第19話

 


 ロイド歴三八八三年四月。


 オンダ家直系の生き残りであるゴロウは仏門に帰依させて問題なく落ち着いているし俺はオノの庄に戻っていた。

 あの後褒美として豊新城、赤坂城、石山城の三城が俺に与えられた。この三城だけで石高は三九〇〇〇石となる。内訳は豊新城二八〇〇〇石、赤坂城七〇〇〇石、石山城四〇〇〇石だ。オノの庄の石高が八〇〇〇石(実質二〇〇〇〇石)なので俺自身の石高は表向き四七〇〇〇石になっている。

 そして大平城攻略で多大な戦功を挙げたダンベエは以前ゴウキ・クサカが守将をしていてオンダ家攻略後にゴウキ・クサカが城替えになった事で空いた小部城おぶじょうが与えられた。

 更に俺の直臣扱いのコウザン・イブキは元々の所領である水渡城をそのまま与えられている。

 言うなれば間接的に小部城の七〇〇〇石、水渡城の一二〇〇〇石を領有しており本領と合わせて六六〇〇〇石となった。

 旧オンダ領を含めたアズマ家の総石高が約二四万石なので三割近い。尚、アズマ本家の直轄領は一〇万石程度なので俺と合わせて七割ほどがアズマ家の所領となる。今までなら七割近くが家臣の所領だったので逆転してしまった形だ。だが、俺はこれで良いと思っている。キシンはアズマ家によるミズホの国の再統一を狙っているのでそれにはアズマ家による中央集権を進め自由に兵を動かせれるようにした方が良いだろう。

 出兵するにも家臣の顔色を伺うような状態では統一など夢のまた夢だと思う。


 以前、サヨの伝手で連絡を取っていた忍一族のカザマ衆の頭目であるコウタロウ・カザマが俺に会いにやってきた。随分遅いお出ましだと思うも彼には彼の都合があるのだろう。

 コウタロウ・カザマは忍には似つかわしくないほどの威圧感があったので忍の中でも特に武闘派だと言うのは間違いないのだろう。


「コウタロウ・カザマに御座る」

「ソウシン・アズマだ。東は相当荒れていると聞くがカザマも忙しそうだな?」

「・・・その様な事は・・・」


 まぁ、商売繁盛ですとは言い難いはな。カザマは傭忍軍として東国ではブイブイ(死語)言わしているらしい。俺との謁見が遅れたのも契約中に遠路はるばるミズホまで赴けないと理由がある。契約中は決して手を抜かない姿勢は共感が持てる。


「直臣として一〇〇〇石ではどうか?」

「は?」

「一〇〇〇石では不満か?」


 カザマの里の人口は約三〇〇人だそうだ。だから五〇〇人で一五〇〇石のタナカ衆と大きな差が出ないように一〇〇〇石としたのだが不満なのだろうか?

 違うな、俺がいきなり直臣とすると言う事に驚いているのだろう。忍の扱いは下手をすれば農民よりも悪い。だから直臣で一〇〇〇石という条件に驚いているのだろう。


「私は見た通りの子供で腹芸は得意ではないが、できるだけ人の価値に見合った報酬を出すようには心がけている」

「我がカザマに一〇〇〇石の価値があると?」

「分からぬな。分からぬ故に最低評価による条件を提示した。登用したは良いが役立たずでは面白くないからな」

「・・・」


 俺の価値観とコウタロウ・カザマの価値観は全く違うだろう。前世の記憶がある俺は情報の重要性を知っている。

 だが、この世界では情報はそれほど重要視されていない傾向にある。全くないわけではないが、それでも脳筋が多いようで情報より力押しが好まれるようだ。


「我らの価値が一〇〇〇石以上だと判断された場合は加増していただけるので?」

「働きに応じた家禄は当然であろう?」

「ふ・・ふふふふ。面白きお方ですな」

「そうか? 私は人には人の得意な事があると思っている。その得意な事を集め調和させるのが私の役目であるのだと考えているのだ。『武』だけではならぬ、『知』だけでもならぬ、多種多様な事が集まり、それぞれが力を発揮でき調和させる。これが私の役目だ。故にカザマを欲した」

