Ⅲ-Ⅰ
「いいか、絶対に騒ぐなよ? 忠告しても無駄かもしれんが静かにしろよ? 休めないから」
「むう……」
「ふふ……」
それでも火花を散らしながら、三人揃って風呂に入る。
町の領主ということもあってか、浴室はそれなりの広さを持っていた。俺達が独占しても寂しいぐらいの規模で、少しばかり優越感も湧いてくる。
先ほどの遠慮は嘘みたいに消え去っていた。ここまで来たら、好意に甘えないと勿体ないだけだろうし。
「ちょっと、早く上がりなさいよ。アタシとヒュロスが二人きりになれないじゃない」
「あらあら、騒ぐなって言われたばかりなのにそれ? 随分と我慢弱いお嬢様なのね。妻には相応しくないんじゃないの?」
「それを決めるのはヒュロスよ。貴方に言われる筋合いはないわ」
「確かにね。なら貴方も、私を除け者にしようとするのは止めたら? 決めるのはヒュロス君だって言うならね」
「ぐぬぬ……」
俺を間に挟んでの舌戦は、ややブリセイスが優勢のようだった。
しかし、騒ぐなと言ったのに相変わらずなのは頂けない。まだまだ収まる気配は無さそうだし、こっちのペースに巻き込んでしまった方が良さそうだ。
それにこのままだと、煩悩が刺激される一方で辛い。
何せメリハリのついた、抜群のスタイルを持つ美女に左右から挟まれている状態だ。気を逸らさないと耐えられるもんじゃないし、放っておけば新たな論点を生み出しそうな気もしてくる。
「なあヘルミオネ、お前どうやってラダイモンの外に出たんだ? オレステスのやつ、見張りとか立ててたんだろ?」
「ああ、それ? ちょっと一芝居打って、どうにか抜けられたのよ。最後はアテナ様の導きで、こうバビューンと」
「随分と温い結末だな……」
「えー、これでも必死に頑張ったのよ? 城の外に出ないと死んじゃう、って感じで演技して、オレステスにお姫様抱っこまでされたんだから。我慢したアタシの身にもなりなさい」
「なに……!? そんなの俺だってさせてもらってないだろ!?」
「あれ、そうだった? まあ言ってくれれば何回だってやらせてやるわよ。何なら今すぐやって頂戴!」
「却下」
火種になるのが見え見えである。
すっかりその気なヘルミオネは立ち上がっていたが、俺が止めると文句を流しながら腰を下ろす。反対側ではブリセイスが嘲笑しており、一色触発の空気が戻っていた。
やはり湯船に浸かっている間は、質問の連打で乗り切ることが肝要らしい。
「なあヘルミオネ、アポロン様のことで何か聞いてないか?」
恐らくもっとも重要な、ヘパイストスにも託された疑問。
しかし彼女の反応はいまいちで、逆に小首を傾げられてしまっている。
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