声なき悲鳴が誰かに届く時

アイオイ アクト

第1話 声なき悲鳴

 小さくて、とても大きな悲鳴が聞こえた。

 命の火が消える事を、必死に食い止めようともがくような、大きな意味を持つ声なき悲鳴だった。

 その悲鳴を上げる男の手は、アタシの足首を掴み、闇の底へと引きずり込もうとするのだ。それに抗うと、その男は化物のように腕を長く伸ばしてアタシの首を掴み、その手で強く強く締め上げられ、息が出来なくなったその瞬間、体を強く揺さぶられて目を覚ます。


 またこの夢か。

 目を開けて、自分の居場所を確認する。

 ああ、良かった。自分の部屋ではなくて、今寝泊まりしている下宿の狭い一室だ。

 あのかすかな悲鳴は、毎晩のようにアタシの頭を駆け抜ける。この悲鳴はきっと、一生アタシから去る事はないだろう。


 あの日、あの男に悲鳴を上げさせたのはアタシだ。

 だから、アタシはこれを一生背負い続けなくてはならない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る