第3話 死に興味がある海上保安官 つづき

 目の前に横浜とはちがう海が広がっている。横浜港を出れば東京湾だがここは港を出れば玄界灘である。

自分達がいるのは第七管区海上保安部にいる。ここは九州北部地方の日本海、瀬戸内海、有明海ならびに山口県西部、福岡県、佐賀県、長崎県、大分県を管轄範囲とする、海上保安庁の管区海上保安本部の一つである。

本部は福岡県北九州市門司区西海岸にあり、下部組織として一〇の海上保安部、十二の海上保安署・分室、航空基地一カ所、海上交通

センター一カ所を有する。

管区には、国際海峡である対馬海峡や関門海峡があり、多くの船舶が行き交っている。

その周辺は玄界灘や豊後水道といった海の難所でもあり、多くの海難事案が発生する。

また、管区内には海上自衛隊及びアメリカ海軍の佐世保基地、長崎空港、新北九州空港、

大分空港といった海上空港、プルサーマル計画が実施される玄海原子力発電所と、警備が必要な施設が非常に多い。北九州工業地帯や大分臨海工業地域などの工業地帯における災害防除、博多港や下関港、北九州港、長崎港などの国際港があり、これらの港湾における警備や密輸阻止も大きな仕事である。

 「沢本隊長。韓国海洋警察と台湾巡視船を連れてくるのは捜査上理解できます。なんで海警船を連れてくるのですか?」

 背の高い保安官は不快な顔をする。

 「こいつは尖閣、先島諸島で仲間を喰ったカメレオンと一緒にいた。バラバラにしたい」

 別の保安官は李紫明をにらむ。

 部屋にいた保安官達がののしり、罵声を浴びせる。

 黙ったままの李紫明。

 「さらに納得できないのは「死神」を連れてきた事です」

 くだんの背の高い保安官はビシッと指をさした。

 「秋山。指をさすな。捜査に必要だから連れてきた」

 沢本は注意する。

 「海上自衛隊佐世保基地には佐久間さん達もいるし、こいつには発信機も取り付けてあるから逃げようとすれば捕まえる」

 ペクがチラッと見る。

 すでに険悪な空気が部屋には流れている。

 「秋山さんですね。巡視船「あきつしま」と融合している」

 翔太は笑みを浮かべる。

 「こんにちわ。君が葛城長官の息子さんですか。よろしくお願いします」

 秋山は破顔する。

 「背が高いですね」

 椎野が見上げた。

 「僕は身長は二メートルです。学生の時はバスケ選手でした」

 照れ笑いする秋山。

 「稲垣です」

 稲垣はあいさつする。

 「君は早稲田大学にいるんだ。私は慶応大学だったんです」

 女性保安官が握手をする。

 「君は?」

 稲垣はたずねた。

 「辰野由美です。巡視船「きそ」です」

 笑みを浮かべる辰野と名乗る保安官。

 「君は「りゅうきゅう」ですね。佐村さん」

 翔太は破顔する。

 「ちわっす。佐村です」

 佐村と呼ばれた保安官は照れ笑いする。

 「よろしくお願いします」

 三神は戸惑いながらあいさつする。

 「君が三神か。沿岸警備隊チームや特命チームに選ばれた事は知っている。よろしくな」

 秋山は三神と握手をする。

 「あのさあ、電話番号教えて。デートしませんか?」

 ナンパする朝倉。

 「やだ」

 きっぱり断る別の女性保安官。

 「ミュータント同士だろ」

 食い下がる朝倉。

 「私は普通のミュータント。あんたは巡視船。私にも好みがあるの」

 きっぱり言うくだんの保安官。

 ため息をつく三神達。

 「三神。相棒を変えた方がよくない?」

 あきれる辰野。

 「彼は俺のバディだ。仲間だし、彼のおかげで俺は突っ走らないで今までいられたんだ」

 はっきり言う三神。

 「そうなんだ。じゃあいいけど」

 笑みを浮かべる辰野。

 三神はチラッと見る。黙ったままの貝原は部屋に隅にいた。

 今まで、自分が厳しい訓練でやってこれたのは朝倉のおかげだ。父がTフォース日本支部司令官をやりながら邪神ハンターをやっていた。父は今では穏やかで丸くなったが昔は突っ走るタイプだった。というのも父は子供の時、妹を海の事故で亡くしている。そこから強さを求め続け邪神ハンターS級を取った。取り憑かれたように最前線に出ていた頃、貝原の父親と出会い二人で組んでやってきた。自分はその背中を子供の頃から見ているせいかその性格は遺伝していた。自分もどんどん突っ走りみんなに迷惑をかけたりする事があるから彼のおかげで死なずに済んでいる。

 「貝原さん。大丈夫だよ」

 翔太が声をかける。

 「そいつのあいさつなんかいいよ」

 辰野がつっけんどうに言う。

 「そいつが横浜に行く前になんて呼ばれていたか?そいつといると相棒が死ぬから「死神」「死を呼ぶ保安官」「疫病神」と呼ばれている」

 別の保安官はビシッと指をさした。

 「そんな・・・」

 絶句する翔太。

 彼には居場所がないのは確実だろう。福岡保安署に彼が来たとたんに険悪になった。誰も知らない横浜に赴任になっても彼には居場所がない。かといって就職はマシンミュータントは難しい。人間とちがい限定されてしまう。どこいっても彼はトラブル続きで孤立している。

 「私達がサポートするから一緒にやろう」

 椎野は手を差し出す。

 知らんぷりする貝原。

 「本気ですか?」

 秋山が嫌な顔をする。

 「貝原。君はこのままだとジョコンダやサブ・サンと一緒になってしまう。死に興味がある奴なんていない。よっぽどの連続殺人者か死体愛好者だ。それに死刑執行人に転職するのもいいけどそんな事は望んでいない。死刑執行人は死体愛好者や死人しか愛せない連中の集まりだ」

 三神は近づいた。

 「一日中。死体の処理なんて耐えられるのか?あいつらの仕事は死刑執行と退治した魔物の処理。死刑囚の世話と死刑執行。好き好んでやる奴はいなくて大部分は死体愛好者かそういう嗜好の連中がやる」

 朝倉は肩をすくめる。

 「また死体が増えるだけだ」

 言い捨てると貝原は出て行く。

 「彼は手伝ってとかが言えないのね」

 大浦が気づく。

 「言うタイミングもわかってないわ」

 心配する三島。

 「俺もわかるな。サポートされるとか手伝ってもらうのが嫌でしょうがなかった。でもそうしないと改善しない」

 どこか遠い目をする朝倉。

 「へえ~。ちっとはまともな事を言うわね」

 辰野が感心する。

 ムッとする朝倉。

 「彼は自分と組む相棒が次々死ぬから「死を呼ぶ海上保安官」とか「死神」とか呼ばれているけど彼は本当は仲間になりたい。僕は友達になっていいと思っている」

 何か決心する翔太。

 「そうは言ってもね。彼はトラブルメーカーだし、あの事件は未解決だし危険だよ」

 佐村がうーんとうなる。

 「沢本隊長。長島という人から電話です」

 別の保安官がわりこむ。

 「なんだろう?」

 沢本は受話器を取る。

 「もしもし。長島です。博多港に見慣れない漁船が一〇隻いる。それに大型コンテナ船がコンテナを積まない状態で入港してきたんだよ」

 長島が報告する。

 「それとなんだけど、アメリカ沿岸警備隊の巡視船が二隻、対馬沖をうろついているし、空母サラトガ、強襲艦「エセックス」沿岸戦闘艦が佐世保に入港したのが他の民間船から目撃されてる」

