5章 なんちゃって診療録

第114話 家族もいろいろ-キーパーソン

 医者も医者なら、患者も患者。そこに家族が加わりますから、医療現場はますます複雑怪奇な人生劇場と化すのです。


 言った言わないでもめて、挙句の果ては裁判沙汰になるケースも、昔は多々あったのです。


 医師の回診中に、ベッド脇にいた見舞いの家族に病状説明を求められ、患者本人を前にして「がんです」とは言えず、後で家族に説明するつもりで「胃潰瘍です」と言ったはいいが、回診後いざ説明しようと相談室に来るよう家族を呼ぶと、すでに帰ってしまって、もぬけの殻。


 その後はとうとう一度も来ずに音信不通。後々、患者は本来の病気のがんで死亡したのですが、その家族は、「あの時、胃潰瘍と言った。がんを見落としたんだ」と訴えたのです。


 最近の医療現場では、キーパーソンという言葉がよく使われます。(⇒豆知識①)


 昔は、病院側は、「患者の家族」というように大雑把に呼んでいましたが、それではうまくいかないことが多くあったために、家族の中でも中心的に世話をしてくれる人をキーパーソンと命名し、適任者の選出を要求するようになりました。(←(^ω^)まるで病人は犯罪者みたいだね)


 入院を要する病状で病院を受診する時は、よほどの緊急事態でない限りは、患者本人だけでは受け付けてもらえません。必ずキーパーソンが要求されます。病院側からすれば、キーパーソンは保護者や身元引受人みたいな存在です。(⇒豆知識②)


 時に血縁者が一人もいない患者さんがいます。特に近年、超高齢化社会の到来とともに、天涯孤独の人が増えています。


 キーパーソンに指名される人は、家族とは限らず、遠い親戚、血縁はないがたまたま近所に住んでいた知り合い、市役所の担当員などがキーパーソンになることがあります。


 キーパーソンは患者の保護者としての役割がありますから、入院から退院するまで、さらにはその後々までも、色々な世話をする羽目になります。


 刑法には、保護責任者遺棄罪・不保護罪というのがあって、老年者、幼年者、身体障害者または病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、またはその生存に必要な保護をしないと、罪になるのです。(刑法218条:Wikipedia参照)


 まことに被保護者にとっては親切な法律ですが、保護者からすれば、場合によっては迷惑千万な法律となりうるのです。


 キーパーソンは、必要な情報を、近親者に的確に伝えたり、彼らの総意をまとめたりする、実力と権限を持っている人がならなければなりません。ただいっしょに住んでいるだけとか、血縁が近いというだけでは、任務は果たせません。


 医療者がそれをしっかり把握していないと、特に、緊急の決断が必要な時には、現場は混乱してしまいます。


 われわれ医療者側から見たキーパーソンにふさわしい人を、思いつくまま書いてみます。


 ①まず、少なくとも患者本人より心身ともにしっかりしていること。


 認知症の患者さんが入院した際、時に、そのキーパーソンとなった人の方が、もっとそれっぽいということもあります。


 ②患者の身辺情報、親戚関係、経済状況、生育歴や病歴などをある程度把握していること。


 遠方に住んでいてほとんど交わりのない人の場合、それらが全く把握されていないことがあります。 何を聞いても、「さあ……」では困ります。


 ③時間の融通がきき、必要に応じて医療者側とコンタクトが取れること。


 仕事でしょっちゅう海外出張するとか、 何かの用でいつも家を留守にする人は、あまり相応しいとは言えません。 携帯電話が普及してからはこの問題はだいぶ緩和されました。


 ④患者に関係する家族、親戚などを、きちんと取り仕切ることができること。


 これができないと、ことあるごとにもめて、医療者側も困惑することになります。


 こと、治療に関する場合はこれは致命的ですが、死亡の時も、どこに遺体を搬送するかなかなか決着がつかないことが時々あります。


 ちなみに、私の義母が脳梗塞で入院した中堅病院では、家族への病状説明は、医師、ナース、ケースワーカーの3人が、面接官よろしくテーブルに並んで座り、キーパーソンの私たち夫婦に病状を説明しました。


 最後にはその説明要約文書に、了解しましたと言う署名をさせると言う念の入れようでした。


 今はそこまできちんと書面で残しておかないと、後でどうなるか分からないという厳しい現実があるのです。


*豆知識


①キーパーソン(ある病院の例)


 病院では入院された患者さんについて一人ずつキーパーソンを決めていただきます。

 事情により途中で変更することはできますが、この場合は予め、いつから誰に代わるのか、を主治医または病棟看護師にお知らせください。


 キーパーソンの選択は、ご家族全員の合意によることが必要となります。


 キーパーソンの役割:


 ①病状説明を聞き、その内容を他のご家族の方に伝達していただきます。

 ②病院からの、重要な連絡や問い合わせを受ける窓口となっていただきます。

 ③病状急変時あるいは死亡時に、病院から連絡を受ける窓口となっていただきます。


②保護者 日本で用いられる用語としての保護者(ほごしゃ)とは、特定の個人に対して、個別の法律に基づいて、保護を行う義務がある者をいいます。


 保護者は、各法律によって、親権を行う者(親権者: 父母、養親)および後見人(成年後見人および未成年後見人)とされることが多いです。また、未成年者に関わる制度においては、このほかに、未成年者を現に監護する者も保護者とされることもあります。未成年者を現に監護する者には、里親、児童福祉施設の長などが含まれます。


 精神障害者と知的障害者については、原則として、親権を行う者、後見人、配偶者などが保護者とならなければなりません。


(参照:Wikipedia)


 身元引受人とは、刑事事件の際、「本人が間違った行動に走らないよう監督する人」という意味で使われています。


「間違った行動」の例としては、逃亡、証拠隠滅、警察署への不出頭、さらなる犯罪行為、被害者へのお礼参り、自殺などが考えられます。こういったことをしないよう監督する人が身元引受人というわけです。


(参照:https://wellness-keijibengo.com)


〈つづく〉




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