Ⅱ-Ⅰ

『放せ! 放せー!』


「んなこと言ったって、お前頭だけだろ? その後どうするんだよ? 満足に歩きまわることも出来ねえぞ」


『貴様の籠手から離れれば、いくらでも身体は作り直せる! だから――』


「そう言われて従う馬鹿がどこにいるんだ?」


『ぐ……』


 それに、そこまでしてもう一度戦う気にはなれない。何度やっても同じ結果が待っているだけである。


 安堵感に包まれる集落の中を、俺は勝利の余韻に浸りながら歩いていった。


 目指すのはもちろんヘパイストスの家。

 今手にしている元人間が喋ったことは、急いで彼に報告しなければならない。可能ならアテナの耳にも入れておきたいところだ。


「ヒュロス君!」


 目標地点が目に入ったところで、知的な雰囲気を持つ美女が駆け寄ってくる。


 ブリセイスだ。ヘパイストスに仕える神官であることを示す白い外套は、彼女の美貌をより一層際立てている。

 うん、やっぱり出迎えの美女は英雄に必要不可欠だ。やる気が俄然湧いてくる。


「大丈夫だった? 皆倒してくれたみたいだけど……」


「ああ、楽勝でしたよ。一人面白いのがいましたけど、大したこと無かったですし」


『お、面白い!?』


 余計な言葉が聞こえたので、一発殴って黙らせておく。

 とはいえ異様な存在感を放っている存在だ。集落の人はもちろん、ブリセイスも頭しかない蛇に興味を見せている。


「……何? それ」


「簡単に言って戦果ですよ。ささ、早くヘパイストス様のところに行きましょう。色々話したいこともありますから」


「なら行きましょうか。あの方も、首を長くして貴方の帰りを待っているわ。怪我していないか心配だー、って」


「ご覧の通り、無傷です」


 部隊の親玉と戦った時は圧勝だったし、その部下達とは不戦勝で終わっている。彼らが俺の顔を見た途端、一目散に逃げ帰ってしまったためだ。


 まあ攻撃したって構わなかったんだが……戦意喪失している相手に、槍を叩き込むほどの修羅にはなれない。紅槍だってヘソを曲げるだろうし。

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