 夜庭がわりこむ。

 「わかった博多港に行く」

 沢本はうなづいた。

 「どこに行くの?」

 翔太が聞いた。

 「米軍の四人とアメリカ沿岸警備隊の二人が佐世保にいる。博多港にコンテナを積まない状態の船が入港。日本国籍でない漁船も一〇隻いる」

 沢本は口を開いた。

 「もうさっそくあいつらが来たんだ。じゃあジョコンダもいるよな」

 三神はつぶやく。

 さすが米軍というべきか。情報が早い。

 「僕も行く」

 「私も連れてって」

 椎野や稲垣が名乗り出る。

 「いいよ。来て」

 大浦が手招きする。

 沢本、朝倉、三神、大浦、三島は官舎から飛び出し岸壁から海に飛び込む。緑色の蛍光に包まれて巡視船に変身した。

 大浦が変身する巡視船「かいもん」の船内に乗り込む翔太、椎野、稲垣の三人。

 五隻は離岸した。


 博多港は、福岡県福岡市にある港湾。港湾管理者は福岡市。港湾法上の国際拠点港湾、

港則法上の特定港に指定されている。 博多湾に面している。一八九九年八月四日に開港した。古くは、那の津・那大津・博多津と呼ばれていた。近年、博多港は九州地域の経済を支える中枢港湾として、東アジア諸港における国際競争力の確保から国際海上コンテナターミナルの整備を進めており、高度物流の拠点港湾を形成している。外貿コンテナ取扱個数国内第六位。外国人旅客数およびクルーズ船寄港数は日本一となっている。また、神戸港より西の西日本では貿易額、コンテナ取扱量ともに首位である。

 三六四日・二十四時間入出港及び荷役が可能であり、北米・欧州航路のコンテナ船などが寄港する。また、福岡空港や都市高速が近くにあるため、利便性が高い。他にも、海岸沿いには福岡国際センター・マリンメッセ福岡・福岡国際会議場などのコンベンション施設があり、福岡ドームや福岡タワーなどの観光施設、シーサイドももちといった新都心も博多湾の沿岸に集中している。

旅客港として韓国や中国に近い博多港は、韓国・釜山との間に高速船を運航するなど需要も多く、外国航路の旅客数は日本一の港である。

「さすがに横浜港や東京湾とちがうな」

戸惑う沢本達。

「秋山達を連れてくればよかったかもしれない」

後悔する朝倉。

「貝原は?」

三神が気づいた。

翔太は死者の羅針盤を出した。

 「あのターミナルにいるよ」

 翔太はタブレットPCに地図を出して博多港の貨物ターミナルを指さす。それはデータリンクで送信される。

 福岡アイランドシティという名前の施設である。香椎パークポートの対岸に造成された港内最新のターミナル。貨物取扱量増加や船舶大型化に対応し、五万トン級のコンテナ

船一隻と六万トン級のコンテナ船二隻が同時に接岸できる。

そこに隣接する香椎パークポートは博多港の国際物流拠点化を想定した、二十四時間稼動の外内貿ターミナルである。

左右の港湾施設に旅客ターミナルや漁港などがある。

荒津地区。百二十八基の貯油施設のある石油中継基地。年間取扱量四七五万トンである。

須崎ふ頭。ムギ・トウモロコシなど穀物や、鋼材・木製品・豆類を扱う。

博多埠頭。国内定期航路や福岡市営渡船のターミナルを備えた複合施設で、水上バス「福博みなとであい船」も発着。

東浜ふ頭 砂利・砂・セメント・LNG・鉄鋼・石油製品を扱う。

箱崎ふ頭 穀物や青果などの食品、木材、自動車を扱う博多港最大の埠頭。

食品加工団地や大規模流通センターも整備。都市高速の箱崎ランプと貝塚ジャンクションに直結し、JR貨物博多臨港線福岡貨物ターミナル駅に隣接する。エチレンガスによるバナナ追熟加工場もある。

五隻の巡視船は福岡アイランドシティに接近した。大型コンテナ船が何隻か停泊しているが荷物を載せていない大型船がいる。

するとその船体をよじ登っている保安官がいる。貝原である。彼は背中から六対の触手を出し、触手の先端を吸盤に変えていた。

沢本は二対の鎖を出して彼をつかみ、引き寄せて船内に押し込んで埠頭から離れた。

五隻は博多湾を出て玄界灘に出た。

沢本は船内で拘束していた貝原を離した。

貝原は海に落ちて緑色の蛍光とともに「いなさ」に変身した。

「邪魔するなよ」

貝原は二つの光を吊り上げる。

「捜査するのには許可証がいるだろ」

沢本は声を低める。

「あそこから信号が出ている。僕はあそこに入るんだ」

貝原は強い口調で言う。

「証拠は?」

大浦が聞いた。

「信号だけじゃ決め手に欠けるわ。信号はどの船舶も使うからね」

三島が言う。

「邪魔なんだよ」

フン!と鼻を鳴らして壱岐島へ走っていく貝原。

「なんだあれ?感じ悪い」

あきれる朝倉。

「彼はトラウマを抱えている。彼の頭の中が一瞬見えた。なんだろう?あの人の思い描く未来が見えないのよ。SF映画で核戦争で壊滅した都市が出てくると思うけどあのイメージしかなくて彼は血を見てニヤニヤしているのよ」

