【第73話:贈り物】

 オレ達はセリミナ様から隣国ゲルド皇国がもう皇都まで攻め込まれているという情報を聞き愕然とする。


「えっと…、それはゲルド皇国の地方都市ミングスなどは既に殲滅させられたという事ですか…?」


 リリルが少し顔を青ざめながらセリミナ様に質問する。


「そうね。残念ながら一部の住人を除いて…」


 セリミナ様も少し言いにくそうに答える。

 オレは今の話に挙げられたいくつかの地方都市はセリミナ様から頂いた知識かくかくしかじかでしか知らないが、少なくとも万を超える住民が殺されたという事実に動揺を隠せない。

 今までうまく闇の軍勢の動きを先回りして阻止してきただけに、このセリミナ様からもたらされた情報はオレにはかなり堪えるものだった。


(く…。聖なる力を得てうまく阻止してきて、オレはどこか楽観視していた…)


 オレはいつの間にか自分がどこかゲームの世界のような感覚でいたのを今更ながらに気付かされた。


≪優斗。私でも闇の軍勢の動きを全て知り先手をうつのは不可能なのです。あんまり自分責めないようにね≫


 と、オレの心の中を読んだセリミナ様に慰められる。


「はい…。でも、オレ達はどうすれば良いですか…今からここを出ても間に合うんでしょうか?」


 オレ達はエルフの里で特訓をしているので、ここからでは馬車で1週間以上もかかるのだ。


≪向かうかどうかの判断は優斗達に任せるけど、向かうつもりならとっておきのプレゼントを用意してあげるよ~≫


 さっきまでの憂いの表情を浮かべていた横顔は演技だったのかと感じるほど、楽しそうにニヤニヤと提案してくるセリミナ様…。


「なんか凄く楽しそうだな…」


 と思わずジト目でセリミナ様を非難するのだが、


「ちょ、ちょっと言いがかりですよ!頑張って用意してあげたのにそんな事言うならあげませんよぉ?」


 との言葉に拗ねられては大変と謝り、皇都に向かう旨を伝えてプレゼントとやらを頂くのだった。

 ~

 一通りの話を終え、去り際にセリミナ様は顔をキリリと引き締めると、


≪それでは残照ざんしょう優斗ゆうとよ!急ぎ皇都ゲルディアに向かい、魔族の企みを阻止するのです!!≫


 と、明後日の方向を指さしてポーズを決めて悦に浸る。

 そんなセリミナ様に恥ずかしい物を感じ戸惑いながらもオレ達は、


「「「「お…おぉぉー!」」」」


 とノリを無理やり合わせて終えるのだった。

 まぁメイとキントキは最初からノリノリだったのだが…。


 ~


 その後、オレ達はリリル曰く


「何かイメージしていた神託の下され方と違いました…」


 という呟きをスルーして、エルフの里の族長ミドーさんに神託が下った事を伝える。

 そしてそのまま急ぎリリルのお母さんのミイルさんやメアリと別れの挨拶をしに向かう事になる。


「リリル…。そしてユウトさん、メイちゃん、パズ君にキントキ君も…。とにかく無事に帰ってきてね」


 と、涙を流しながら見送りにきたミイルさん。

 メアリは


「私じゃ足手纏いになるのがわかってるからついていけないけど頑張ってよね。あなた達にこの世界の運命がかかってるんだから」


 とはっぱをかけられる。

 その眼にキラリと光るものが見えたのはそっとしておいた。

 ~

 こうして慌ただしく別れの挨拶を終えたオレ達は里の門までやってくると、


「それじゃぁさっそくセリミナ様に貰ったプレゼントを使いますか」


 と言って、オレは先ほど頂いた【神器:草原の揺り籠】というオカリナのようなアイテムを取り出す。

 使い方は神様お得意の『かくかくしかじか』でちゃんと教えて貰っているので、さっそく笛を吹いてみる。


「わくわくするでござる!」

「「ばぅ!(がぅ!)」」


 メイとパズ、キントキが期待に胸を膨らませてアイテムの使用を待っている。

 リリルも言葉にこそしないが、興味津々な感じで待ち構える。


(こういうマジックアイテムとかドキドキするよなぁ)


 オレも内心そんな事考えながら、教わった通りに笛を吹いてみる。


 ヒュリリ~♪


 笛を吹いたのは一瞬だったが、オレの魔力がゴッソリ持っていかれて慌てて魔力炉を起動する。

 すると、風が吹き荒れ、葉が舞い踊り、その中に光の文様が現れる。

 そして文様の中から横に3mほどの大きさの光の影が出現し、だんだんと形を成していく。


「おぉぉ!」


 オレも思わず興奮して叫んでしまう。

 しばらくして光が収束するとそこには大きな馬車が現れていた。


「おぉ…ぉぉ…ぉ?」


 しかしそれは馬車ではなかった。


「こ、これは?」


 リリルは馬車に似たこれが何かわからず頭にはてなマークを浮かべている。

 それは一見馬車なのだが、車輪が付いておらず、代わりに長い板がついていた。


「い、犬ぞりって事か…」


 そう。それは馬車の車輪部分がソリになった大きな犬ぞりだった。


「ばぅわぅ!!」


 パズが自分が牽いていく乗り物だと気づくと尻尾をぶんぶんふって喜んでいる。


「あぁ。またあれに乗っていくのか…」


 オレ達はあのジェットコースターのような乗り心地を思い出し、少しげんなりとするのだった…。

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