第35話 変なお医者-短編集 2
④短気な医者
すこぶる短気な医者もいたものです。途中で怒って手術をやめてしまったのですからね。しかも整形外科とあっては、患者さんはたまったものではありません。
不愉快なことがあると、子供のようにプイッと怒って、どこかへ行ってしまうのです。ほんとにプイッと顔をそむけるのです。
私も会って何度も話したことがありますから、よく知っています。確かに気が短いというか、頭が単純なのですね。(←(^ω^)失礼)
ある時、骨折の手術をしていました。骨折面をボルトで固定するのですが、いまいちその断端がきれいにそろいません。
いくらやってもそろわないために、そのうち、ごうを煮やして、
「これくらいでいいや。もうやめた」
その先生、かんしゃくを起こしてしまいました。
前立ちの外科医が、
「先生、それはダメでしょ」
いさめましたが、あとの祭り。
さっさと切開創を縫って、手術を終えてしまいました。
案の定、術後、断端はうまく接合せず、大きな変形が残ってしまいました。
後になって、患者に訴えられました。(←(^ω^)患者さんはたまったもんじゃないよね)
短気な医者は要注意ですよ。外科系はなおさらだね。
⑤裁判好き
やたらと裁判が好きな医者がいました。
医者が患者に訴えられることはよく耳にすることですが、何かにつけてすぐ裁判に訴える医者もいたのです。
もちろん相手は患者ではありません。勤務している病院相手なのです。
個人的な問題で病院をクビになりそうになると、裁判に訴えるのです。
病院もそれにかまっているエネルギーがもったいないので、すぐ示談に応じていました。示談金は2000万円だったのです。
2年くらい働いて、慰謝料2000万円。(←(^ω^)これって、ボッタクリじゃな~い)
しかし「ひとを裁くな、自分が裁かれないためである」(新約聖書)とは、よくいったもので、犯罪がらみのことにまきこまれて、自分も留置場に入れられたとか、知り合いがいっていました。
⑥国会議事堂玄関で立ち小便
私は大学を卒業して、精神科の大学院に入りました。話しは私の大先輩にあたる精神科医のことです。
この先生、話しを聞いた時は恐らく60近かったと思いますが、岸信介首相と健保でやり合ったといいますからなかなかのつわ者。
大酒を飲みながら、意気揚々、武勇伝を語るのでした。
国会に何度も陳情すれど一向にらちが明かず、ある時思いあまって国会の玄関前で立ち小便をしでかしたそうです。さっそく警備員がとんできてつかまったそうな。
その縁あってかは分かりませんが、首相へのお目通りがかなったといいます。
その時、岸首相に向かって、
「健保(=けんぽ、健康保険の略)のことで……」
話しを切り出したところ、岸さんは血相を変えて、
「話しが違う。安保(=あんぽ)の話しとは聞いとらん!」
と怒ったそうです。
岸さんは60年安保の時の首相ですからね。「〇んぽ」という音には過敏症だったのでしょうね。
「あんぽでなく、けんぽです」
再度そういって、その場はおさまったそうです。
精神科は、どちらが患者か分からない医者が多いよね。(←(^ω^)そういうあんたもだ。トホホ)
⑦すぐいなくなる医者
極めて変わった お医者さんでした。(←(^ω^)あんたに、いわれたくないね)
大声でべらべらと喋ります。
その早口にこちらは圧倒されてしまいます。
一言も言えないでいる私を見て、ナースが苦笑しています。彼女たちもそうだったのでしょう。
初めはそういう性格かなあと思っていましたが、時がたつうちにだんだんと病気であることが分かってきました。
診療中に病院を抜け出して、いなくなってしまうのです。
ナースがあわてて探しまわっています。
当然その穴埋めはこちらがしなければなりません。
やっと探し当てて引き戻すと、
「つまんなくなっちゃったんで……」
平然といっています。
どうもうつ病だったようです。大声でしゃべっている時期は、躁状態だったのかも知れません。
すぐに解雇されてしまいました。
⑧風邪に薬1品
ピンかキリのお医者の話しですから、あまり良いものは出てきませんね。まだまだ続きますよ。
もともと麻酔科が専門だったT先生は、麻酔科では、つぶしが利かないといって、内科の研修を始めました。
というのも、麻酔科は専門的すぎて、もしその科を辞めたら、医者を続けることができないからです。
ところが50歳近くになって、内科を始めても、それを教えてくれる人などなかなかいません。独学でやらないといけないのです。
そこで実用書をたくさん買いこんで、それを見ながら診療していたのです。
外来に出る時は、厚さ20cmはなろうかという参考書を抱えて、診察室にご登場なされるのです。
ところが実用書でも教科書でも、医者の建前だけが書いてあって、本音は書いてないのですね。
例えば投薬についていえば、医学の建前では薬は最低限にすべきとなっているのです。
しかし実際の診療では、頭痛に対して鎮痛剤を出す、それを飲めば胃が悪くなるだろうと胃薬を加える、といったあんばいで、軒並みに薬は増えるのです。
風邪(かぜ症候群)を例にしてみましょう。
医学書には、風邪はウイルスによるものだから、自分の免疫によって治すしかないと、医学の建前しか書いてありません。
ですから、建前では風邪には処方薬は無し、ですね。無しじゃまずいので、解熱鎮痛剤1品くらいが医学書には書いてあります。
ところが臨床現場では、先輩たちの適格な(?)処方を学んで、普通の風邪薬に、解熱鎮痛剤、咳止め、時には抗生剤を処方します。数だけで4~5種類の薬になってしまうのです。
ところがT先生は、教科書のみを見ていますから、風邪で来院した患者にアスピリン1錠だけを処方したのです。
受け取った患者が、
「これだけ……!?」
不満気に首をかしげます。
「せっかく病院に来たのだから、もっとたくさんくださいよ」
といったところが本音ですね。
外来ナースがあわててとんで来て、院長の私にいいました。
「T先生にかかった患者さんが怒ってます」
私はT先生にいいました。
「患者さんが満足するように治療するのも、ひとつのやり方だよ」
少しずつは上達しましたが、T医師の外来は閑古鳥がいつも鳴いていました。
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