第76話 追い詰められる俺

 物陰に隠れて落ち着くのを待ってみる。


 うわっ!


 物陰に隠れてる俺に兵士が隊列を離れてやってくる。

 だが俺に気付いた様子はない。


 俺の目の前でいきなり回れ右をしてズボンを下ろし、しゃがみ込み、力みだす。


 くさっ!

 しかも液体状だ。


 これを耐えれば……。

 しかしどんな苦行だよ。勘弁して欲しい。


 どうやた完全に日が落ちて暗くなっていたために見つからなかったようだ。

 焦って動かなくてよかった。


 しかし、兵士の中にも病気のやつが多そうだ。吐いている奴もいたし。

 もしかしたら、ノロ?

 ノロウイルスが蔓延してるのか?

 俺?

 俺のせい?

 

 ……まあいいか。


 これはここの兵士があの村を襲った証拠だろう。

 これも自業自得ってことで。

 一人ひとり治すこともできるけど俺の祝福の有効範囲は狭いようだから街全体を治すのは無理だな。

 とりあえずこの急場をしのぐことに集中しよう。


 兵士が去るとこっそりと動き出す。

 スラムに入り込む。

 辺りはひっそりとしている。明かりは殆ど無い。バラックって言うの? 隙間だらけの家々も中で明かりを焚いてないみたいだ。

 外に通じている壁穴の場所が良くわからない。同じ様な道で目印が無い。何よりもよく見えない。

 明かりが近づく気配もあるがだいたい巡回している兵士が持っている明かりだ。


 ピ〜!


 笛の音が鳴り響く。

 見つかったようだ。あちこちから掛け声が聞こえてきた、


 走って逃げるが、徐々に逃げ道を狭められていく。


 とうとう行き止まりに追い詰められた。


 松明が掲げられ、俺の姿を如実に照らし出す。隊長らしき人物が投降を呼びかけてくる。


「そこの者。神妙にしろ」

「……ワシになんのようじゃ」


 まだ、ジジイ設定を続けているつもりなのでジジイの口振りで答える。


「取調べを行う。何故逃げておる」

「武器を振り回して追われれば逃げるじゃろう」


 そこへ隊長らしき人物の後ろから俺を見破ったマフムードが出てきた。


「やあ、シンゴ君。久しぶりだ。今日は何故変装をしている?」

「……」

「おや?黙りかい。ふむ。君に面白い話を聞かせてやろう」


 マフムードが芝居がかった声で続きを話す。


「先日、この領都から西に行った先に隠し里があった。徴税を逃れている村だな。そこを発見した教兵が急襲した。帰還した兵から謎の病気が流行ってな。村の生き残りから聞くと、ある禿げた若者がその村に訪れたらしい」


 マフードは眼光鋭く俺を見据える。


「その者を捕らえた次の日から村にも謎の病気が流行ったようだ。そこを教兵が襲撃した。検分したものから聞いたが村にはそんな若者を捕まえも見かけもしなかったそうだ。実は俺も禿げた若者を最近見かけてな。その時に後を追わせたのだが消え失せた」


 一気にマフムードがしゃべると目を細めた。


「そんな時、パトロールしていた俺がまたそいつを見かけた。どう思うかね」


――バレてるね。


 どうしようか。このまま大人しく捕まっても簡単に許してくれそうにないな。


 ひい。ふう。みい……。

 相手はマフムード含め9名か。俺が一人で碌に武器も持っていないので油断している様子も見受けられるな。


 俺はチラッと視線を巡らし手を上げる。

 マフムードが「何だ?」と言うような顔をする。


 次の瞬間、バラックの屋根の上から火炎瓶と吹き矢が降り注いできた。

 俺は慌てている兵士たちにタックルし走りだす。


 逃げながら屋根の上を見ると猿飛とサスケが一緒にこちらに走ってくる。

 火炎瓶は燃料として作ったバイオエタノールを陶器の壺にいれ、導火線をつけたものだ。ファイヤーポンプで導火線に火をつけ、投下すると燃え上がる。殺傷能力はあまりないが虚仮威こけおどしにはなる。ただ、量は持てなかったので手持ちはもう無い。


 大通りにでると、辺りをつけ再度スラムに入り込む。


 壁穴まで裏道からは行けなかったが大通りからの順路は分かる。一気に目的の場所まで走り、番をしている男を強引に押しのけ穴をくぐる。壁外のスラムも通りぬけ街道を走る。

 追手は跳ね橋が上がっているためか見えない。


 ようやく森の中に逃げ込む。

 心臓が口から飛び出そうだ。空気を吸っても吸っても足りない。

 でも、おちおちここで休憩もしていられない。


 今夜は強行軍で家まで帰るようだな。

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