金の奴隷

「こうやって、今画面を見てるあんたがやってるみたいに、インターネット上で無料でたくさん高品質だったり低品質だったりする作品が読める時代に、金を使ってまで物理的に印刷するってのは、その小説が大したもんだと思ったからやってるわけで、それを金の奴隷ってのは違うと思うんだよな」

「先輩は時事問題をうまく皮肉ったつもりの、当然うまく皮肉れてないクソつまらない短編小説をPV20ぐらいのクソ雑魚ナメクジ短編集に投稿してる暇があったら、t〇getterをまとめる作業に戻ってください。後メタ発言は禁止」

 私と先輩は今日も今日とて寂れたカフェで創作論だ。もう創作論という建前も捨ててしまったように思うが。マスタアはいつものように皿を洗っている。

「第一人間ってのは生業で金を稼がなきゃ生きてかれんわけで、それは確かに金の奴隷と言えるかもしれんが、しかしそれをバカにするのは違うだろうと思うんだよな」

「先輩は親から仕送りもらって大学八年目じゃないですか」

 我ながらうまくカウンターが決まったと思う。

「それはモラトリアムだからセーフ」

「大学は学術をする場所ですし、一般にモラトリアムとして知られる学部教育は四年間です」

 そう、先輩は大学八年生なのだ。今年卒業できなければ除籍である。誰がどう見ても、小説など書いてる場合ではない。ましてやtogetter〇のまとめで炎上案件についてまとめて小説では稼げないPVを稼いで遊んでいる場合では当然ない。

「うるさいな、少なくともこいつよりはましだろ」

 そう言って先輩は炎上してるアカウントの言動をまとめた自分のまとめを見せてくる。小説よりまとめのほうがPV稼いでて恥ずかしくないのだろうか。

「っていうかですね、モラトリアムっていうからには当然そこから就職するわけですけど、就活はどうしたんですか」

 うまくいってるわけがないことを知りながら聞く。どこの企業が四年間留年した人を採用するのだろうか。しかも先輩は一年浪人もしているのだ。学部新卒(27)。ひどい。文字にすると一層ひどい。っていうか、なんで私はこんな人に敬語を使ってるんだ?

「今年は内定があった」

「ええっ!」

 さすがに本気で驚いた。こんなのに内定を出すなんて。いったいどこの企業だ。

「東証一部だぜ!」

 なんてこった。東証ってあの東京証券取引所の東証か?日本で一番上場基準が厳しい東証の一部?そんなところにいる会社がこの九年間モラトリアム野郎に内定?一体どんな魔術を使ったのだこの男は。

「飲食や介護をやってる撓みタワミという会社だ」

「あっ」

「えっ?」

 先輩はインターネットに小説を投稿する前に検索を覚えたほうがいいと思います。ググれよ

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