第5話 日常での邂逅
翌日、アスカは課題を終わらせるために学校へと顔を出していた。昨日のこともあり、当人はあまり気が乗らなかったが、学生である以上やるべきことはしないといけない。
彼女の通う学校はかなり珍しい幼稚園から大学までエスカレーター式に進学できる学校で、入学者なら園児であろうと大学生であろうと出入りできる図書館奥の自習室に高等部の資料図書を持ち込んで課題に取り組んでいる。
と見た目は真面目に進めているように見えているが、昨日の出来事が鮮明に残っており時折書く手が止まっている。
(簡単には切り替えられないか……)
さすがに学校には腕輪は持ち込んでいないが、考えるふりをして身につけることの多い腕の方に視線を移す。
(お婆ちゃんは、どこまで知っていたのかな)
思考が亡くなった祖母を思い返したその時、不意に肩をたたかれビクッと跳ね上がった。
「…びっくりしたぁ」
「うん、こっちもそこまでの反応するとは思わんかったわ…」
たたかれた方を見ると困ったように頬をかく長い髪をポニーテールでまとめた幼なじみの少女――三月恭子が立っていた。
「恭子ちゃんも来てたんだ」
「考えることは一緒やったみたいやな」
よく見れば恭子もアスカと同じ資料図書を持ち込んでいる。
「丁度良い時間やし、お昼行こうかと思ったら見かけたんやけど……どうする?」
「……行こっか」
手につかず、進んでない課題の内容を思い返し、気分転換をするためにアスカは恭子の誘いに乗り一端区切ることにした。
二人して資料を戻しに歩いていると、同じ高等部の制服を身につけた昨日の少年――西牙と中等部の制服を着た少女――可奈が向かい合う形で座り、西牙が指摘をするごとに可奈は天を仰いだり落ち込んだりとコロコロ表情を変える様子が視界に入った。
(……昨日ああいったこと言われたけど、普段はあたしと変わらないんだ)
ちらりと横目に見ながらそんな西牙と可奈の様子にさっきまでの考えが馬鹿らしくなり噴き出しそうになる。
(多分、中等部の制服の子、妹よね・・・苦労する兄ってところかしら)
そう考えながら宮沖兄妹から視線を戻すと同時に西牙がアスカに気がついた。
(今のは昨日の…それともう1人はどこかで見たような……)
勿論3人とも高等部といえど、直接の面識があるわけではない。しかし恭子だけは何かで見た記憶があるがはっきりとは思い出せない。
「…で、いつまで時間をかけているんだ?」
普段より幾分か低い声色で可奈に訪ねる。
「も、もう少しで…」
この時期の恒例行事みたいになっている可奈の課題を見るとき、この声になったら「もう面倒は見ない」の合図であるらしく可奈の表情がだんだん青白くなっていく。
この時ばかりは毎度のことながら自分のできの悪さと要領のなさを呪う可奈であった。
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