいと言っているが、方向的には逆に行く事になる。海を手に入れるなら近江に出て若狭とか敦賀に出るのが良いだろうが敦賀はアサクマ家の領地だ。

 ただミズホ一国を治めておくのは良い事だろう。地盤があると無いとでは安心感が違うしね。

 キシンには早々にミズホを治めてもらって近江と若狭も取ってもらおう。もしキシンにミズホ以上の欲がないのであれば俺が独自に取りに行くか・・・いや、身一つで日本海に出て俺のスキルで船を創って大陸に渡るって事もありか?

 取り敢えず、キシンがミズホ以外を望むように誘導するとしよう。


 ・・・あれ? 俺って何で大陸に拘っていたんだ?





 ロイド歴三八八四年二月


 カモン家の一行が大平城に到着された。

 当主のフダイ・カモン伯父上もお疲れのようだ。


「初めまして、麿がフダイ・カモンでおじゃる」


 おおおおおお、おじゃるマロ、だっ!

 顔を見た時、マロ眉していたからまさかとは思っていたが本当に生息していたんだ、おじゃるマロ!

 俺は希少な生き物を見る目で伯父上を見つめる。・・・事はできない。あのマロ眉を直視なんてできない。笑える!


「キシン・アズマで御座います。これは嫡子ソウシンで御座います」

「おお、ソウシン殿か。此度は助かったでおじゃる。ソウシン殿が用立ててくれねば野垂れ死にでおじゃった」


 笑うな、笑うな、笑っちゃダメだ。


「伯父上様に置かれましては無事のご到着、祝着至極」

「ほほほほ、賢い子や。コウや、良い子を持ちましたな」

「はい」

「ほほほほ、アズマ家は安泰よのぅ」


 部屋に帰った俺は思いっきり笑った。それはもう横っ腹が痛くなるほど笑った。

 十仕家は御公家様設定のようだ。こうなるとホウオウの義父殿も・・・考えるのを止そう。笑い死ぬ。


 今回、イシキ家は京の都を手にしたがミナミ家が動いておりどうなるか分からない。ミナミ家の動きが遅いのは周辺国に出兵を促しているからだろう。可能性は低いがキシンの所にも出兵要請があるかもしれないな。

 だが、この状況は良いかも知れない。キシンはどうやらミズホ以外には野心がないようなので、俺が若狭を目指すにはキシンをその気にさせるか、俺がキシンから離れるかの二択となる。

 だが、この状況を利用すれば欲がないキシンでも近江と若狭を手にいれなければならない状況に追い込めば良いのだ。俺が金儲けする為には日本海側の港を手に入れて貰わねばならんのだ!

 そう、俺の金銭欲を満たす為にキシンには最低でも三ヶ国を統治させる!


「ソウシン殿、頼みがあるのでおじゃる」

「何でしょう、伯父上」


 マロじゃなかった、伯父上が大平城に到着してより数日後、俺に会いに来て唐突に頼みがあると言う。


「麿の他にも十仕家が京を追われておじゃる。嘆かわしいのでおじゃるが他の十仕家は麿のように頼る者が居ない場合も多いのでおじゃる」

「他の十仕家に手を差し伸べろ、と?」

「左様でおじゃる」

「それは父上にお伺いしないと何ともお答えが出来かねます」

「キシン殿に諮かって貰いたいのでおじゃる」


 十仕家は名家で家柄や権威はあるが領地や武力のない高位貴族だ。最近は官位による御威光も廃れかかっており十仕家と婚姻を望む領地持ちの有力貴族は少なくなっているそうで、アズマ家の様に十仕家との婚姻を今でも重ねている家は多くないそうだ。

 だから二家が路頭に迷っており伯父上に泣きついてきているそうだ。

 だが、アズマ家がいくら裕福でも十仕家を保護する義理はないのだ。だから伯父上はキシンではなく扱い易そうな俺に頼んだのだろう。強かだね。

 まぁ良い。ここで多くの十仕家を取り込んでおけば後日役に立つこともあるだろう。


 十仕家の保護は流石のキシンも難色を示した。アズマ家は金銭的に裕福とは言え十仕家を保護すればするだけ金が飛んでいくのだからキシンの懸念は尤もだ。だから最終的には俺が金を出す事になった。



 

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