蟾蜍(ひきがえる)
鯊太郎
第1話 二匹の虫
草むらを歩く二人の男。
一人は黒塗りの
それほどに大柄というわけではないが、身体の骨格自体がいかにも戦国の武将たるを物語っているような
もう一人は、その男の少し後を追うように歩幅を小さく取りながらついて歩く。
日焼けした顔は浅黒いが、けっして
「
なおも東の空を見つめたまま、静かにたずねた。
供の侍は
「梅王丸殿はすでに
「
「はっ」
「
鎧武者は手にした乗馬用の
その音に驚いたのであろうか、季節には少しばかり早い一匹のキリギリスが草むらから飛びだしてきた。
しかし、そのキリギリスはすぐに動くことをやめた。いや正確に言うのならば、それはやめたのではく、やめざるを得なかったというべきであろう。
何故なら、枯れつつじの枝の間に張られた
二度ほど足を振ってみたものの、そう易々と蜘蛛の糸からは逃れられるものではない。キリギリスは片足を吊り下げられるような格好で動きを止めたのである。
一方の蜘蛛も容易には近づこうとはしなかった。それが蜘蛛というものの習性なのか、それとも期せずして自分よりも大きな身体をしたこの獲物に驚いたのか、蜘蛛もまた動くことを
それでも自然の
弾き飛ばされた蜘蛛は弧を描いて地面へと落ちて行った。
当たり前で考えるならば、このようなことが起ころうはずはない。しかし、現に今、起ころうはずのないことが起こったのだ。
地面に落ちた蜘蛛でさえ、この事実を受け止めるまでには多少の時間が必要であろう。
ところでキリギリスはというと、蜘蛛を蹴ったことが反動となったのか、それとも重力に対して自分の体重を支えきれなかったのか、糸に絡んだ一本の脚を残して、これまた地面へと落ちたのである。
つまりは、片足を失ったものの、キリギリスもまた、この思いも寄らぬ幸運を噛みしめるまでいくらかの時を数えたのは言うまでもない。
キリギリスはびっこになりながらも、身体を左右に揺さぶるようにゆっくりと歩き始めた。
したがって、二匹の昆虫の頭上には、主を失った蜘蛛の巣だけが初夏の風にゆらゆらと揺れている。
しかし、この
「
鎧武者はもう一度そう呟くと、怒りを込めた大きな眼でさらに東の空を
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