困惑する椎野。

「血を見てニヤニヤってドラキュラじゃあるまいし」

三神が戸惑う。

「博多漁港へ行ってみよう」

翔太は口をはさむ。

「そうだな。いきなり行くと警戒されるから福竜丸を連れて行った方がいいかも」

三神は周囲を見回しながら言う。

福竜丸は自分達と出会う前は三つ葉丸として廃品回収をしていた。彼女なら近づけると思ったからだ。


博多漁港に接近する木造漁船四隻。

「住吉丸、福寿丸、小林丸。ありがとう」

翔太は住吉丸の船橋でお礼を言う。

「いいの。お互い様だよ。ヒマだったし、お土産持って帰れる」

住吉丸はうれしそうに言う。

「築地で魚を降ろしているけど仲卸が辞める人が多くてね。豊洲市場問題は深刻だね」

福寿丸がため息をつく。

「そうだよな。まさか盛り土がされてなくて空洞で地下水が溜まっているなんてわからなかった。女性の都知事が当選してよかったかもしれないぞ」

朝倉は船内から顔を出す。

「それは言えるな。今までの都知事だったらいつかはバレる。のらりくらりとかわして知りませんでしたと言い訳するつもりだったのかもな」

三神は周囲を見回す。

「まさか俺達が漁師の格好をするとは思ってなかった」

沢本は困惑しながら言う。

「私もよ」

大浦と三島が声をそろえる。

五人とも漁師の格好をしている。Tシャツにズボン。エプロンやゴム手袋に長靴である。

「でも漁師もいいかもしれない」

稲垣は声を弾ませる。

「すごいいい体験」

椎野が笑みを浮かべる。

翔太は死者の羅針盤を見ている。

「漁港に見慣れない漁船がいる」

第五福竜丸が注意する。船首と船尾の船名は「三つ葉丸」になっていた。

目を半眼にする椎野。彼女は翻訳機を耳にかけた。

「中国語が聞こえる。税関の目をかいくぐれ。ニトロドラックはまだか」

「まずい。ニトロドラッグは覚せい剤と同じだ」

身を乗り出す三神。

「あせるな。俺達が保安官だとバレる」

腕をつかむ朝倉。

「そうだった」

うなづく三神。

「あの桟橋に近づいて」

翔太は声を低める。

稲垣は無線機を出してダイヤルを調整する。

「時空トランシーバーを警察に取られた。代わりになるものが必要だ」

「スパイに取ってこさせろ」

椎野は棒読みで言う。

沢本達は船内の窓から漁船の様子をのぞく。

漁師達は壺やクーラーバックなどを岸壁に上げる。中にはジュラルミンケースが混じっている。

翔太の脳裏にある映像が入ってくる。ジュラルミンケースの中味を空けると白色の液体が入っていてそれを小分けビンに入れていくという映像になる。そしていくつかの部品も組み立てると量子コンピュータになり周囲に虹色の綿毛が落ちている映像になった。あの番号で書かれている五隻だ。

「あれはたぶん禁止薬物と何かの部品ね。どちらにしてもテロリストや魔物を入れる原因になるわ」

目を半眼にする椎野。

「証拠も取れた」

朝倉はカメラを見せる。家電量販店で普通に動画も撮れるカメラである。

カッパを脱いで、エプロンと取る五人。下には海保の作業着を着ている。

沢本達は岸壁に飛び出した。

「海上保安庁である。現場はばっちり取れいている」

沢本は声を荒げた。

朝倉はカメラを見せた。

三神は三つのジュラルミンケースを取り上げた。

「やばい!見つかった」

中国語で叫ぶ漁師達。

三島は呪文を唱えた。一〇人の中国人漁師の足にからみつく海藻や草。

「残念ね。福岡保安署まで来てもらう」

大浦はビシッと指をさした。

「バカなぁぁ!!」

海藻がからまり動けない中国人達は中国語でわめいた。


福岡防災基地の会議室に押収した薬物や部品や壺が並べられていた。

「福岡県警としては礼を言う」

中年の刑事は頭を下げた。

「警視庁としても指名手配の中国人が混じっていた」

羽生は後ろ頭をかいた。

「そうなんですか?」

身を乗り出す翔太、椎野、稲垣。

「ほっとけば禁止されている古代遺物や魔物を封印した壺や箱を入れてしまうからね」

くだんの刑事は笑みを浮かべる。

「沢本、三神、朝倉、大浦、三島。ご苦労だった」

白髪の保安官が口を開いた。

「成増教官」

沢本が気づいた。

「知り合いですか?」

翔太と稲垣が声をそろえる。

「マシンミュータントに成り立ての新人を訓練する教官だ。俺と朝倉は更科教官だ」

三神が答えた。

「私と大浦の場合は蓼沢教官なの。邪神ハンター訓練や試験管もしている」

三島が思い出しながら言う。

「俺と融合した「やしま」は指揮機能、拠点機能巡視船だから旗艦機能もある。大規模災害の時は司令部としても機能する。使いこなすのに苦労した」

どこか遠い目をする沢本。

「つまり佐久間さんが融合するイージス艦「あしがら」や霧島さんが融合する「みょうこう」のような物ですか?」

椎野がポンと手をたたく。

「似たような物かな」

うーんとうなる沢本。

「拠点機能、指揮機能巡視船は「りゅうきゅう」「いず」「あきつしま」型「はてるま」型「くにがみ」型もそうでしょ」

翔太はタブレットPCを見せた。

「他にもいるけど。俺はそれに向いてなかっただけみたい」

困った顔をする朝倉。

「注意力が散漫なだけでしょ」

しれっと言う大浦。

ムッとする朝倉。

「翔太。君の事は聞いている。南シナ海の時空の門事件と横浜の時空の扉事件ではよくやった。海警局は手口を変えてきた。漁船や漁師というスパイを入れようとした」

成増は写真を見せた。

写真をのぞく翔太達。

「ほとんどスパイで、入国管理局や警視庁が追っている中国人と暴力団メンバーなんだ。我々も追っている。君と椎野さん、稲垣さんはその力で捕まえたんだ。その力を誇っていい。すごい能力だ」

成増は笑みを浮かべる。

「ここにいたんだ」

部屋に入ってくる長島と夜庭。

「どうした?」

沢本達が振り向く。

「コンテナを載せてない大型コンテナ船が出港して出て行った。おかしいよ。なんにも乗せてないって」

長島と夜庭が声をそろえる。

「中国漁船が玄界灘や対馬海峡に出没している」

黙っていた重本が口を開く。

「それは変だよね。何か待ってるみたい」

住吉丸だった男性が口を開く、

福寿丸や小林丸だった漁師がうなづく。

「貝原さんはどこ?」

あっと思い出す重本。

「壱岐島の方に行った」

三神が答えた。

「オルビスがいれば何がいるのか一発でわかるのにな」

朝倉がつぶやく。

「オルビスとリンガムはTフォース本部で定期点検だから来ないよ」

翔太が答える。

「佐世保基地に行こう。長島さんと夜庭さんと住吉丸達は博多港に不審船が入ってきたら連絡して」

三神がひらめく。

「わかった」

うなづく長島達。

「俺達は福岡中央署にいる」

羽生は言った。


貝原は壱岐島の港に入った。船首を港の出入口に向ける。

信号が聞こえていた気がする。その信号は中国の北京、海南島を通って対馬や壱岐島を経由して福岡に来ている。

なんだろう?白檀の匂いがする。

貝原は港に接岸すると緑色の蛍光に包まれて元のミュータントに戻った。

岸壁に露出度の高い服を着た中国人女がいる。彼女はサングラスを取った。

「箔麗花。会いたかった。デートしよ」

ニヤニヤ笑う貝原。

「どういう状況か教えてくれる。あの漁師小屋に来て」

箔麗花は笑みを浮かべた。

漁師小屋に足を踏み入れる二人。

「金流芯、夏謳歌、洪怜維だろ」

貝原は出されたお茶を飲んだ。

「よくわかっているじゃないか。この船が博多港に入港させたいんだが、この民間船と漁船を遠ざけてくれないか?あと、妨害電波を出してこの埠頭に入れる」

洪怜維は笑みを浮かべ地図と写真を見せる。

「香唯パーク埠頭に入れればいいのか」

博多港の地図を見てうなづく貝原。

「倉庫で取引がある。邪魔されたくないし、俺達も取引に参加する」

洪怜維は声を低める。

「僕は妨害すればいいのか?」

貝原は香唯パーク埠頭倉庫をながめる。

「そうすれば結婚を考えてもいいよ」

箔麗花はそっと抱き寄せる。

ドキッとする貝原。

なんて幸せなんだ。結婚ができるなんて!

