【第24話:少女の想い】

「ギシャー!!」


 オレに向かって突き出されるキラーアントジェネラルの前脚。

 その脚はノコギリ状になっており、プレートメイルですら突き破る強度と威力があった。


(しまった!?)


 そう思って回避行動を取ろうとするが間に合わない。


「「ユウトさん(殿)!?」」


 槍のごとくはなたれた攻撃が腹部を突き破ろうと迫ってくる。


「ぐはっ!」


 そのまま10mほど吹き飛ばされ、いくつもの木をへし折り、地面に叩きつけられてようやく止まる。


「いゃぁ~!」


 そして遠くに悲鳴が聞こえたのだった。

 ~

 しかし、、襲ってくるはずの痛みはいつまでたっても襲ってこない。


「っつ~!痛って~。いったい何で止められたんだ」


 いや…。痛みは確かに襲ってきていた。

 しかし、激痛と呼ぶには程遠く、腹を軽く殴られ、背中を少し打った程度の痛みしか襲ってきていなかった。


「あれ?…オレ、、確か腹を突き破られたような…」


 そう言って普通に起き上がる。


「ユウトさん!すぐに治癒魔法を!!」


 そう言って慌てて駆け寄ってくるリリルが見える。

 慣れない魔力を纏い必死で駆け寄ってきてくれたのだが、


「え…。怪我、、してない…?」


 しかし、傷一つ負っていないオレの体を見て息をのむ。


「リリル。心配かけてすまなかった。ちょっと油断してしまった」


 心配をかけてしまったと謝るが、リリルはオレが無事だったことがわかると急に泣き出しオレの胸に飛び込んできた。


「ぅあぁ~ん!お、お腹を、、、あんな吹き飛んで、、、てっきりもうダメかと…」

「本当にごめんね。オレは大丈夫だから。大丈夫だから」


 そう言って頭を撫で、そっと抱きしめるのだった。


 普通に考えればオレはお腹を突き破られて即死していた。

 しかし、セリミナ様からもらった名も無きローブは尋常じゃない防御力を誇っており、あらゆる斬撃、刺突、魔法を防ぐ効果があった。

 ただ、ローブにはある程度の衝撃を吸収する効果も付与されていたが、それでも普通の人が同じ攻撃をくらえば内臓を破裂し、骨折していただろう。


 しかし……。ユウトの体もまた尋常じゃない強度を誇っていた。

 骨折はおろかヒビも入らず、内臓破裂はおろか打ち身や痣すらついていなかったのだから。

 ~

 自分のために泣いてくれ、必死に駆け寄ってくれたリリルが愛おしく、しばらくそのまま抱きしめていた。

 しかし、、


「ばぅ!」


 と、声が聞こえたかと思うと、


 スコン!


 と後頭部に衝撃が走る。


「ぃ!? 痛ってーーー!!」

「きゃ!」


 パズから いつまでやってるんだよ!って気持ちと同時にやってきた後頭部の衝撃と痛みにリリルを離して思わずうずくまる。

 さっきのジェネラルの攻撃を受けた時より痛む後頭部…。

 しかし、そこでオレはようやく我にかえった。

 リリルを抱きしめていた事に今更ながら気付いて顔が火照り、急に恥ずかしくなる。


「い、いや!これはだな!あれだ!その、、なんというか…」


 思わず言い訳を始めてしまうが、そこでパズとキントキ、メイが連携しながらジェネラルを抑えこんでくれているのに気づく。


「あぁ!悪い!何やってるんだオレは!」


 そういって両頬を叩くと魔力を纏い直し、見極めし者を発動。

 キラーアントジェネラルに向かって駆け出すのだった。


 ~


 リリルは自分がした行為に動揺し、どうして良いかわからずただただ顔を真っ赤にしてユウトを見つめていた。


(私、、ユウトさんが死んだと思ったらもう訳が分からなくなって…)


 リリルは物心がつくかつかないかの時に両親を魔物に襲われ亡くしていた。

 そのため、リリルにとっての肉親とは親代わりになってここでま育ててくれた兄だけであった。

 年の離れた兄は既に冒険者をしていたので何とか食べるのには困らなかったが、護衛依頼などで家を空けることが多かった。

 幸い魔法の才能のあったリリルは、兄と一緒にいたくて10歳の時には冒険者になっていた。


 兄と冒険者として行動を共にするようになってしばらくした頃だった。

 以前兄が護衛の依頼を受けたバッカムさんの好意により、見習いながらも長期の護衛依頼としてキャラバンの同行を認めてもらう。

 それ以降、ずっと護衛をしながら世界を旅してまわっていたリリルに出会いはなく、16歳でありながら恋というものとは無縁であった。


 そこへたまたま街道で出会った同年代の少年。

 見たこともない可愛い従魔を連れており、旅を続けてきたリリルでも行ったことのない東の国の出身だという。

 ローブをきたその小柄な少年は、最初は自分と同じ魔法使いだと思った。

 しかし、一つ前の街から交代したギムという冒険者の裏切りでキャラバンが窮地に立たされた時、魔法も使わず一瞬で盗賊たちを倒してしまう。

 自分や兄の命を救ってくれた命の恩人。

 だからと言って力を鼻にかけることもなく、同年代の、パーティーの仲間として、いつも優しく接してくれる。

 そんな少年に惹かれていくのは自然な流れだった。


(私、、ユウトさんとまだ出会ったばかりなのに…)


 そして今日はじめて16歳の少女は自分の気持ちに気付くのだった。

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