第92話 侵攻される俺

 ジャッバールのひらひらはためいているマントを見送る。


 あの人、短気なんじゃないの? あれしきのことでさっさと交渉を打ちきって力に訴えるって。


 しかし困った。あの人達を相手にして勝てなさそう。それも追い払えたとしても教皇とやらと話をちゃんとしないと誤解が解けない感じがする。


 遠くからザッザッザッと規則正しく行進する音がする。


 銃眼から覗くと大勢の兵士が警戒線の沿って周囲に展開していく。

 前面には身体がすっぽりと隠れる大きな盾と陽の光を浴びて眩しいぐらいのプレートメイルを装備した一団がズラッと並んでいる。

 掛け声が聞こえると盾を構えながら少しずつ進んでくる。警戒しながら進んでくるので落とし穴にもなかなか引っかからない。前回の教訓が生きているようだ。


 俺も迎え撃つために命を下す。


 ピュンピュンと弓人形が矢を飛ばすが殆どが盾に弾かれている。稀に当たって動かなくなる兵士もいるがこのままだと距離を詰められる。

 うずくまって足を抑えている兵士達が出てきた。トラバサミに掛かった奴やシーソートラップに嵌った奴が出てくるがそれでも前衛の20名に一人が行進から脱落する程度だ。まだまだ後方には大量の兵士達がいる。

 距離が50mを切ったところで投石人形【松坂君】を起動させる。あまり遠いと嫌がらせぐらいにしかならないが至近距離に近づくに従い、松坂君の豪腕に耐え切れず転んだり、鎧が凹んで致命傷を負うものまで出てきた。


 ウォォォ


 焦れたのか前衛達が鬨の声を上げながら走りこんできた。

 塀に取り付くも至近距離からの矢や石の洗礼により倒れる者が続出する。

 後方の兵士達も前進しだした。後方の奴らは軽装なので矢も通りそうだが前衛の処理に手間取られて対処が出来ない。

 潜んでいるゲリラ人形達を動かし後方の兵士達に吹き矢で応戦させる。ただ、鎧や盾で弾かれているものも多く、刺さっても即効性が無いので見つかると叩き壊されてしまう。


――マズイな。あれを出すか。


 伝令役の人形に指示する。人形は木の枝を伝わりながら森の奥に行く。


 その間に一番大きな弓を持っている人形に後方の指揮者を狙撃させる。距離は300m程離れているので当たる確率は低い。俺だったらまず当たらないし、そこまで飛ばなさそう。なので脅し程度にしかならないだろう。それでも全体の進軍速度が遅くなったり指示が疎かになったりすることは期待できる。


 門扉では鉄人の2体が金棒を振り回しながら近づく奴らを吹き飛ばしている。動きは重鈍なので、有効打にはなりにくい。だが槍に刺されても剣で切られてもびくともしないので時間稼ぎにはなる。


 後方の兵士達が騒ぎ出した。頭を抱えたり、腕を振り回し、叫び声を上げながらめちゃくちゃに走り回っている。


――よしっ! 上手く行ったみたいだ!


 散り散りになっているところをゲリラ人形が吹き矢を放ったり、罠に嵌ったりして、まともな命令系統で動いている奴らがいない。指揮官らしき奴らも一緒に腕を振り回しながら何かから逃げまわっているので、当然なのだが。


 ラッパの音が響き渡る。


 それを合図にして前衛の兵士達が盾を構えながら後退りしていく。

 後方の兵士達は走って街道の方に逃げていってしまい殆ど残っていない。


――今回のところは助かった。


 緊張から解放されて地べたに座り込む。一息ついていると俺の周りをぶ〜んと虫が飛び回っている。


 やべっ! 俺のところまで来やがった。

 家の中に飛び込み、戸締まりをする。


 飛び回っていたのは蜂だ。スズメバチ。日本で見たオオスズメバチより若干小さく、色も黒っぽい。

 養蜂でも出来ないかと思ってミツバチを探していたんだが、見つけたのはスズメバチの巣。地上に営巣していたので来襲が判明した時に人形達に袋を被せ、蜂ごと採取させておいた。それも何個も。

 それを陣を組んでいる兵士達の頭の上から放り投げてやった。蜂が怒り狂い兵士達に襲いかかる。全身鎧で覆っていたって顔は覆えないのでパニックになったと思うよ?


 決定的な勝利にはならないだろうが、恐らく今日は恐らく立ち直れないと思う。まあ、今日は生き延びたね。


 アナフィラキシーショックで倒れる人がいなければいいけど……。

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