彼の瞳はハートマークになっていた。


その頃。海上自衛隊佐世保基地

基地の会議室に翔太達が入ってくる。

「翔太、三神。この貝原という保安官から目を離さない方がいいかもしれないわ」

佐久間はデスクパソコンを操作しながら顔を上げた。

「え?」

「沢本。「あきつしま」達を呼んで博多港や玄界灘、対馬海峡に入ってくる大型コンテナ船に気をつけろという警告がアニータ達から入っている」

間村は地図を出した。

「李紫明、ペク、キム、李鵜、烏来は仲間を呼んで荷物を積んでいない大型船に気をつけろ。荷物を積んでいるフリをする中国籍の船とパナマ船籍で中国企業が船主になっている船があってそれは南シナ海に行く船だ」

霧島は船籍や船の種類や中国企業の名前を出した。

「幅が広いな」

キムと李鵜が困った顔をする。

「見逃すと釜山や台北で横浜と同じような事が起こるだろうし何かの取引現場がそこにある。それはカメレオンの卵だったら?ニトロドラッグだとやばいぞ」

室戸は写真をペクや烏来に渡す。

「博多港、釜山港、台北港に入港する中国企業の船主のリスト。隠し口座や資金洗浄専用の口座は警視庁や福岡県警に渡した。羽生さん達が動いているわね」

佐久間は名簿を渡した。

「この名簿はどこで?」

疑問をぶつける沢本。

「ライ・コーハン」

佐久間が答える。

「さすがスパイだ」

感心する三神と朝倉。

「貝原さんはどこだろう?壱岐島にいるというのを聞いたけど福岡保安署に帰ったのかな?」

翔太は聞いた。

「彼は福岡沖の無人島にいるわね」

佐久間は地図を出した。

「無人島?」

聞き返す三神と沢本。

「秋山に聞いた方がいいな。俺達はまだ把握していない」

困惑する沢本。

「私達は同僚をもっと呼んで対馬海峡や韓国領海をパトロールする」

「俺達は東シナ海だ」

「台北港や他の港に入港していないか聞かないと」

ペクとキム、烏来と李鵜は退室する。

「俺達手伝う。東シナ海や尖閣諸島沖でうろつく中国漁船や海警船を追い払う。沢本達は玄界灘をうろつく不審船を捕まえろ」

間村は東シナ海を指さす。

「間村さん。ありがとう」

三神はうなづく。

「自衛隊は国を守らないといけない。俺達の役目だ」

間村は三神の肩をたたく。

「戦闘機のミュータントや他の奴らも連れて警備だ」

室戸はそう言うと出て行った。


翌日。福岡防災基地。

秋山は地図を広げた。

「佐久間さんの言っている無人島は福岡県糸満市沖にある烏帽子灯台ですね。一四〇年前の明治時代にこの灯台は立てられ、今から四〇年前までは灯台守がいたけどそれは廃止になって福岡海上保安部が見回りをしている」

