第47話 邂逅

 修練場にはすでに8人の人影があった。そのうちの半分はジェドとシアは知っている。もちろんアレン、フィアーネ、レミア、フィリシアだ。


 残りの4人は近衛騎士の制服に身を包み、腰に剣を帯びている。先程のロムの話からこの4人がアレンやロムが指導しているという近衛騎士だろう。


 男性が3人、女性が1人という構成だ。


 ロムに気付いた近衛騎士の4人は直立すると一斉にロムに頭を下げる。


 ジェドはその近衛騎士の行動が強制されたものではなく、あくまで自発的に行われたものであることを感じた。


「ジェド、シア、よく来てくれた。紹介したい人達がいるんだ」


 アレンがジェドとシアに嬉しそうに声をかける。


(この4人…めちゃくちゃ強いな…近衛騎士ってやっぱり強いんだな)

(ここにいるって事はあの綺麗な女の人も近衛騎士なのかな?)


「この人達は俺の弟子の近衛騎士の方々だ。と言っても実際の指導はロムがやっているから、実質はロムの弟子と言った方が良いかも知れないな。言わば、ジェドとシアの先輩にあたる人達だ」


 アレンの説明に近衛騎士の人達はニコニコとしている。そこにはジェドとシアに対する悪意は一切感じられることはない。


「それからこの人達は、この間、魔族の騎子爵を斃している程の腕前だ」


 アレンの言葉にジェドとシアは驚く。


「え!? 魔族の騎子爵を!!」

「す…すごい…」


 ジェドとシアのが驚くのも無理はない。魔族はその魔力、身体能力で人間を遥かに上回る種族だ。魔族を討ち取るには『ミスリル』クラスの冒険者であっても苦戦するという話だ。という事はこの4人は少なく見積もっても『ミスリル』クラスの実力を有しているという事になる。


「強い…というのはわかってたけど…」

「うん…そこまで強いなんて…」


 ジェドとシアの賞賛の籠もった目で見られ、四人の近衛騎士は恥ずかしそうな表情を浮かべる。


「そ、そんなに褒めないで照れるわ。先生もそんなにハードルをあげないでください」


 唯一の女性の近衛騎士がアレンに抗議の声をあげる。といっても本気で怒っているわけではない。むしろアレンに対する敬愛の念に満ちている。


「そうですか? 俺はただ事実を言っただけなんですけどね」


 アレンの言葉に近衛騎士達は照れているようだ。アレンに褒められたのが純粋に嬉しいのだろう。


「アレン、とりあえずはお互いに自己紹介してもらったらどう?」


 このままでは話が進まないとフィアーネが声をかける。 


「そうだな。まずはやっぱり自己紹介からだな」


 アレンがそう言うと近衛騎士の4人は頷く。すると近衛騎士の一人がまず口を開いた。


「初めまして、俺はウォルター=ローカス。年齢は22歳だ。趣味は武器集めだ。二人ともよろしくな」


 ウォルターと名乗った近衛騎士は、短く刈り込まれた茶色い髪に堂々たる体躯と精悍そうな顔立ちは物語に出てくる『騎士』という感じだ。趣味は武器集めとのことであるが、コレクター的な一面を持っているのは確実だった。


「次は俺だな。俺はロバート=ゼイル、年齢はウォルターと同じで22歳だよ。俺の趣味は魔導具マジックアイテム集めだ。といっても危険なものは集めてないから安心して良いよ。よろしくな」


 ロバートと名乗った近衛騎士は、メガネをかけており、顔立ちだけ見ると騎士と言うよりも『有能な官吏』といった感じだ。だが、その体は過酷な修練によって裏付けされた確かな体つきをしている。

 趣味は魔導具マジックアイテムの収集という話なので、ウォルターとは気が合いそうだ。


「俺はヴォルグ=マーキスだ。年齢は20歳、といってもあと10日程で21になる。趣味は体を鍛えることだな」


 ヴォルグと名乗った近衛騎士はそう言うとニカッと笑う。筋骨逞しく、完全なパワーファイターのように見える。細かいことに拘らなさそうな感じだが、意外とこういう人の方が周囲への気配りを忘れないものだ。


「最後は私ね。私はヴィアンカ=アーグバーン、年齢は19歳よ。趣味は騎士としてはおかしいと思うかも知れないけどお菓子作りよ」


 最後のヴィアンカと名乗った女性は、髪こそ騎士らしく短いが可愛らしい顔付きの美少女だ。身長は女性としては高めだが体つきも女性らしい。


 近衛騎士達の自己紹介が終わり、今度はジェドとシアの自己紹介になるが、これと言って伝えるような趣味もないことから実際の所、名前と冒険者ランクぐらいしか言う事がないことに少しばかり気が引ける。


「俺、いえ私はジェドと言います。『シルバー』クラスの冒険者になります」

「私はシアと言います。ジェドとコンビを組んでいる『シルバー』クラスの冒険者です」


 ジェドとシアの何も面白味のない自己紹介に近衛騎士達は微笑みながら「よろしくな」と返してくれた。


「うん、そうだな、君達は俺達の後輩という位置づけだから、呼び捨てで『ジェド』『シア』と呼ぶけどそれで良いかな?」


 ヴォルグがジェドとシアに呼び方の確認をとる。正直な話、嫌が応もない。ジェドとシアは平民で、しかも一介の冒険者に過ぎない。身分制のあるこの国においては騎士に呼び捨てにされることについて抵抗するなどあり得ない。


 にもかかわらず、ヴォルグがジェドとシアに了解をとろうとするのは、二人を後輩と認めてくれている事を示していた。


「もちろんです!!」

「シアと呼んでください」


 二人の返答に近衛騎士達も微笑む。


「それじゃあ、俺の事はウォルターと」

「俺はロバートで」

「俺はヴォルグ」

「ヴィアンカと呼んでね♪」


 4人の近衛騎士達はジェドとシアに呼び捨てで呼ぶように求めてきたのだが、それはさすがに辞退することにした。年上の方を呼び捨てにするのは気後れするのでせめて『さん』付けさせてくれと頼み込んだのだ。

 短い押し問答の結果、最終的に『さん』付けで呼ぶことを了承したのであった。


 4人の近衛騎士との自己紹介が終わり、アレンから今日の邂逅の目的が話される。


「今日、双方を引き合わせたのは練習試合をしてもらおうと思ったからなんだ」


 アレンの言葉にジェドとシアの顔が凍った。

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