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「和夫は愛美とデキてる」 廃校になった小学校の落書きより。
大学、就職、結婚、子育て、どれも少しずつ巧を裏切ってきたが、(中には大きく裏切ったものもある)やはりスキーだけは巧を裏切らなかった、逆に巧を救ってくれたかもしれない。
脱輪した車でエンジンを掛けたままヒーターを入れてこんな雪山で一晩過ごすなどほとんど狂気の沙汰である。
三角板をどこに閉まっていたか暫く、思案していたが、巧は、喜び勇んで三角板を車の後部に出した。
そして、車の屋根のラックから、スキー板を外し、肩に
国道が右へぐるっとカーブし、その
当然、車は一台も停まっていない。
その広い駐車場を
民家には
ここが、民宿のようなこのスキー場の宿泊所なのだろう。
その大きめの民家の後ろには大分山肌を削ったらしいが、どんなコースなのかわからないが広いゲレンデがあり、暗くてもうよく見えないが、廃校と反対の向かって左手には、リフトらしき巨大な建造物があった。
スキーはともかく、なにより宿泊できることが嬉しかった。
民家の玄関は大きく古かった。戦前から建っていると言っても信じたであろう。そして、スキー場の宿泊所というより、本当に普通の民家だった。
一応、巧はこのスキー場に事前に電話で予約を入れていた。民家に到達するまでに巧はもう雪まみれになっていた。
普通の他人の家に訪れるように呼び鈴をならした。
返事はなかった。客商売的な相手を待たせないといった雰囲気もなく、巧は風雪が吹きすさぶ表玄関で震えながら待たされた。
そして、
文字通り見上げんばかりの大男は、無言で巧を見下ろしていた。
いらしゃいませの一言もなかった。ただ大男は巧を無表情に見下ろしていた。
「あのー先日予約を入れた、
巧は恐る恐る、尋ねた。
大男には返事がなかった。反対に迷惑だといった風でもない。とにかく表情がない。
「こりゃこりゃ、
大男の後ろから女性の声がし、白髪の初老の老女が現れた、年の頃は60代といったところか。老女は背が曲がっているわけではないが男と対称的に恐ろしく小柄だった。
「電話頂いとる、杉山さんかの」老女の周りには、小さな子どもが数人居た。
「私は、
「杉山巧といいます」
巧は、頭を下げた。巧はちょっと躊躇し車が脱輪したことを言うまいか逡巡したが言うことにした。
「そこのところで、雪道のせいで車が脱輪してしまって、、、」
「あーこんな田舎ですから、ようあるんです。とにかくようきんさった」
小さい子供から、十代の子供まで、良枝の後ろから巧のほうを伺っている。
「ほら、和夫、杉山さんを部屋まで
「あのースキー板とシューズはここに置かしてもらいます」
「先に風呂でも入られたら如何で、夕食は、家族とともにみんなで食べてもらいますんで」
「それでは、そうさせてもらいます」
和夫は巧の荷物を持つでもなく、どんどん屋内を進んでいった。
屋敷内のをどこをどう進んだか、わからなかったが、和夫に案内されて、部屋に通された。和夫は部屋まで案内するとなにも言わず、立っている。
巧はとりあえず、困るのでトイレだけどこか尋ねた。
和夫は、なにも言わず、廊下のとある向きを指差した。
部屋は紀行番組や、実家の日本家屋で嫌というほど見てきた日本家屋で一番よくある六畳間の和室。障子がぴっちり閉まっている。巧は吹雪で難渋したので、外を見る気はしない。部屋の中は、一通り掃除がなされていて、清潔感はあるが、よく見ると、隅の至る所にホコリが溜まっている。スキーをすることだけのための宿泊所なのだ。そう思うしか無い。
それに家具がテレビと石油ストーブしかない。そしてこの部屋は寒い事この上ない。
急いで石油ストーブをつける。押し入れには、布団が一式。その上に浴衣と半纏。
ここの宿泊料金も食事付きで驚くほど安い。ほぼ半額といってもいい。
「まぁ、こんなもんのか」
部屋にカバンを置いて、またもや独りごちる。
テレビは、お金を払って見るプリペイド方式。
スマホが使えないのでは、暇の潰しようがない、どうしようもないので、テレビにたくさん
車の脱輪はどうするかストーブの前で考える。あの大男の建男なら、車を持ち上げて国道に戻してくれそうだ。
だが、巧は頼めるか自信がなかった。
巧は。、浴衣と半纏、自身が持ってきたかんたんな洗面道具を持ち、風呂場を探しに行った。
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