秋山は写真を出して説明した。

「壱岐島には漁港だけですか?」

三神がたずねた。

「ここにも見回りする。魔術師協会出張所があるし、駐在所もある」

辰野が壱岐島の地図を出した。

「羽生さん達に行ってもらって何か盗まれてないか聞いた方がいいかも」

心配する翔太。

この胸騒ぎはなんだろう?何かを福岡に入れようとしているけどテロリストではないしそういう報告はない。

「秋山。中国籍の大型船や中国漁船に気をつけろ」

沢本は秋山の肩をたたくと三神達と一緒に出て行った。


三十分後。烏帽子島。

周囲一〇〇メートルの岩だらけの島に接近する巡視船五隻。

粗末な岸壁に巡視船「かいもん」が接岸した。岸壁に上陸する翔太、椎野、稲垣。

五隻の巡視船の姿が緑色の蛍光に包まれて元のミュータントに戻った。

沢本、三神、朝倉は駆け足で急斜面の階段を駆け上がっていく。

「階段が壊れているし、雑草が深そう」

困惑する翔太、椎野、稲垣。

「廃止になって四〇年が経っているからね。見回りや点検は辰野さんや普通のミュータントの保安官の持ち回りね」

 大浦は生い茂る雑木林をのぞく。

 「人間の足じゃ無理ね」

 三島は切り立った崖を見上げる。高さはビルの一〇階位はある。この無人島は崖に囲まれ、灯台守は普通のミュータントがしていた。

 しばらくすると崖から飛び降り岸壁に着地する沢本、三神、朝倉。

 三人とも雑草が詰まったゴミ袋を一〇袋かついでいる。

 「灯台を開けた形跡がある。結界が停止していない所を見ると魔物やテロリストではないらしい」

 沢本は動画を見せた。


 同時刻。壱岐島駐在所

 初老の警官と中年の女性がいた。

 「ここの駐在所の河本です」

 「魔術師協会壱岐島出張所の千原です」

 駐在所にいた男女は名乗った。

 「警視庁の羽生です」

 「同じく田代です」

 羽生と田代は警察手帳を見せた。

 「魔術師協会東京新木場支部の和泉とエリックです」

 資格証を見せる和泉とエリック。

 「東京からなんだ」

 声をそろえる河本と千原。

 「この港でこの巡視船や中国人を見ませんでしたか?」

 羽生は何人かの中国人や巡視船「いなさ」や貝原の写真を見せた。

 「何人かの漁師が見慣れない中国人女が港にいるのを見たな。それに漁師小屋を貸してくれと言ってきた」

 河本駐在員はあっと思い出す。

 「どの人ですか?」

 身を乗り出す四人。

 「この人とこの人」

 箔麗花と貝原を指さす河本。

 「この保安官は灯台に入っていくのを見た」

 千原が貝原を指さした。

 「灯台と漁師小屋に案内していただけませんか?」

 羽生は話を切り出す。

 「こちらです」

 河本と千原はうなづいた。


 博多港。

 「こちらロイヤルウイング」

 旅客ターミナルに停泊するレストラン船は周囲を見回した。

 「こちら第五福竜丸。住吉丸達と漁港にいる。中国漁船はいない」

 無線で報告する第五福竜丸。

 「博多港をしゅんせつしている清龍丸です。異常ナシです」

 夜庭が無線に答える。

 「怪しい大型船はいないな」

 長島はつぶやいた。

 「あれ?「いなさ」だ」

 夜庭が声をかけた。

 「そこのしゅんせつ船。掘っていい許可はもらったのか?」

 貝原は近づいた。

 「国土交通省から許可はバッチリ」

 夜庭は声を弾ませて許可証を送信した。

 「本物か・・・。レストラン船は福岡アイランドシティターミナルにいるのか。じゃああの四隻の漁船は?」

 貝原は聞いた。

 「漁船なら博多漁港でしょ」

 しゃらっと言う夜庭。

 「漁港は向こうか」

 貝原は船首を漁港に向けた。


 福岡防災基地。

 会議室に入ってくる羽生、田代、エリック、和泉。

 部屋には沢本達が顔をそろえていた。

 「壱岐島の駐在所と出張所に確認したらここに箔麗花と貝原が来たらしい」

 壱岐島の地図を出す羽生。

 「そこの灯台に何か仕掛けたのよ。鑑識に調べてもらったら軍事用の電波妨害装置」

 田代は証拠品の無線機のような物を出した。

 「結界灯台は停止していない。でも鍵がなければ開けられない」

 灯台の写真を指さすエリック。

 「そちらの方は?」

 和泉が促す。

 「烏帽子島の灯台も結界灯台だ。でも結界には異常ない。こんな物がしかけてあった。たぶん妨害装置だ」

 沢本は無線機箱を出した。

 「福岡防災基地にあった「灯台の鍵」が盗まれていた形跡があった。たぶん貝原だ」

 三神は写真を見せた。

 ただの鍵ではなく一種の魔術アイテムである。あらゆる灯台の鍵を開けられる。形状は横浜港のとはちがい時空アイテムではない。

 固定電話が鳴った。

 「はい。福岡保安署です」

 沢本は電話に出る。

 「こちらロイヤルウイング。荷物を載せていない大型船が香唯パーク埠頭に入港してきた。漁船が玄界灘にいる。日本の漁船に変装しているけど光る模様のある漁船がいる」

 長島が報告する。

 「こちら清龍丸。「いなさ」が博多漁港に行った。漁港にいる第五福竜丸達を探しに行ったよ」

 夜庭が三神のスマホに電話してきた。

 「玄界灘にいる「あきつしま」達にカメレオンの漁船を追い払うように指示する。長島と夜庭は第五福竜丸達の援護。俺達は香唯パークだ」

 沢本は目を半眼にすると送信した。

 翔太の脳裏に映像が入ってきた。それは棺おけが船内にある映像だ。その死体にクモのようなエイリアンを入れる。するとそれがゾンビのように蘇るというものだ。でもその棺おけの一つから無数のささやき声が聞こえる。

でもオルビスや父からオルビスの種族が落ちてくる事は聞いてない。

 「どうした?」

 エリックが聞いた。

 「なんでかわからないけど大型船には死体しか入っていない映像でそこからささやき声が聞こえる」

 困惑する翔太。

 三神は地図を見ながら補聴器を取った。これはアーランがもらった制御装置である。せつな、泣き声ともささやき声を合わせたすすりなく声が聞こえた。その声は香唯パーク埠頭に接近する大型船から聞こえる。それと同時に中国語が聞こえる。

 「助けなきゃ・・・」

 三神はアーランからもらった腕輪をはめて窓を開けた。

 「それはこの荷物を載せてないコンテナ船から聞こえる」

 翔太は映像に映る大型船を指さす。

 「あれ?三神は?」

 稲垣が気づいた。

 「しまったぁ!!」

 朝倉は頭を抱える。

 「香唯パーク埠頭倉庫よ。そこから泣く声が聞こえる」

 椎野が戸惑う。

 「レビテト」

 和泉は呪文を唱える。力ある言葉に応えて翔太達が浮いた。

 


 博多漁港。

 「そこのゴム漁船とポンコツ三隻」

 貝原は漁港にいる四隻に声をかけた。

 「僕はゴムじゃない。放射能病と夢の島に捨てられたせいでそうなった」

 声を荒げる第五福竜丸。

 「気持ち悪い船。おまえもそこ三隻も廃船置場に捨ててやる」

 貝原は一〇対の鎖を出した。

 「おかしいだろ!!海上保安庁の巡視船が僕達を捨てるのか?」

 怒りをぶつける住吉丸。

 「捨てる。役に立たないなら切って捨てるまでさ」

 貝原は船橋構造物から八つの拡声器を出して笑う。貝原が動いた。

 「ぐはっ!!」

 住吉丸、小林丸、福寿丸は機関砲でエンジンを撃たれ動けなくなった。

 第五福竜丸は八対の鎖を出した。先端を鉤爪に変えて黄金色に輝いた。

 貝原と第五福竜丸は遠巻きににじり寄ると動いた。鉤爪による速射突きを繰り出し、互いに間隙を縫うように受払いよけた。貝原は機関砲を連射。

 第五福竜丸は周囲を走り回りよけて魚網を投げた。

 貝原は横にスライドする感じでかわして魚網をつかみ投げた。

 第五福竜丸にからみついた。

 貝原に一〇対の鉤爪で彼女の船体を何度も引っかいた。

 「ぐうぅぅ・・・」

 もがきのけぞる第五福竜丸。

 電子脳に鋭い痛みとなって伝達される。でも船体は引っかかれる度にゴムのようにへこみ傷がつかない。

 貝原は四対の鎖を巻きつけ彼女を持ち上げると岸壁に投げた。車や小屋を押しつぶして横倒しになった。

 「ちくしょう!!」

 住吉丸、福寿丸、小林丸は八対の鎖を出して飛びかかる。

 貝原は拡声器を向けた。音が壁となって広がった。

 衝撃で吹き飛び三隻は岸壁にたたきつけられた。

 その時である。ロイヤルウイングの体当たり。轟音が響いて桟橋に激突する「いなさ」

 「貝原さん。何をやっているのですか?」

 夜庭と長島は声をそろえた。

 「僕は取締りをしている」

 しゃあしゃあと言う貝原。

 「第五福竜丸達を傷つけて?」

 長島は声を低める。

 「僕は死に興味があるんだ。これから第三次世界大戦になり死体だらけになる」

 貝原はビシッと指をさした。

 「和田保安官を殺したのか?」

 夜庭が核心にせまる。

 「僕が行った時には死んでいた。死人の顔を拝んだだけ。血もなめると犯罪者の心理に近づけると思ったけど何にも感じない。邪神が復活すれば死は死に絶える」

 笑い出す貝原。

 「狂ってる」

 絶句する長島と夜庭。

 貝原が動いた。

 夜庭の船体をえぐったつもりが油がねっとり鉤爪についていた。

 「なんだこれ?」

 困惑する貝原。

 「それは廃油。でも僕はヌタウナギの能力を持っている。ただの油じゃないんだな」

 うれしそうに言う夜庭。

 「僕は普通に魔物ハンター」

 声を弾ませる長島。

 「ならエンジンをえぐってやる」

 貝原は身構えた。


 同時刻。香唯パーク埠頭岸壁に接岸するコンテナ船。弦側ゲートが開いて四人の中国人が降りてくる。

 倉庫から出てくる一〇人の男女。彼らの背後のコンテナが置いてある。

 「尾羽三千郎さん。いつもご苦労さまです」

 洪怜維は笑みを浮かべる。

 「警察が今ではうるさいからな。数をそろえるのに苦労した」

 尾羽と呼ばれたヒゲの男は口を開く。

 洪怜維や金流芯、箔麗花、夏謳歌が近づく。

 一〇人の男女も近づく。一〇人とも屈強な体格で長剣や魔弾銃を携帯しているのが金流芯は笑みを浮かべる。もちろんこの一〇人がハンターなのは知っている。でもTフォースやハンター協会、魔術師協会が派遣する正式なハンターではなく違法に活動する者達だ。

