第15話力の正体?
暗闇の中カケルは夢を見ているような感覚だった。目は閉じていても頭の中で映像みたいなのが流れている。鮮明には見えないが、確かに流れているのは分かっていた。
『この感じ……僕が高校に通っていた時の』
カケルが見ていた夢みたいなものは、高校時代の思い出だった。思い出といっても良い思いではなく、殆どが最悪だった。思い出したくないほどに。でも流石に映像がぼやけて鮮明に見えないからなのか、精神的には驚くほどに落ち着いていた。
映像は全てカケル視点で、九割が暴力を振るわれているシーンだった。そこのはイケメンの如月嵐士、t田中翼。そしてそれを取り巻く親衛隊がいた。場所は恐らく体育館裏?だと思う。詳しくは鮮明に映像が見えないため、分からなかった。だがやってる人はピンっときてた。多分雰囲気で分かったのだろう。
いつものように暴力を受け、昼休みが過ぎる。カケルは五時限目を受けずに保健室行き、消毒で傷が染みるのか顔をしかめながら職員室へ向かった。そしていつもと同じように『怪我が酷いので帰ります』と言い放つと、教師も『ああ。またあいつか』と聞こえない声で呟く。手をひらひらと振り分かったと合図を送った。
だが映像は帰り道で突然止まった。
まるでテープが切れた映画のように。
切れたと思うと、次は女か男かも分からない声が聞こえた。
声は優しい口調でカケルに語り掛けるようだった。
「貴方は――このままで――良いのですか」
「何が」
カケルはその声に対して自然と応えていた。
何かに導かれるように……。
「いつまでも――弱い自分から――変わらぬままで」
「はっ。変わる?何故?弱くて何が悪い」
「今――貴方の――大切な人が危険でも――変わりませんか」
そうか。確か僕はヴォルルフに滅多打ちされて、気を失ったんだっけ?
でもミア先輩なら大丈夫……。
「あの方なら大丈夫――と今思いましたね」
「ああ。確かに思ったよ。だけど大丈夫でしょ。実際だって降参してるでしょ」
ミアさんならすぐに状況を判断して降参するだろうと思っていたのだ。
だが、これはカケルが望んでいる状態で実際は違った。
「では――これを見てください」
男でも女でもない声が言葉を発した瞬間、頭にあの時の夢の映像のようなものが見えた。だがさっきとの違いは、映像が鮮明に見えることだった。
映像にはミア、ゼクス、ヴォルルフ三人の姿が映っていた。『お、おい。なんだこれ』とカケルは映像を見て反射的に言葉がぽろり、と出てきた。
ミアは二人にあらゆる所を叩かれ、服には血が滲んでおり目を覆いたくなる状態だった。そして意識が飛びかけると、一方的な攻撃をやめビンタで意識を戻す。これを繰り返して拷問に近い状態だった。
『う、嘘でしょ。何で降参しないかったんだよ』
「これは――今起こっている――事実です」
「これを――見ても――変わろうとしませんか」
「貴方には――大きな力を持っても」
「ち、力?そんなの僕には無いよ」
カケルの頭の中からは秘めた力の事は、全く覚えていなかった。いや、頭が回らなくなったのだ。
すると、くすくすと笑ってるような声を出した。
「覚えて――いませんか――貴方には――秘められた力が――あるのですよ」
そ、そうだった!僕には力が……え?何でこのことを知ってるんだ?
声は多分この世に存在しない物体なのに何故知ってるか。いや物体だとしても、この事を知ってる人物はこの世に片手の指で数えても余ってしまう。
『まさか!神様が見ていたとか?』と馬鹿な考えが浮かんだがナイナイと心の中で手を振った。
「何故、貴方が知ってるのですか?この世で知ってるものは限られてるのに」
すると、またくすくすと笑い出した。
「知ってるのは――私がその――力ですから」
「は?今なんと?」
「私が――その力ですから――と」
そ、そんなこと無いよね?きっと頭の打ち過ぎだよね。きっとそうだ。うん。
でも、もし本当だったら力とお話をするなんて凄いな。
「そして――私が言いたいのは一つ――私を使ってください」
「で、でも。」
「時間は――ありません――今も貴方の大切な方は――傷ついてるんですよ」
最後の声は凄く強く、姿は見えないが怒ってるようだった。
カケルは『ここままで良いのか?いやダメだ。前の世界から抜け出せたのに弱いままなんて。変わるんだ!僕は!そして大切な人を守る!』と自分自身と問いかけながら、心に決めた。
「分かった。使わせて貰うよ。」
「そう――来なければ――私が選らんだ――のですから」
すると帰り道の静止画が「パリッ」「バリッ」と割れていった。真っ白に変わったと思ったら、カケルは元の世界――闘技場に戻ってきたのだ。体は動かないで、力も湧いてくるわけも無くただ激痛を味わうだけだった。
すると霧のように頭の中にある言葉が浮かび上がった。
『えっと何々。我覚醒の時、全てを捻じ伏せる力、目覚めよ――マーズ!!』と心で詠唱した。どうやら声に発しなくても良いらしい。そして、その詠唱が覚醒の鍵だったらしい。そりゃ秘めた力も出てこないわけだ。カケルはうんうんと納得する。
今まで体に走っていた激痛は感じなくなり、体は軽い。しかも今まで無かった力が湧いてくる感覚があった。
こ、これが俺の力?ははっ信じれないな……。まあこんなのがあったら世界救えるな。だが今こんな事を考えている暇は無い。ミア先輩を助けなくちゃ。
カケルは『助けなくちゃ』と小さく呟くと、ゆっくりと目を開け、鉛のように重かった体を起こした。
「おい。お前らいい加減にしろ」
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