第12話 12月15日 「壊れた茶碗」
十二月十五日
相変わらずの日々です。近頃では壁や床を鳴らすだけではなく、物にもあたるようになりました。家の全ての茶碗が壊れる日も、案外そう遠くないのかもしれません。私は市民講座に再び通うようになりました。休日に家に居ると、あの子はトイレにも行けないでしょうから。市民講座がない日は、あてもなく車を走らせ時間を潰してます。
「甘やかしすぎなんじゃないか」
事情を知ってる信二おじさんに言われたことがあります。無理にでも、病院なり地域の支援センターなりに連れてけばいいんだ、と。確かにそうなのでしょう。踏み出さないと、今の状態は変わりません。でも出来ませんでした。お父さんの件で少なからずとも真の人生を狂わせてしまった負い目、母親として何もできなかった負い目が、どうしても私を躊躇させるのです。
合格していた本命大学でサークルに入り夏にはみんなで海に行きお互いなんとなく気になっていた女の子と付き合い始め時には喧嘩もして彼女のために真っ新なスーツに身を包んで就職活動に苦戦しながらも本当に自分の入りたかった会社で仕事に打ち込んで……。
ええわかってます。こんな想像に何の意味がないことくらい。でも、ドア越しに漏れてくる悲鳴なような息遣いを聞くたびに、後悔の念が絡みついて、私は一歩も動けなくなってしまうのです。思えばあの日から、私たち家族は壊れていたのかもしれません。今日も二つ、茶碗が壊されました。
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