 「警戒しなくても何もしません」

 洪怜維は両手を広げた。

 ベルトコンベアーが動いて長方形の箱が流れてくる。その代わりにコンテナから正方形の箱が大型船に積み込まれる。

 「とびっきりのものを用意しました」

 洪怜維は流れてきた長方形の箱を持ち上げ台に置いた。蓋を開けると胴体のみの人形が入っていた。

 「人形?」

 尾羽は首をかしげる。

 「改造ミュータントを闇市場で仕入れたんだがどうやらオルビスと同じような種族で「宇宙の漂流民」らしい。手足は処分した」

 洪怜維はニヤニヤ笑う。

 「ほう。これが」

 尾羽はのぞきこんだ。

 夏謳歌は身構えた。

 「どうした?」

 尾羽と洪怜維が聞いた。

 金流芯と箔麗花は身構えた。

 一〇人の男女は魔弾銃を抜いた。

 その時である。青い陽炎が一〇人の男女の銃を取り上げ、掌底を弾き、ハイキックや手刀を振り下ろし、洪怜維に飛び蹴りして着地した。

 「なんだぁ?」

 驚く尾羽。

 見ると自分の部下達が目を剥いて伸びていた。

 「三神!!海保がなんでいるんだ」

 金流芯が叫んだ。

 「違法薬物を輸出するのか?大型船がどこの船籍でどこの船主なのか海保で検討がついている。その部品はミサイルや武器に転用できる」

 三神は声を低めた。

 尾羽は早撃ちガンマンのような手さばきで銃を撃った。

 三神が動いた。その動きは尾羽達には見えなかった。

 気がついたら洪怜維と尾羽は手足をロープで縛られていた。

 「野郎ども出て来い!!」

 尾羽は叫んだ。

 倉庫の管理棟や二階のバルコニーから尾羽の部下が出てきた。手には魔弾銃や長剣を持っている。

 三神の電子脳に脅威順に表示される。

 三神が動いた。金流芯が動く前に天井や壁を駆け抜け片腕の機関砲と背中から飛び出した金属の触手の先端を銃身に変えて連射。銃弾はそこにいた尾羽の部下達の腕や足に命中した。射撃管制装置が計測したデータで弾道や位置を計測して次々撃っていく。

 「どうなっとるんだ?」

 尾羽と洪怜維達の目には青い陽炎が動き回っているしか見えなかった。

 「やはりすごい・・・」

 つぶやく金流芯。

 普通の人間やミュータント、マシンミュータント達の目には陽炎や残影が動いているにしか見えないが超高速で駆け回りながら相手の肩や腕や足を撃っている。

 その陽炎はスピードを落として地面に着地した。息を整える三神。

 バルコニーや床にうめき声を上げてのけぞる部下達。

 「警視庁だぁ!!」

 「海上保安庁だ!!」

 ドアから飛び込んでくる羽生達。

 後から盾を持った警官達が入ってくる。

 「すげえ・・・」

 絶句する羽生と朝倉。

 「おまえが三神なんだ。海保の邪魔な巡視船なんだろ」

 夏謳歌は太極拳のような動きをしながら笑みを浮かべる。

 三神は深呼吸して身構えた。

 「あの動きは・・・。三神。そいつには気をつけろ」

 李紫明が注意する。

 「わかっている」

 三神と夏謳歌が同時に動いた。その動きは警官達や沢本達には見えなかった。赤い陽炎と青い陽炎がパッパッと動いているにしか見えなかった。

 「三神と同じ動きをしている」

 沢本と秋山が声をそろえた。

 「まるで海外ドラマの「フラッシュ」ね」

 田代が見上げる。

 「よく観ているな」

 しれっと言う羽生。

 「これはすごい・・・」

 中年の刑事や警官達がどよめく。

 金流芯と箔麗花はどこかへテレポートした。

 「鷹爪拳。はやぶさの舞」

 奇声を上げる夏謳歌。

 速射パンチや蹴りをかわして何度も交差して地面にたたきつけられたのは三神である。

 天井から着地する夏謳歌。

 三神は身を起こした。せつな、ナイフでえぐられるような痛みに顔をしかめる。見ると、腹部とわき腹に鉤爪で深くえぐれた傷口が見えた。傷口から腹部とわき腹の金属プレートが深くえぐれ、腹部内部の部品やケーブルが見えた。ケーブルは血管のように蠕動運動と脈動してポンプはカチカチと弁が動いている。

 俺は機械なんだな・・・。

 三神の電子脳に体内と巡視船の状態が表示される。

 まるで自分の正体は巡視船だと言いたいような表示だ。事実そうだろう。自分にはない海や航行する船の記憶があり、それが夢にも出てくる。体内も人間やミュータントだった時の生身の体ではなく完全に融合した巡視船の部品に置き換わっている。

 夏謳歌は口からしたたる緑色の潤滑油をぬぐう。彼の胸や腹部にもえぐれた傷口が見えていた。

 李紫明、ペク、キム、李鵜、烏来が動いた。

 夏謳歌は太極拳のような動きをすると動いた。その動きは警官達や沢本達には見えなかった。しかし五人の攻撃をすべて受払い、受け流し、身をかわしていく。

 「すごいぞ。あいつ」

 朝倉と佐村が声をそろえる。

 三神は跳ね起きた。傷口はふさがっていく。

 夏謳歌の奇声が聞こえて五人は地面にたたきつけられ転がった。五人とも傷だらけだが彼は傷ついていない。彼のは気功で超高速で動けるのだろう。自分がえぐった傷はふさがり治っている。

 三神は破れた海保の作業着を脱ぎ捨て、夏謳歌はチャイナ服を捨て身構えた。二人とも両腕は連接式の金属の触手で手は鉤爪。上半身はショルダーパットと胸当て。その下に防弾チョッキのような金属プレート。腹部も背中も金属のウロコに覆われている。ズボンの下の足も同様に金属プレートに覆われているのか太ももから下が破れている。そして二人は背中から一〇対の触手を出した。

