NEXT第14話 アーニー一家の呪い
「お使いでお母さんから銀貨1枚を預かって果物屋さんに来たシェリーは1個銅貨15枚の果実と1個銅貨25枚の果実をそれぞれ手にとって…」
「ワクワク…」
「それを店主の目の前で握り潰して「次はお前がこうなる番だ!」っと言って取引をして銀貨1枚で沢山の果物を手に入れてシェリーはお母さんの元へ帰りました。」
「それでそれで!」
「家に帰ったシェリーを待っていたお母さんは何故か布団に潜っており寝ていました。」
「ワクワク…」
「シェリーが布団から覗くお母さんの顔を見て「お母さんのお顔はどうしてそんなに口か大きいの?」っと尋ねました。するとお母さんは布団から飛び出して「シェリーを食べるためだよー!」っとシェリーに襲い掛かりました。」
「それでそれで!」
「その日の夕飯は久々に果物だけでなくお肉まで並びシェリーは仕事から帰ったお母さんと美味しい夕飯を食べました。めでたしめでたし」
母親は手にしていた『赤頭巾を被ったマッチを売らない少女』の絵本を閉じる。
目をランランと輝かせる絵本を読み聞かせて貰っていた少女は一向に寝る気配がない。
「お姉ちゃん遅いわね…」
「お母さん、次はこれ読んでー!」
少女は次の絵本『魔女狩りを生き延びて魔女ではないと認定された魔女シンデレラ』を差し出す。
「もう、仕方無いわねサーヤは…」
ここはアーニーの自宅、母子家庭のこの家はアーニーの冒険者としての稼ぎで生活をしていた。
父親が行方不明になり生活が苦しくなった家族のためにアーニーは冒険者となったのだが、この日、本来の歴史では悪魔大元帥アモンによって村ごと滅ぼされて透明オークの仲間入りとなっていた。
それがゴンザレス太郎達によって救われたのである。
「火炙りにされたシンデレラでしたが履いていたガラスの靴には炎吸収のエンチャントがされておりシンデレラのHPはみるみる回復を…あらあら」
アーニーの母『シルディー』は絵本から視線を向けるとアーニーの妹であるサーヤが寝息を立てているのに気が付いた。
町の中心部では透明オークによる騒動の真っ只中なのだがこのアーニーの自宅は町の中でも外れにあり家は普段通り静かであった。
「それじゃアーニーが帰ってくる前にお風呂の準備でもしておいて…ゲホゴホッ」
シルディーは口元を押さえて咳に耐える。
数年前から彼女の体は原因不明の病に蝕まれていた。
それは彼女の一族に延々と受け継がれてきた呪いの一種であった。
この呪いは彼女達の祖先であるホネオが国に雇われて他国のスパイを行っていた時に相手国の魔術師に掛けられたものである。
ホネオの持っていたユニークスキルは『設置盗聴』と『望遠眼』でこれ程スパイに最適な者は居らず国にその力を認められ使われ呪いをかけられてしまった。
呪いの内容は祖先まで寿命が半分になると言うもの。
アーニーとサーヤは今は何ともないが母親はあと数年で寿命が尽きてしまうのだ。
「私ももうすぐなのかしらね…」
シルディーは咳と共に吐血した血を見詰めながら呟く。
その症状はシンディーの母親と同じであった為に自分の今後の予想が付いていたのだ。
まだ幼いサーヤをアーニー一人に任せてしまうのは心残りだが彼女の一族はそうして短命だったと聞かされていた為にそれも仕方ないと考えていた。
「アーニーは今日は帰らないのかもしれないわね…」
シルディーはいつもなら帰ってくる時間にも戻らないアーニーの為に玄関の鍵だけは開けて寝室に向かった。
そして寝床に横になり静かな寝息を立てて泣いていた。
一族の運命と分かっているが死にたくは無いのだ。
夜も更けてもうすぐ朝日が登ると言う時間にシルディーは不思議な夢を見た。
サーヤに読んだ絵本が原因か、それは白馬に乗った王子様が自分を助けにやって来る夢…
そして、そんな夢の中の王子様が歌い出したのだ!
「異世界ウォーズがでーるーぞー!こいつはど偉い神ゲーム!」
シルディーは飛び起きた!
夢から覚めたのに聞こえるのだ!
「母ちゃんには内緒だぜー!」
家の外を誰かが物凄い勢いで駆け抜けていく足音が歌と共に聞こえシルディーの体は光に包まれた。
それは町の透明オークを消滅させるために町中をスキル『絶対浄化』を使用しながら駆け抜けていくゴンザレス太郎であった。
「えっ?体が…軽い…」
まさに偶然であった。
たまたま絶対浄化の効果でシルディーの一族に掛けられていた呪いがゴンザレス太郎によって解除されたのだ。
「う…うそ…」
ずっと苦しかった胸が楽になりシルディーはそれが夢でないことを確認するため自分の頬をつねる。
そして、喜びに布団の上で泣きながら神に感謝の祈りを捧げるのであった。
数時間後、アーニーが帰ってきた時に母親の体調が完治している事実に驚き、話を詳しく聞くと数時間前に町中を駆け抜けた神様の使いが治してくれたと聞いてゴンザレス太郎の事を頭に浮かべるのであった。
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