続 がんばれ!はるかわくん! -14-
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春 川
《 DATE 2月14日 午前10時57分》
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暗闇に落ちていく。
さっきまではもがこうとしていた気がする。
が、もう、あきらめた。
横たわった体は徐々に冷たくなり、息も出来ない。
黒いものが体の上に乗っていて、沈み込んでいく体をさらに下へと加速させている。
遠く、上のほうに、まぶしいほどの白い光が見えていた。
(……店長たちがいる世界なんだ。)
本能的にわかった。
手を伸ばしてみようとするが、すでに動かないようだ。
仕方なく、頭を倒して横を見る。
すると、あのひとがいた。
いや、顔は見えない。
でも、あのひとだ。
俺のうえにのって、俺の体ごと、下へと、ものすごいスピードで落ちている。
(一緒に、死のう)
あのひとのささやき声。
死ぬ…。
そうだ…。
俺は、死ぬんだったな…。
やがてささやき声はだんだんと大きくなり、なにかをわめき始めた。怒っているみたいだ。
―― わかったから、どならないでよ。
行けばいいんだろ。あんたと…
ふと上を見上げて、思う。
あそこには、店長たちがいるんだな。
こことは違う、光に満ちて、きれいなものがたくさんあった、パラレルの現実世界。
きっと今も、店長と俺は、笑っているんだ。
でも、俺は、
……死ぬ。
死ぬんだ。
だけどそのとき、ふっと心のなかに痛みが走った。
(…やだ…。…いやだ。)
やがて、俺の中のどこかが、暴走を始めた。
いやだ。
死にたくない。
帰りたいんだ、あそこに!
体が跳ねる。
もがこうとして抑えこまれる。
「…んう…ッ」
歯をくいしばって、もう一度、俺は力を込める。
(どいてください!)
声にならない声をあげる。
(どけ!)
あのひとの顔が見えた。
静かな表情だ。
いつの間にか俺を見下ろしている。
なぜか、どこか哀しげな目だ。
暗闇から、まだ体を動かせずにいる俺に向かって、あのひとの手が伸びてくる。
胸の上に置かれて、やがて、それは、ゆっくりと俺の胸に沈み、同化を始めた。
俺は絶叫する。
何度も叫ぶ。
いやだ!いやだ!いやだ!
心臓をつかまれている。
殺される!
死にたくない!
俺は、あんたとは死にたくないんだ!
光が見える。
体が、あたたかいものに包まれている。
いや、誰かがいる。
俺をすくい上げてくれている。
光が、どんどん、近づく。
あのひとが透過して、その向こうに、光はすぐ向こうにある。
――― まぶしい……
俺は光のなかにいた。
体が軽くなっていく。
あのひとは、薄い透明な影になっていた。
膜のように俺に張り付き、そしてするん、と滑り落ちた。
「カイト」
刹那、あのひとが俺を呼んだのがわかったが、俺はもう、その声には答えないことを決めていた。
あのひとのいないそこには、まばゆいくらいの白い壁が、高く、四方を囲んでいて、そのずっと先の、もっと明るい場所へと続いていた。
力を入れなくても、俺の体は、どんどん、どんどん上昇していく。
あのひとがこっちをじっと見ている気がした。
下を見ればきっと、あのひとのいる暗闇が広がっているんだろう。
目があったら、きっと俺はもうこれ以上進めない。
だから俺は振り返らない。
体は軽やかで、とてもいい気持ちだ。
そう。まるで、ひだまりのなかにいるような……
―― あたたかい……
(春川 DATE 2月14日 午前11時23分 へつづく)
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