 「おまえと戦えて光栄だよ」

 夏謳歌はニヤニヤ笑う。

 「俺はおまえを刑務所にぶち込む」

 三神は声を低める。

 夏謳歌は奇声を上げた。彼と三神は再び動いた。陽炎同士が動いているにしか羽生達には見えなかった。

 「あれは?」

 稲垣は指さした。陽炎がぶつかりあった場所で亀裂が見えてそこから虹色の綿毛が舞う。

 「いけない。時空の歪みよ」

 大浦が気づいた。

 「何ィ!!」

 羽生達が驚く。

 「大至急。その人形とその犯人とそこの船を回収して離れよう」

 沢本は指示を出した。

 警官達はコンテナ箱を担ぎ、羽生達は縛られた尾羽と洪怜維を連れて出て行く。

 秋山達は大型船に乗り込んだ。

 すると尾羽の部下達がその亀裂に吸い込まれていく。

 証拠品を持って倉庫から飛び出してくる警官達。

 ゴゴゴゴ・・・ズズズ・・

 重低音の轟音が響き、黒色の渦巻きが出現して倉庫が吸い込まれ行く。

 翔太は時空武器を杖に変えて倉庫と飛び込むと出現した球体に近づく。

 倉庫の時計がクルクル回転していた。明らかに時空フィールドが出現してここだけ時間の流れが早い。ここで生きられるのはこの現象を造り出した者と時空武器を持つ者だけ。

 翔太は目を半眼にして集中すると杖を球体に突き刺した。

 護れ・・・渦から出ろ・・・

 三神の電子脳にフラッシュバックのように海の映像や航行する船の映像が入ってくる。彼は正気に戻ると倉庫から飛び出した。

 夏謳歌も飛び出し地面に転がった。

 すると黒色の渦は回転をやめ、吹き荒れる強風もやんだ。

 倒れて目を剥いている夏謳歌に手錠をかける羽生。

 「あれはなんで?」

 三神は消滅する球体を見て、鋭い痛みに身をよじる。よく見ると自分も傷だらけで一〇対の触手がなくなっていた。

 崩れた倉庫から出てくる翔太。

 球体はかき消えていく。

 「俺があいつを倒して・・・」

 三神は最後まで言えなかった。ズン!と突き上げるような痛みにのけぞり、傷口という傷口から緑色の潤滑油と機械油が噴き出し、心臓をつかまれような痛みに胸を押さえた。

 「三神さん!!」

 駆け寄る翔太。

 倒れのけぞり、身をよじる三神。傷口がふさがらず緑色の潤滑液や機械油がしたたり落ちる。電子脳に体内と巡視船の表示が出て全部の機器が損傷。燃料タンク、エネルギータンク、予備電源は空っぽという表示が出る。おまけにコアやコア周辺部も損傷と出た。でも生身の部分がないマシンミュータントはそんなんでは死なない。簡単に死なないようにできている。耳障りな軋み音が聞こえた。

 「まずいな。予備電源とエネルギータンク、燃料タンクが空っぽだ」

 沢本は背中から二対のケーブルを出すと三神の背中に差し込んだ。

 「ぐふっ!!」

 目を剥く三神。彼の体を覆っていた金属の鎧や胸当ては分解するように金属のウロコとなって体内に引き込まれていく。

 「心配するな。エネルギーを分けただけだ」

 沢本は冷静に言う。

 心配な顔の稲垣、椎野、翔太。

 担架を持って駆け寄ってくる羽生、田代。

 朝倉と沢本はぐったりして動かない三神を担架に載せる。背中には沢本の背中から伸びるエネルギー供給ケーブルが接続されたままである。

 「危険な状態だ。医療室に運ぼう」

 秋山はうなづいた。


 翌日。福岡中央署。

 留置場に入ってくる佐久間、間村、室戸、霧島の四人。

 檻の向こうに貝原がいた。彼は拘束チョッキと腕輪を装着している。チョッキはマシンミュータント用で一〇対の触手が出ないようにする為である。そして腕輪は変身できないようにするのと能力が使えないようする効果もある。

 「警察には事情は話したんだ。刑務所にぶち込めよ」

 怒りをぶつける貝原。

 「自衛隊は自衛隊でおまえに事情を聞きたいんだ」

 間村は身を乗り出す。

 「残念だよな。レストラン船としゅんせつ船と漁船に負けるなんてな」

 わざと言う室戸。

 「訓練もロクにやってないとそのうち電車のミュータントにも負けるぞ」

 からかう霧島。

 歯切りする貝原。

 「佐世保基地に来てもらう。海保の連中も事情をよく聞きたいそうだから」

 間村は言った。


 二時間後。海上自衛隊佐世保基地

 貝原はイスに拘束されたまま台車に乗せられ格納庫に運ばれてきた。

 そこには長島や夜庭、住吉丸達もいる。そして福岡保安署のミュータントの保安官達や警視庁の二人の刑事やエリック、和泉もいる。

 更科や蓼沢、成増教官と葛城長官もいる。

 模型漁船もいるがそれは第五福竜丸なのは知っている。

 「三神がいないじゃないか?」

 貝原はニヤニヤ笑った。

 「俺ならいるけど」

 車椅子を押す朝倉。

 車椅子に乗っているのは三神である。

 「医療用チョッキと維持装置か」

 つぶやく貝原。

 相手はまだ回復していない。しかし自分も拘束されて動けない。

 「おまえが入れようとした金流芯と箔麗花は逃げた。そして夏謳歌は刑務所で尾羽三千郎は関東では有名な暴力団「黒松組」の組長であそこへは薬物取引で来た。偶然に俺達が捕まえた」

 間村はホワイトボードに関係図を描いた。

 「警視庁と神奈川、埼玉、千葉、群馬、栃木県警は黒松組の関係先や事務所をガサ入れに行っている」

 モニターをつける羽生。

 画面には家宅捜索に入る警官達の姿が映っている。

 「おまえ、よくも海警船を入れたよな」

 秋山は食ってかかる。

 「やめろ秋山」

 制止する沢本。

 「横浜に行く前もさんざんトラブルを起こしてまた騒ぐんだ」

 佐村や辰野が言い寄る。

 「おまえは福岡に来なくていいよ」

 言い捨てる別の保安官。

 「それもこの巡視船は「僕は死に興味あるんだとほざいた。すべてのものは駒なんだって。将棋の駒じゃないぞ」

 長島は目を吊り上げる。

 「もうすぐ第三次世界大戦は始まりここは死体だらけになるって言った」

 第五福竜丸がわりこむ。

 「邪神が復活すれば死が死に絶える。誇りに満ち溢れるとか言った。狂ってる」

 夜庭はビシッと指をさした。

 「貝原。邪神は二重、三重の封印で厳重に封印されている。例え、邪神関連の遺物を手に入れても復活はないわね」

 和泉は言い聞かせる。

 「僕はあいつと約束したんだ。結婚できるって」

 貝原は声を荒げる。

 「あんたバカ?海警船が本気で言うわけないじゃん。甘い匂いに吊られなかった?」

 李紫明があきれる。

 「僕はあいつとデートして愛し合った。ハーレムなんだよ」

 真剣な顔をする貝原。

 和泉はお香を近づけた。

貝原は嗅いだ。それはなんともいえない生ゴミのような匂いだった。顔をしかめるが匂いがどんどん入ってくる。

「君はね、「ディルアミドの印」をつけられたんだ」

エリックは貝原のおでこを指さした。

額にピンク色の蝶の模様がついている。

「これをつけられると愛してくれた女に逆らえなくなるのよ」

三島が説明する。

「愛班とも言うけどね」

大浦が笑みを浮かべる。

貝原は頭をハンマーでガンガンたたかれるような鈍痛に顔をしかめる。そして金属が軋む音が体内から聞こえた。

「ぐああぁぁ・・・」

貝原はもがいた。拘束チョッキの下で何かが盛り上がり這い回る。

メキメキ!!バキバキ!!

肩口から腕まで金属の連接式の触手に変わり手は鉤爪に変わる。拘束チョッキの下で体は硬質化し、サイバネティックスーツに変わり金属のウロコが生えて、胸当てやショルダーパットや腹部プレートが形成され分厚くなるがそれ以上プロテクターが形成されない。

大浦と和泉はお香をかがせる。

ギシギシ!!ギギギィ!!

胸が激しく上下してのけぞる貝原。嫌でもお香の匂いが入ってくる。彼の胴体は軋み、何かが這い回るかのように激しく盛り上がり歪んだ。体内でケーブルや配管が蠢き、激しく蠕動運動をしているのが嫌でも感じた。

「うわあぁぁ!!」

目を剥いて叫ぶ貝原。

パリーン!

