ファーストレディ:免除されし者

「ファーストレディの政治的・民主主義的正当性とは?」

「先輩、私ら文学部です」

 寂れたカフェの、いつもの創作論議....ではなく、雑談。もう雑談だ。マスタアは皿を磨いている。私たちがしょうもないことで盛り上がるのにはもう慣れっこらしい。

「一応、聞くだけ聞いてあげますよ」

「国会議員、総理、大統領、こういう連中は選挙でえらばれるわけだ」

「そんなの常識ですよ」

「じゃあ、裁判官は?裁判官は選挙でえらばれていないが、三権分立において確固たる地位を占めている。民主的正当性は弱いが、これは民主主義の暴走に対するストッパーである点と、また国民審査によって国民が干渉できるという点、この二点をもってまだ正当化できる」

「そういえばそんなの、教養の授業でやりましたね」

「では官僚は?官僚に民主的正当性はない。しかしだな、彼らには専門知識があり、非常に難しいテストを突破して官僚になっている。だから、彼らは政策策定にかかわれる。それを正当化するほどの必要があるから、政治的に正当化されるのだ」

「大学卒業に9年かかる先輩とは大違いですね」

 無視される。

「あるいは王族や皇族の類は?彼らには必要性も正当性もない!しかし、国民がそれを望み、法律でそれを定めるから、まだなんとか存続できるのだ」

「まるで親に卒業を望まれるからまだ送金してもらえる先輩みたいですね!」

 またもや無視される。

「而して我らがファーストレディはどうだ!彼女らは選挙されない。またテストを突破するわけでもない。また法律がその地位を規定するわけでもない!而して汝らは政治に関わる!外交する!何故だ!」

「でも、それで問題は起きてないじゃないですか。寝たバグは起こすな事なかれ主義万歳、ですよ」

 マスタアが皿洗いをやめて言った。

「それなら、コーヒー一杯で居座る君の正当性は、だれが保証してくれるのかね?」


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