NEXT第35話 最後の抵抗

達也の腹部を貫いたまま腕を固定された冥は達也の『一刀両断』を避けることが出来ずその身に受けた。


「ぐっ…ん?」


瀕死の達也が使うこれを観測者の冥は勿論知っていた。

『一刀両断』その効果は『一生に一度しか使えない望むモノを斬るスキル』…

なのだが達也のプロアクションマジリプレイでスキルを付け直すと再度使用できる、これはフーカもサラも『転生タイムリープ』を転生してからも使用できたことからも事実であった。

だが問題はそこではない、瀕死の達也が一体何を切ったのか?である。


「き…貴様、一体何を切った?!」


冥が自身で変化を発見できない事に苛立ちを見せ達也に問う。

その時、冥の片目が見えなくなり落下する。

それを達也は優しく受け止めて微笑む。


「フーカは返してもらったぞ!」


そう、冥の片目の黒目はフーカが最後の力を振り絞って己の残った全てをそこに退避させていたのだ。

だが…


「ふはは…ふははははははは!なんだ?命懸けでやったのがそれか?そんな絞りカスにもう用はない!全ての力は既に我が物なのだから」


事実冥にとってこの世界で使える肉体とフーカの持つ時間を進める力を得た今、フーカは必要の無い存在となっていたのだ。


「だが、一瞬とはいえ我を驚かせた罪は償ってもらおう」

「ぐ…ぐあぁぁぁぁあああ!!!!」


達也の腹部を貫いている冥の腕が達也を取り込み始める。

細胞が溶かされ喰われていくその痛みに達也は苦痛の声を上げる。

達也の身体中の血管が浮かび上がり冥が達也を浸食していく、一気にはやらない…冥は達也を最後の最後まで苦しめるつもりなのだ。

それと同時に達也の魂も時間を進められる。

もはや達也に抵抗する術は無かった。

蛇に飲み込まれた小動物のように後は死を待つだけである。

通常であれば…


「冥、お前の正体…それは現実世界の人間だろ?」


達也のその言葉に冥の浸食が止まる。

達也はそのまま続ける…


「お前はこの世界の物語の読者、視聴者、プレーヤー…どれかは分からないがこの世界、2次元か何かは分からないがそういう世界に入ることを望み実現させた者なのだろう」


冥は達也の言葉に驚きを通り越して恐怖の目を向ける。

それが達也の言葉が真実だと認めることに繋がっているのだが冥は気付かない。


「お前はもう俺に取り込まれるだけだ。これ以上話す必要はない」


冥はそう告げ浸食を再開する。

既に達也の体は内部から浸食され冥を引き剥がせば命に関わる所まで取り込まれていた。

だが達也は笑みを浮かべる。


「あぁ、そうだな・・・


そう冥に告げ目を閉じる。

そして、冥に最後の言葉を告げる。


「なぁ知ってるか?転移ってな行った事の在る場所にしか行けないけど座標さえ合ってれば高さは自由に決めれるんだ」

「一体何を言って・・・」


冥は途中まで口にして達也の笑みにゾッとする恐怖を感じた。

自分をこの状況からどうにか出来る筈が無いのは分かっている。

だが、達也の表情からは絶望の『ぜ』の字も浮かんでいないのだ。


「お別れだ冥!」


腹部に突き刺さっている腕を掴んでいた手は既に一体化していたがもう片方の手は自由に動かせた。

その手を命の頬に添えたまま達也は最後のスキルを発動させる!


「『転移』!」


その瞬間二人の体はその場から消え去るのであった。

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