「・・・このコウタロウ・カザマ、そしてカザマの一族郎党、身命を懸けてソウシン・アズマ様にお仕えさせて頂きまする」

「そうか! 宜しくたのむぞ!」


 俺はコウタロウ・カザマに近づき手を取ってウンウンと頷く。

 俺は本拠地をオノの庄から豊新城に移す事になっているので豊新城の城下に屋敷を用意する事にしてコウタロウ・カザマは東国に戻って行った。数ヶ月後には一族郎党を引き連れて移住してくるだろう。


 生産の話になるがオノの庄ではミズホ酒、麦焼酎、味噌、醤油、干しシイタケ、ミズホ和紙、油、ミズホ甲冑、ミズホ太刀を主要産業として出来る限り俺の生産から職人による生産にシフトさせている。


 酒蔵ではミズホ酒に麦焼酎、味噌蔵では味噌と醤油、他にシイタケ栽培も来年には売り物になる商品が出来上がるだろう。俺が創るよりも利益は減るがこういうのは地場産業として根付かせる必要があると思うので独立させている。

 ミズホ和紙は既に俺の手を離れ技術者が作ったミズホ和紙が市場に投入されている。油は木から油を抽出するのは効率が悪いから今まで通り俺が生産する事にした。効率がよかったり、油分の多い植物を生産できれば油も手放しても良かっただろう。


 軍事物資として直接的に軍の強化につながるミズホ甲冑、ミズホ太刀は家臣たちには購入できるように商品化している。国外販売についてはキシンが認めた相手のみに数量限定で贈答や販売が許されている。そして軍事産業であるが故に鍛冶師については豊新城の郊外に移動させる事が決まっている。

 鍛冶については俺がミズホ鋼を創り鍛冶師に供給するシステムを取っているし、ミズホ太刀は俺が創ったハニカム構造のミズホ鋼板を芯とした太刀とは違い普通のミズホ鋼を刃の部分に使うが芯材はこれまでの鉄を使っている。あれは俺にしか作れないのだ。

 そして鍛冶師には鉄砲の生産を指示し、銃身の素材をミズホ鋼にして改良された鉄砲の生産をしている。鍛冶師たちが生産した鉄砲にはライフリングは施されていないが、それでも鉄砲としては良い物だ。

 鉄砲はアズマ家以外へ卸す事を禁止しているので全て俺が買い取っている。そして買い取った鉄砲に俺がライフリングを施している。ライフリングは技術として伝える気はないが、鍛冶師たちが向上心を持って試行錯誤しライフリングを施す事には期待もしている。何でも俺が教えていては技術者が育たないからね。

 因みに鍛冶は半官半民でアズマ家の家臣として身分を保証しているし知行も与えている。


 ダンベエも一人前に城主をしており、領地をよく治めている。俺からは餞別ではないが石鹸製造を産業として興してやった。

 俺の風呂好きは家中でも有名で、風呂に入るのであれば石鹸が必要だという事で俺が嗜む程度の生産をしていたが、いつの間にか家中に石鹸の良さが広まってしまっていた。だから石鹸の技術者をダンベエに付けてやった。ダンベエは石鹸をミズホ屋やイズミ屋に売り込み、最近は京の都を中心によく売れているそうで、そこから得られる利益で傭兵を雇っているのだと言う。

 そしてその石鹸人気に便乗したキシンが王家に石鹸を献上した事で全国に石鹸が広まりつつある。

 外交担当の奉行衆であるロクロウ・ムラズミは京の都とミズホ国を行ったり来たりで休む暇もないようだ。だから王家や十仕家とのパイプをもっと太くする為に京の都に屋敷を設けてはどうかと言ってやったらキシンが意外と乗り気だった。近い将来ロクロウ・ムラズミは京の都に居を移すんじゃないのかな?






 ロイド歴三八八三年六月


 俺は一三歳になっている。

 夏本番になる前に豊新城に居を移した。豊新城は平城で大平城ほどではないがそれなりに大きい城なので城内の一部に居住エリアである奥がある。

 奥の改修が終わると俺たちは直ぐに引っ越しをしたが、そこにキシンやコウちゃん、それにソウコがやってきて引っ越し祝いを俺が振る舞った。逆じゃね?


