第16話 山本商店
「ヨネばあちゃんか? 田の沢地区の一番古い家にいるぞい」
モンスターさんは倒し、というか俺はたけのヤリで「面、胴、小手ぇっ」と剣道をやっていた高校時代を思い出し、モンスターさんの面を打ったり、胴をポコンとしたり、小手で武器のようなものをはたき落としていた。
あかねんは俺に必要以上にヒールをかけていたので、
「体力なくなるし、タローの呪文の訓練に付き合ってあげて」
と言って、2人でキャリーの練習をやるようにお願いをした。
戦闘は俺だけだが、このぬるい戦闘なら適当にやっていてもどうにかなる。
たまに「異世界ってすごい」とか「いつ転生したんだろう」とか、妙な言葉が2人から聞こえてくるが、俺はまるっと無視しといた。
そんなごっこ遊びを適当にこなしていて、さらに道行く人全員に尋ね回って、レベル5になった頃、ヨネばあちゃんの情報を手に入れることができた。
「ええと、田の沢地区っていうと、ここから歩いて10分ほどですね」
役場からずっと歩き通しの俺たちは、そろそろ疲れてきた。
というか疲労を感じているのは俺だけで、あとの2人は「異世界なんだから、疲れとか甘えたこと言ってられませんよ! 実際疲れてないし!」と目をランランと輝かせながら、なにかの中毒患者のように言っていた。
ソウデスカ、と突っ込む気力が俺にはなくなっていた。
そういえば、昼飯も食べてない。もう午後2時なのに。
「じゃあ、飯でも食って一服してから、田の沢地区に向かうことにしよう」
今までの戦闘で手にした所持金は150ゴールド。
どうやら最初に遭遇したスライムさんは、ゴールドスライムさんだったようだ。
そして、幸いにも目の前に山本商店というお店がある。
「ごめんくださーい」
カラカラとサッシ戸を開け、店内に入る。
普通にジュースやパン類、カレールーやなわとびが陳列されているが、普段の値段の表示の脇にゴールド表示があった。ありがたい。
ただ、なわとびには『いばらのムチ 250G』という表示があったが、買う予定はない。
俺はそこであんぱんとコーヒー牛乳を買う。もちろん牛乳瓶ゴールドで。
他の2人も食べ物を目の前にするとお腹が空いてきたのか、それぞれに選んで購入していた。
「や、やっぱり冒険といえば干し肉と水ですよ」
タローよ。なぜ普通のご飯を買わないんだ。
ていうか、異世界をどういうものだと認識しているんだ?
「えー、コーンポタージュスープと丸いパンでしょう」
あかねんよ。それは自分の好物じゃないんですか?
丸いパンってどう見ても俺と同じアンパンだし。食い合わせ悪そうだし。
もぐもぐと、それぞれに昼食を取る。
2人とも「異世界って言えば、魔法やお姫様!」とか「かっこいい武器と召喚獣でしょう!」とか盛り上がりつつ話していたけど、俺は異世界じゃないとわかっているので、そのへんは期待していなかった。
でも、少々この世界観に慣れてきた感じがしてきたのは事実である。怖いけど。
いやまて、村長の言っていた姫様と俺が結婚とか、そこまで本気じゃないだろうな。
そもそもこんな学芸会もどきで、将来の相手が決まるとか勘弁してほしいよ。
さっさとこの冒険を終わらせたい、そんな気持ちと、冒険が終わったらまたなにか厄介事が増えるんじゃないんだろうな、という気持ち、そんな悩みに俺は頭を抱えるしかなかった。
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