第14話 ヴァルハラ
こんばんは。美しいと評判の三女神の末っ子スクルドです。
突然ですけど、わびさびって大切ですよね。
目の前には
うん、
少し前までは豪華な黄金色をしていたんですけどね……
そうだ! 渋い緑茶を入れましょう。
ボロボロになったベンチに座って緑茶を飲みます。
あ~ 落ち着く……
遠くの
「ス~ ク~ ル~ ド~」
ごめんなさい、消えなかったようです。
地獄の底から発せられたかのような声が聞こえてきます。
あの、ウルドお姉様……
ズルズルと長い髪を引きずりながら
日本で流行ったホラー映画の幽霊みたいですよ。
「た~ す~ け~ て~」
見なかったことには出来ないですよね。
無視すると呪われそうですし。
気持ちは分かりますが、助けられることと助けられないことがあります。
今回の場合は間違いなく後者です。
ここはヴァルハラ。オーディン様の宮殿の一つです。
ヴァルハラはラグナロクという最終戦争に投入する
良い所ですよ。黄金に光り輝く中、病にかかることも死ぬこともなく、毎晩宴会で食べたい物をたらふく食べて、美人のワルキューレにお
ちょっとだけ、朝から晩まで血みどろの戦いを毎日しなければいけないのが大変ですが、死んでも宴会前には復活できるので大丈夫です……
…… ダメでした。自分に嘘はつけません……
オーディン様ブートキャンプ! どこの軍隊も真っ青な鬼の訓練内容です!
地獄ですか? ここって地獄ですよね。毎日殺し合いってどれだけ
いくら戦争で活躍した英霊と言っても、戦いが好きという訳ではないんですよ。
領土拡大の野心や家族や家を守る
ヴァルハラに連れて来られた英霊達の顔を見ましたか? あまりに
黙々と殺し合いをする姿は狂気しか感じません!
それと英霊を連れて来る役目のヴァルキリーもおかしいです。
ナポレオンに
では、エジソンはなぜここにいるのですか?
毎日、開始直後に殺されるから死んだ目をしていますよ。
いや、まあ、元々死んではいるんですけど、あまりに
ヴァルキリーは新しい兵器の開発は戦力の増強になると言っていましたが……
ヘミングウェイって、なぜいるんですか? 作家ですよね?
若い時はイケメンだったって……
ブツブツと「この世では誰もが苦しみを味わう。そして、その苦しみの場所から強くなれる者もいる」とか言ってましたよ。
あれは完全に精神が病んでいる顔でした。
うん、そりゃあ、みんな逃げ出しますよね。
派手に暴れたのでしょう。至る所がボロボロです。
「ウルド、ヴァルキリーはどうしたの? 彼女が簡単に負けるとは思えないんだけど」
「お酒飲んで寝てるところだったのよ……」
ヴァルキリーは非常に強力な天使ですが、ウルドと同じでいい加減なところがあります。
そういえば、よく
…… あの残念美人は……
こんなカオスなヴァルハラの責任者は過去を
ヴァルキリー、ワルキューレは彼女の部下達です。
ウルドは責任者として原因究明と逃亡先の把握で大変だったのでしょう。
なんとか英霊達に戻ってもらわないといけませんね。
説得はほぼ無理でしょうから、力ずくになりそうですが……
か弱い私には荷が重いですが、努力している姿勢は大切です。
嫌ですけど、貸一つということでお手伝いしましょう。
「逃亡先はもう把握しているのよね?」
「あんたが光源氏計画で勝手に開けた異世界の門へ逃げたわ……」
えっ! それって……
目の前が真っ暗になりました。
――― それって、私が
◇◆◇◆◇◆
私はヴァルキリー、ウルド様に
妹分のワルキューレと一緒に戦いに明け暮れていたら死の乙女や
あの頃はペガサスを乗り回して、暴れましたね。
良い思い出です。
よく
今の仕事は……
死神ネットワークから送られてくるお客さんを店(ヴァルハラ)に通して、料理を運んでお酒を出す。
時々、
上司のウルド様は適当な方…… いえいえ、部下を信頼し仕事を任せられる素敵な方なので私には合っています。
ヴァルハラに入れるのは真の戦士だけなので本来であれば選別は大変です。
それを判定するのはもちろん過去を全て見ることができるウルド様。
あまり厳しい判定をされてしまうと、ノルマを達成するのが大変ですが、そこはさすがウルド様です。
連れて来た人はほぼ通ります。
この前はエジソンとレオナルド・ダ・ヴィンチを書類に紛れ込ませたのですが、問題なく通りました……
今度はリンカーンとヘミングウェイ辺りを連れてきましょうか。
これで通ったら、真の戦士ってなんなんでしょうね?
一般人でも良いのではないでしょうか??
私の密かな楽しみは朝のヴァルハラ戦争を見ながら一杯やることです。
感覚的には野球観戦でしょうか? 安酒しかないのが残念ですがストレス発散にはなります。
「おら~ 行け~ ぬるい攻撃してるんじゃね~」
今日はワルキューレ達が一人もいません。
サボっていたら
さっき、ロキ様が来ていたので
近寄らないようにしましょう。
近寄らないと決めたのに、ロキ様がこちらにやって来ました。
ニコニコしながら近づいてくるので嫌な予感しかしません。
「ロキ様、どうされましたか?」
「いやなに、良い酒が手に入ったから、お酒好きのヴァルキリーにどうかなと思って」
ロキ様は見た目は良いのですが、あまり評判が良くない男神です。
軽薄な笑みを浮かべて、突然お酒をくれるって、いくら私でも
「ふおお、幻のお酒『巨人殺し』じゃないですか!! いいんですか? もらっていいんですか?」
「そんなに喜んでもらえるとは思わなかったよ。アルコールがきつ過ぎて私には合わないから、好きな人に飲んでもらおうと思ってね」
いや~ ロキ様は良い神様ですね。
『巨人殺し』は神界でも幻のお酒です。
酒の神、クヴァシルに頼んでも3,000年は待たされる代物です。
大事に飲みたいところですが、他に知られると飲み分が減りますから、すぐに飲んでしまいましょう。
あ、そうそう。
「何か
ロキ様に可愛く言ってみました。
青い顔で出て行かれましたが、こんな貴重な物を渡すぐらいですから、何かあるのでしょう。
まあ、何かあっても『巨人殺し』を頂けるのであれば良いですけどね。
とりあえず飲んじゃいましょう!
――― いけない、いけない、飲み過ぎて寝てしまいました。
何も考えずに美味しいお酒を飲んで寝るのは気持ちがいいですね。
あれ? ヴァルハラが
英霊達もいません。
これは困りましたね。
とりあえず、ロキ様のゴキッは決定で。
う~ん、とりあえず、ここで寝転がっているのは危険ですね。
きっと
ん? あの穴はなんでしょう? ヴァルハラは英霊に逃げられないように他の次元とは切り離されているはずなのですが……
スクルド様の神力を感じますね。
ロキ様とスクルド様がグルになって、何かを
違いますね。あの二人がグルとはあまり考えられません……
まあ、逃げたのなら、追わないといけません。
鬼ごっこですか、ふふふ、私は得意ですよ。
よく鬼と言われますから。
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