第70話 燃料を作る俺

 牛牧場改め山羊牧場の柵を頑丈にした。また、狼などの肉食獣の餌食になったり逃げたりすると悲しいからね。「山羊よお前もか」と昔の偉人のように後悔したくない。


 さて、木材問題が再燃してきた。

 色々な資材に使ったり、燃料に使ったりでかなりの森林を切ってしまっている。もう少し考えて使わないとこの住処が丸見えになる。せめて燃料をどうにかしよう。


 燃料といえばアルコールや石炭、石油。


 石炭は鉄を精錬するときに木炭より効率が良さそうなので、色々探したが見つからなかった。石油も同様だ。


 では、アルコール。

 でもアルコールは材料が必要だ。貴重な食い物をアルコールにするのも考えもんだ。麦や芋を発酵させて醸造させるといくらも残らない。


 油は?

 食用油の転用か。これも量の割にはあまり出来ない。絞り方の問題かもしれないが。廃油の利用は行けるか。廃油に小麦粉や片栗粉を入れて固形化する。それを木の皮や木の端材と混ぜて使う。なかなかいい考えだ。


 それ以外はどうか……。


 あるアイデアがあり実行してみる。

 まず、大きく底が浅い樽を作る。

 最近は綺麗な製材が出来るようになってきた。墨壺と人形鋸があるからだ。

 墨壺とは糸に墨を染み込ませピンと張り、弾くと直線が引けるものだ。これに添って、前後に鋸を動かす人形で切っていく。完全に真っ直ぐな板にはならないが、許容範囲内だ。板を樽状に組み、漏水しそうなところには膠や漆で埋めていく。

 この樽を沢山作り日がよく当たる場所に置き水を張る。


 ここで俺の祝福マイクロバイオロジストの真言を唱える。

 イメージするものは藻だ。藻類バイオマス燃料の素になる藻だ。

 果たして藻が微生物学に当たるのかが良くわからないポイントの一つだ。

 結論から言うと藻が湧いた。


 湧いたであろう直後、見る前に気を失った。

 目覚めてから樽を見ても見つけられなかったが翌日訪れてみると少し緑掛かった何かが樽の中に浮遊していた。藻だと確信できるまで増殖させてみた。経過観察をしてみるとどうやら光合成で増殖している。それから株分け?樽分け?させてどんどん増やす。


 増えたところで藻を回収し脱水する。乾燥させ粉にしてまた水に溶かす。

 鋳鉄で作った蒸留器で水溶液を沸騰させないように蒸留させる。

 どれだけ蒸留させればいいのか分からない。しかもあれだけ労力を費やして出来たのはコップ一杯の蒸留物。


 バイオエタノール。……のはず。


 火を近づけてみる。

 ゆらりと青い炎が立つ。


 ……成功だが、コスパに優れるとは言いがたいな。


 作物を原料にするよりは短期間でできるところが良いところだろう。

 苦労して作ったので勿体無くて使えない。瓶に貯めておくか。

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