部屋中の鏡の中から、彼が見ていた。

まるでどれもが自分自身のように見えるのだが、どことなく一人一人違って見えた。


やられる!

そう思って私は鏡に向かって銃を乱射した。

破片が飛び散る・


まず、一体。

仕留めた。

鏡が血で染まる。

まるで眼球の中に瞼の裏から血がにじんだように、鏡のひびに血が入り込んでいく。


二体目。それは横を向いていた。

耳の横に×印がついている。それに向けて打ち込んだ。


3体目からはもう何が起こったのかわからない。

ドキュメンタリー番組の血のバレンタインデーのように平面の割れたガラスの形状に沿って赤い色が模様のように入り込んだ。


けれど再び正面を向くと、敵は再び現れた。

その時私はふと気が付いたのだ。

忘れていた、と。


鏡に向かって弾を打ち込むのなら、弾は的には当たらない。未来永劫。

撃つのは鏡の中の私自身に向かって撃たなければならない。


銃声は一回。



何かが飛び散る音がして、私は目を覚ました。


そして辺り一面が真っ赤に染まっているのを確認し、それと共に目の前は急速に暗くなっていった。



ありがとうございました。


青年がそうお礼を言い、私はまた一つ過去の記憶を受け取った。




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