とるにたらぬ

朝野風

並行世界の友人

 下長の友人の黒岩は、アメリカに住んでいるということは無いのであるが、なぜか、FBメッセンジャーで送られてくる話題がアメリカの事にかたよっているのである。彼のブログもアメリカでの生活の事が書かれていて、主に、黒岩の子供達の習い事に黒岩が車で送迎することと、黒岩が夕飯に何を作ったのかが書かれていた。黒岩の奥さんの名前はクリスというアメリカ人らしいのだが、下長は会ったことがなかった。というか、黒岩がアメリカに住んでいるのはインターネットの中だけの話で、実は黒岩は独身で、下長の住むとなり町で一人暮らしをしているのである。

 それにしてもなぜ黒岩はインターネット上でアメリカに住んでいるように振舞っているのだろうと思い、下長はある時、黒岩と酒を飲みに行った時に聞いたのである。

「ああ、それはもう一人の俺だよ」

 と、黒岩は言った。

「もう一人の俺?」

「ああ、もう一人の俺は大学はアメリカに行って、そこで今の奥さんと出会って、そのまま結婚して子供は2人、まあまあ、幸せに暮らしているらしい」

「もう一人の俺って、何だよ?」

「お前、俺のブログは読んでいるか?そこにもう一人の俺の事が書かれているだろう」

「書かれているが、あれは何なんだ?」

「あれはもう一人の俺が書いているんだ」

「妄想か?」

「いや、まあ、早い話、並行世界の俺のことを書いていると言えば、分かってくれるかな」

「並行世界?」

「変な話なんだが、俺ももう1人の俺も俺なんだよな。だから、まあ、あのブログはもう1人の俺が書いているんだ」

「お前は2人存在しているのか?」

「いや、この世界には俺1人だと思うが、まあ、アメリカにもう1人俺が居ても、日本で俺がこの世に2人いると知っている奴は誰も居ないだろう。アメリカと日本の距離とゆうのはだな、もう、並行世界と言って良いんじゃないかと俺は思っているよ」

 そういえば昔、黒岩が異世界に行くと言って、アメリカに留学した記憶が下長によみがえった。アメリカに行けば、もう一人の黒岩に会えるのだろうかと下長は思う。


 


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