NEXT 第5話 哀れな冒険者

「待てやコラ!」


そのズボンを履いてない冒険者は一緒に居た自分に一番近かったミリーの肩に手を出した。

いや、出してしまった。


「無礼者!」


肩に触れた冒険者の手から全身に伝わる電撃の魔法!

ギルド内は一瞬にして誰もがその光景に固まる・・・

感電している冒険者の骨が浮かび上がっているのだ。

薄暗かったギルド内に輝くその光景に誰もが息を呑んで見守った。


「あべべべべべべべべべべ」


まるで漫画、まるでアニメ、まるで小説。

手を離して女の子座りになる体格のいい冒険者の体からプスプスと煙が出ながらアフロになった頭の毛が風と共に散っていく・・・

開いた口からモヤモヤと湯気が上がり白目をむいた冒険者に近くに居た仲間が慌ててポーションを飲ませる。


「ぶっごええええええええ」


咽て苦しみだす冒険者、それはそうだろうポーション系の回復薬は傷口にかける事で効果を発揮するのだが飲ませるのが一番効果がある、だが誰もそうしない一番の理由は不味いからだ。

飲む事で全身に行き渡り細部の内臓まで浸透するその効果は絶大なのだが同時にあまりの不味さに味覚を破壊して数日はまともな食事も味が分からなくなる程なのである。


「ふんっ天罰よ」


無い胸を張って一言残してミリーは振り返る。

苦笑いの3人とギルドの受付嬢・・・


「あの・・・ギルド内での揉め事はご法度なんですが・・・」


と言っても手を出して来たのは向こうでこちらは降り掛かった火の粉を払った形になるのでそれほど強く指摘も出来ないのだが一応決まりになっているので受付嬢はサラにそう告げる。


「ここのギルドも物騒になったわね、あんな少女がこんな恐ろしい事をするなんて」


サラ、今更他人を装うつもりなのかミリーは仲間じゃないと言うつもりなのか私は関係ないわよと言わんばかりの物言いである。


「ねぇ!ねぇタツヤ!見てた?私格好良かった?」

「えぇっと・・・暴力は駄目よ」

「プッ」


一応見た目は少女であるゴンザレス太郎は慣れない女の子口調で告げるがその物言いが面白かったのかフーカが噴出す。

何処からどう見ても仲良し美女4人組なのだがサラはそれで押し通すつもりなのかギルド受付嬢の目を見て訴える。


「はぁ・・・まぁ確かに手は出してないですからね。とりあえず依頼の方は受け付けました。」


そう言ってサラの女神様の肉体の現在の場所を教えて欲しいと言う依頼を受け付けて貰った。

情報開示系の依頼は複数の人間からの情報提供にギルド側が受け付けて一定以上の信憑性のある有用な情報を提供してくれた方へ一定額の振り分けて後日成功報酬として渡すと言うちょっと特殊な形の依頼である。

基本的にその情報の内容によってランクは変わるのだがどのランクでも情報提供する分には受け付けている。

余り多くは無い依頼だが何かの依頼ついでに情報提供をするのが基本の形なので報酬はあまり大きくない依頼なのだが・・・


「それじゃこれ報酬ね、手数料込みでお願い」


そう言ってサラが提出した白金貨に目を剥く受付嬢。

手数料を差し引いても金貨90枚の依頼と言うのは情報開示系の依頼では本来ありえないのである。

だがこうしたのには理由があった。

ゴンザレス太郎のコード『所持金MAX』で用意出来る貨幣が白金貨のみだからである。

なので現在3人の財布の中身は全部白金貨となっていた。


「う・・・承りました!」


高額報酬の依頼と言うのはギルド側にとっても利益になるので望むところ。

言葉に詰まりながらも受付嬢は今月のノルマを達成出来そうなのに内心喜んでいた。

公務員的な立ち位置にあるギルド受付嬢も日本の警察官の様にノルマがあるのだ。

持ち込まれる依頼を処理するのが仕事のギルド、犯罪者を取り締まるのが仕事の警察。

こちらから売り込む訳でもないのにノルマがあるなんて問題がありそうだがそれで社会が回っているから仕方ない。

そして、サラと受付嬢の話が終わる頃後ろでは・・・


「今日はこれくらいで勘弁してあげるわ!ちなみに私はこの四天王の中でも最弱だ!」


とかミリーが絡んで来た冒険者の仲間に声高々に宣言しているのを聞いて頭痛のしてきたサラであった。

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