【第71話:暁の刻】

 宴の日から1ヶ月が経ち、世界は魔人ゼクス出現の情報がもたらされ騒然となっていた。

 そして各国ではその不穏な知らせにどう対応するのかで頭を悩ませる事になる。

 パタ王国もその例外ではなく、王城ではもう何日も答えの出ない会議が繰り返されていた。


 ~


「お父様!今 各都市の防備を固めなければいくつもの街が落とされ最終的に国が滅びますわよ!」


 一人の少女が立ち上がり、豪奢な長机を バン! と叩きながら訴える。


「お待ちください。ユナ様の仰る事もわかりますが、まだ闇の軍勢の侵攻が始まると決まったわけではありません。今はそのような不確定な情報よりも以前から掴んでいる隣国の不穏な動きに対応できるよう東の国境に戦力を置いておくべきです」

「東の国境に兵を置いていて北から闇の眷属の軍勢が現れたらどうするのだ!この王都が真っ先に落とされますぞ!王都に呼び戻してここの守りを固めるのです!」


 この世界ではほとんどの国が王政をひいており、最終的な決定は王がする為、各々が王の賛同を得ようと力説していたのだった。


 ユナと呼ばれた少女はその王の長女。つまりお姫様だ。

 しかもこの国では男女の区別なく第一子が国を継ぐことになっていた為、ユナはこの国の継承権第一位の存在だった。

 ユナは闇の軍勢が攻めてくるのは間違いないものとして、現在、東の国境線に展開している第一騎士団と魔法兵団を呼び戻し、主要な各街に展開させるべきだと訴えていた。

 自国の民を第一に考えての発言だったが軍略に明るいわけではない為、皆を説得できないでいた。


 そしてそれを止めようとしているのは全騎士団を束ねる大騎士で名をシトロンと言う人物。

 この国はもちろん近隣諸国にまでその名が知れ渡っている有名な騎士で、隣国お抱えのプラチナ冒険者を返り討ちにして退ける程の実力を兼ね備えていた。

 シトロンは完全な現実主義者で、この数年活発になっている隣国との小競り合いの方が危険度が高いと判断し、意見を変える気は全くなかった。


 最後は…、とある要職の官僚だが単に自分の身の安全を確保したくて、とにかく王都の防備を固めろという意見だった。

 ただ、王都が落ちればこの国が滅んでしまうのは事実であり、あながち間違った意見ではなかった。


 意見は綺麗に三つに分かれ、決着のつかない平行線に陥ってしまっていた。

 それはこの日も繰り返されるはずだった。


 ~所変わってエルフの里近くの森~


「ばぅわぅ!」


 パズが一吠えすると、頭上に2mを超える氷柱が数えるのも馬鹿らしくなるほど作られ、作られたそばからオレに向かって飛んでくる。


≪我は『残照ざんしょう優斗ユウト』の名において力を行使する≫

余光よこう武威ぶい


 オレは聖なる力≪余光よこう武威ぶい≫を身に纏うと、すぐさま二本の名も無きスティックで光の斬撃で迎撃していく。


 ガガガガガ…!


 権能の力も使って全ての氷柱を破壊していくが、こちらは二本のスティックで斬撃を放っているのに対し、パズは無数の氷柱を一瞬で出現させて何本も同時に放ってくる。


「ぐぁぁ!!ま、待て!?パズ落ち着け!多すぎるって!!」


 だんだん押されてきて遠くで迎撃していた氷柱がだんだん近くで破壊されるものが交ざってくる。


「やばい!?」


 そしてとうとう処理しきれなくなった氷柱がお腹にぶち当たる。


 と思った所を、今度はギリギリの所で第三の目で避けまくる。


 ドガガガガ!


 しかし…、


「うぁぁ!?来るの読めてても避けきれない!?」


 そう叫んだ瞬間だった。


 ドゴッ!

「ぐえ!?」


 氷柱の一本が見事にお腹に命中する。

 そして、


 ドゴッドゴッドゴッ!ドゴッ!ドゴッドゴッ!

「ぐががが!?がが!?」


 それをきっかけに避けきれなくなって6本の直撃をくらうのだった。


「い、いくら余光の武威を纏ってたって、こ、これは死ぬって…」


 と呟きうずくまる。

 すると足元に魔法陣が出現したかと思うと、一瞬で体の痛みが消えていく。


「ばぅ!」


 そしてパズから続きをするよ!って気持ちが伝わってくるのだった。


(オレ…、強くなる前に死ぬ気がするな…)


 とオレは遠い目をして現実逃避するのだった…。


 そう。オレとパズはあの日からずっと特訓を続けていた。

 メイとキントキ、リリルの二人と一匹も連携などを中心に特訓し、オレ達のパーティーは1か月前とは比べ物にならない程、強くなっていた。

 ちなみにパーティー名は『あかつきとき』と決まった。

 メイが「暁のチワワ」とか言うパーティー名を押してきたが全力で却下した…。


 今回はオレが圧倒されたが、最近は結構パズとも対等に戦えるようになっている。

 そして新しい聖なる力もいくつか使えるようになり、今ならあの魔人とも勝負になるのではないかと少し自信も持てるようになっていた。


 ドガガガガガッ!


 自信を持てるように…。


 ドガガガガガガガガッ!


 なって…。


 ドガガガガガガガガガガッ!


「ぐぁぁぁ!?」


(…オレって生きてゼクスと再戦できるのだろうか…)

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