【第55話:はじまりの森】
メアリの話を聞き終わったオレ達は、少し言葉に詰まってしまう。
「わかったでしょ?だから行けないの。その代わりと言ってはなんだけど、里のエルフが街の防衛に協力していたと聞いたわ。だから、せめてその子たちには伝えておいてあげる」
そう言って少し悲し気な瞳で答えるのだった。
そして踵を返してオレ達の前から立ち去ろうとした時、リリルが呼び止める。
「待ってください!私みたいな者が口出しする権利が無いのはわかっています。でも、里にはメアリさんが愛した家族が今もいるんですよね。それならばどんな理由があってもこの里の危機をご自身で伝えるべきです。そして妹さんをご自身の手で守ってあげてください!」
それを聞いて気持ちを決めたオレは、
「オレたちが向かう場所も里を超えた所になります。メアリ、一緒に里に行こう!」
そして一緒に里を救おうと誘うのだが、それでもメアリは踏ん切りが付かない。
「…でも…、私にそんな資格は…」
そこでオレは少しずるいと思いつつも、
「じゃぁ、オーガから救った借りを返してもらおうかな?」
と強引に事を進める。
「ずるいわね…」
と言いながらも小さく ありがと と呟くメアリであった。
~
オレ達はエルフの里に寄って行くことになったので、結局パズの牽く
オレは、
「パズ!また頼むことになるけど、急には止まれないって事をちゃんと考えて余裕をもって止まるんだぞ!」
と、何度目かになる念を押す。
パズはいい加減わかったと、
「ばぅぅ~」
と、返事がだんだん適当になってくる。
(く!?頼るしかないけど、すっごい不安だ…)
内心かなり心配だったが、普通に馬車をキントキに牽いてもらう場合の数倍の速度で移動できるので、オレは苦渋の決断を下す…。
そしてパズの一吠えで氷を纏った馬車に乗り込むと、パズは魔力炉を起動してわけのわからない速度で駆け出すのだった。
「そこまで急がなくていいから~~!!」
~
オレ達は特に『大きな』問題もなく、昼過ぎにはエルフの里に近い森の入口まで辿り着いていた。
途中すれ違ったキャラバン一行が砂煙をあげながら迫ってくる
もう一度言う…概ね問題なかった…。
「パズ!まだ止まる為の距離が全然足りてなかったぞ!?リリルが魔法で止めてくれなかったら森に突っ込んでたぞ!」
森の前で止まるとき、あきらかに止まるのに距離が足りずまたリリルの魔法で止めてもらっていた。
「ぶっぅふふ~」
まるでヘタな口笛でも吹くような仕草で、叫ぶオレをスルーして氷を解かすパズ。
森の中はさすがにかっ飛ばすのは危険すぎるので、普通の馬車としてキントキに牽いてもらう事になっていた。
「じゃぁキントキ頼むでござる!」
メイがパズと交代したキントキに声をかけると森の中の道を進み始めるのだった。
エルフの集落がある森は『はじまりの森』と呼ばれており、一年中木々が枯れる事はない。
古の民の魔法により、この道だけは草木が生えないようになっているが、道を少しでもはずれると10m先が確認できないほどの深い森だった。
木々の高さは15mを超え、ひとたび森に踏み入ればあっという間に方向感覚を維持できなくなる。
その為、別名『迷いの森』ともよばれていた。
ただ、エルフだけは迷うことなく進むことが出来たため自然の要害となっていた。
「メアリ。この道さえはずれなければ迷ったりはしないんだよな?」
少し心配になったオレはメアリに念のために確認する。
「道を通っている限り大丈夫よ。ちなみに私はもう森に入ればユウト達と一緒で迷っちゃうから当てにしないでね」
だから絶対に森に入らないでねと言ってくる。
「そっかぁ…じゃぁ、どのみちエルフの里に行って目的地までの案内役を誰かお願いしないと行けなかったみたいだな」
神様にもらった
(危なかったよな…。エルフの里によらずに直接向かうところだった…)
と、内心冷や汗をかいていたのは内緒だ…。
「奇襲をかけるときは特に要注意でござる。出発前の作戦でいくなら何人かエルフの案内役を付けてもらわないとダメそうでござるな」
「そうだなぁ。分散して遊撃しようかと思ってたけど作戦を少し変えるかな」
オレ、パズ、リリル&メイ&キントキの3チームにわかれて遠隔攻撃を撃ち込めるだけ撃ち込んで撤退を繰り返すつもりだったのだが、いっそ全員固まって一斉射撃の方が良いかもしれない。
その後、オレ達は馬車の中で作戦を練り直して一斉射撃で行く作戦に変更したのだが、これが思わぬ方向に事を運ぶことになるのだった。
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