 そして当分は攻められない限りはこちらから戦を仕掛ける予定はないとキシンが言っていた。だから今の内に子作りに励めよ、とセクハラされた俺とアズ姫だ。一三歳なので精通もしているし、アズ姫の初潮も終わっているので子供を作れるのだが、この年で父親となる事に俺は違和感しかない。せめて一八歳程度まではと思うのだが、そうするとアズ姫に子が出来ないと思われアズ姫の立場が悪くなるし、側室を勧められかねないのでどうした物かと考えて居る。


 奥の改修に合わせて豊新城の一角には室内の射撃場を設けたり俺の工房も造っている。キシンたちをこういった増設した設備を案内しているとソウコが射撃場に入るなり鉄砲を撃ってみたいと言い出した。

 キシンは危ないと猛反対したが、俺とコウちゃんはそれを静観してキシンが根負けした処で鉄砲をソウコに渡してやった。キシンはソウコは嫁にやらん、などと豪語する超が付く親馬鹿なので勝負は最初から見えていたのだ。だって、ソウコが父上なんて嫌い、と言えばキシンが両膝と両手を地面につき崩れ落ちるのは俺だけではなくコウちゃんも良く知っている事なのだ。


「発砲時には大きな衝撃があるので脚を肩幅程度開き右足をやや後ろに。手はこことここ、柄は右肩に当てて絶対に離すなよ。後はこれで狙いを定めてこの引き金を引けば良い」


 簡単に扱い方をレクチャーしただけでソウコは長年銃士をしていたかの様な佇まいだ。ソウコの人差し指が引き金に掛かり次の瞬間、大きな発砲音と共にソウコが後ろに飛んだ。

 ソウコが後ろに飛ばされた様を見たキシンが血相を変えてソウコに走り寄る。遅れて俺とコウちゃんも近寄ると泣きそうなキシンとは正反対にソウコは満面の笑顔を浮かべケラケラ笑っていた。


「気が済んだであろう! もう鉄砲などに触るでないぞ!」


 キシンは必死だ。


「父上ぇー、ソウコは鉄砲が気に入りました!」

「っ!」


 鉄砲が気に入り今後も撃ちたい、それどころか豊新城に移り住み鉄砲の訓練をすると言いだしたソウコを必死に説得するキシンの図は笑える。

 まぁ、三〇メートル離れた的のど真ん中に開いた小さな穴を見ればソウコの才能は言うまでもないだろう。考えてみればソウコの職業は【狙撃手】だった。鉄砲を撃つために生まれてきた様なソウコに鉄砲に触るなと言うのは才能を潰す愚かな行為なんだが、親としてのキシンの行動は正しいとも思う。自分の子が鉄砲のような一歩間違ったら死にかねない危険な武器を触るのは見て居られないだろう。

 ・・・あれ・・俺もキシンの子供なんだけど・・・しかも一一歳で戦場に出ていますが?


 結局、ソウコとキシンの言い合いは夜まで続いたものの決着は見なかった。今回ばかりはキシンも不退転の心づもりで臨んでいるようだ。

 翌日、キシンに無理やり引きずられていくソウコを見送った。暫くは荒れそうだ。大平城がね。


 俺はアズ姫と一緒にお風呂にはいる。ソウコとキシンの事は考えても仕方がないので、アズ姫と風呂だ!

 俺が風呂に入ろうと思った時、一緒に入るか、と聞いたら顔を赤らめコクリと頷くアズ姫はトテモ可愛いかった。思わず「何この可愛い生き物」と声に出してしまったほどだ。

 このワ国の風呂の風習は浴衣を着て入るのだが、当然俺はスッポンポンで入る。そしてそんな俺と風呂に入るって事はアズ姫も・・・ムフフなわけですよ。グハハハハッ!


「いや~良い湯だった。アズ姫もそう思わないかい?」

「・・・とても良い湯でした」


 アズ姫と風呂に入った俺は上機嫌でアズ姫と共に脱衣場で体を拭いている。俺がアズ姫の体を拭いてやって、アズ姫も俺の体を拭いてくれる。この脱衣場には俺とアズ姫しかいない。誰も入って来る事は許さん!

 拭き合っていると自然と下腹部に血が集まるのが分かるが、それは仕方がないよね。オイラ健全な一三歳なんだもん。

 風呂の洗い場とか、湯船の中とか、何度もね・・・それでもアズ姫の裸を見ているとそうなるわけですよ。四回戦開始です!



 

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