ガラスが割れる音が聞こえてピンク色の蝶のマークがはがれ消えていく。

ぐったりする貝原。

「愛班は消えたわ」

のぞきこむ大浦と三島。

貝原は目を開けた。

「僕を刑務所に放り込んでください」

「警視庁としてはそれはできないね。犯人は濡れ衣を君に着せようとした。犯人は尾羽と金流芯達だ」

羽生はうーんとうなる。

「俺達としてはいつでも刑務所にぶち込みたい。だけど刑務所に入れるのは金流芯達だ」

秋山は腰を手を当てる。

「貝原。君はあいつらに犯人に仕立てられようとしていた。尾羽や洪達を捕まえて薬物ルートや古代遺物の売買ルートはある程度わかるようになった。あいつらは東南アジアやアフリカの海賊とつながっている」

沢本は声を低める。

「それは全部、五十年前の福竜丸が捨てられた事件から始まっている。たぶん死体兵を造る実験に巻き込まれたんだ」

翔太は遺体が並べられた写真を見せた。

「おそらく推測でしかないけど私達は巻き込まれている」

椎野ははっきり言う。

「その一端を無線で信号や音という形でつかんだんだ」

稲垣は核心にせまる。

「警視庁は千葉にある和田保安官の実家や寮へ家宅捜索してこれを見つけた」

羽生はUSBを見せた。

田代は拘束具を外した。

羽生はモニターに差し込んだ。

画面が変わり死んだ和田が出てくる。

「・・・ここには誰もいない。この画面を見ているという事は俺は死んでいるだろう」

周囲を見回しながら口を開く和田。

「おまえと組んだバディ達の死因はスパイが仕組んだものだ。アメリカ沿岸警備隊の練習船イーグル号はブラックスネークの残党だ。雪風、根本と組んでいる」

和田はイーグル号の写真と雪風、根本の写真を出した。

黙ったままの貝原。

「そいつらが橘唯保安官を殺した。俺は時空関連の物を調査している。理由は死体だ。夜浦刀は世界中から水死体が流れ着く。死刑執行人を使って回収しているが足りない時はホームレスの死体を持ってくる。部品買いやブローカーを使ってマシンミュータントの遺体を盗むそうだ。奴らは怪物兵や死体兵を造るだけでなくマシンミュータントと乗り物を分離させる実験をしているそうだ。止めなければゾンビが増える。特命チームは結成され、沿岸警備隊チームは結成された。貝原。奴らを止めないといけない」

和田は強い口調で言った。

「おそらく五十年前からつながっている。Tフォース日本支部三神元司令官には息子がいる。巡視船「こうや」と融合しているそうだ。彼はチームに選ばれている。貝原。閉じこもっている時ではないぞ。言葉は悪いが奴らから奪って証拠物件を隠した」

和田はそう言うとモニターが切れた。

うつむいたままの貝原。

「貝原さん。僕達と一緒に行こうよ」

翔太は名乗り出る。

「僕といると死人が出る。死に興味あるから死神なんだ」

貝原は視線をそらしたままだ。

「あの倉庫で死んだのは暴力団メンバーだ。俺達は誰も死んでいない。前例を覆したんだ」

三神は真剣な顔で言う。

「あなたにはADHDがある。これに悩む人は以外にいてサポートが必要よ。この症状はかならず治療すれば改善するわ」

平賀はカルテを見せた。

「僕がADHD。症状もほぼ当てはまっている・・・」

絶句する貝原。

「俺もADHDだった。俺の場合は注意力散漫で忘れ物が多いほう。おまえは優越順位が決められず溜め込むタイプ」

朝倉がニヤニヤ笑う。

「福岡に来なくていいは撤回する。条件がある「死に興味がある」なんて言わない事」

秋山は腕を組んだ。

うなづく貝原。

「貝原さん。また音が聞こえたら教えてくれますか?アマチュア無線で周波数は捕まえられるし電波もある程度はハッキングできる」

稲垣は笑みを浮かべる。

「友達になろうよ。人間は勝手だけどマシンミュータントや普通のミュータントは共存している」

椎野は手を差し出す。

「宇宙から音が聞こえたらまた教えてよ」

翔太は近づいた。

「わかった・・・」

しぶしぶ握手する貝原。

「それとなんだが君には名古屋に兄と弟がいてサラリーマンをしていて所帯を持っている。そしてギャンブルで借金があり君を連帯保証人にしている」

黙っていた翔太の父の博は書類を見せる。

「うっそぉ!!借金が三千万!!?」

貝原は思わず立ち上がる。

「司法取引しないか。君は海保で勤務しているかたわら、特命チームか沿岸警備隊チーム、調査団チームから声がかかったら参加する事だ」

博は核心にせまる。

「わかった。借金を返しながら参加する」

貝原は目を吊り上げた。

「新木場支部に住む事になり横浜保安署に勤務する事になり医師の治療を受ける事」

平賀ははっきり言う。

「そこには福竜丸もいるし翔太君達もいるしにぎやかになる」

シドは笑みを浮かべた。

「父さん。昨日の胴体のみのあれは何なの」

翔太はふと思い出す。

「あれはオルビスと同じ仲間だ。隠れ住んでいたのを奴らが見つけて持ってきた。保護するがね」

博が答える。

「僕は会いたい」

翔太は思い切って言う。

「いいよ。後で迎えに行く」

博はうなづいた。

博とシド、平賀は帰っていく。

「俺達は警視庁に戻ります」

羽生は田代と顔を見合わせるとエリックや和泉と一緒に出て行く。

「私達は戻るわ」

ペクが言う。

ペク、キム、李鵜、烏来が出て行く。

「昨日はごめん。補聴器を取ったら声が聞こえて、助けなきゃと思ったら無我夢中で走っていた」

三神はあやまった。

「すごいわねと言いたいけど。それを制御する訓練も必要ね」

佐久間は口を開いた。

「三神。おまえには邪神ハンター訓練はいらん。その韋駄天走りがある」

更科は強い口調で言う。

「あの・・・俺は魔術が使えませんよ」

ひどく驚く三神。

自分の場合は魔術は使えなかった。父や祖父、自分の兄や妹は魔術が使えるのになぜか使えなくて悩んでいた。

「その時空を歪めるほどの韋駄天走りができれば合格と言える。これが邪神ハンター資格証だ」

成増は許可証と手帳を渡した。

どよめく秋山達。

「おまえすげえじゃん!!」

朝倉は声を弾ませる。

「そうなの?」

困惑する三神。

「それはめったにないよ。すごいよ」

佐村や辰野、秋山は目を輝かせる。

「また訓練所に来い。佐久間と一緒に制御法も教えるし時空魔術の概念も教える。時空を歪められる韋駄天走りがあればその代わりだってできる」

更科は笑みを浮かべた。

「三神。すごいじゃないか」

沢本が肩をたたく。

「心配しなくても魔術は私達が支援するわ」

大浦と三島がウインクする。

「でもよかった」

椎野は三神に抱きついた。

はにかむ三神。

「朝倉。青魔術師試験は合格だ」

成増は許可証と資格証を渡した。

「やっと・・・受かった」

泣き出す朝倉。

「泣くな。合格したんだ」

沢本はさとすように言う。

うなづく朝倉。

「そうと決まったらみんなで福岡の中洲の屋台へ行こう」

翔太は声を弾ませる。

「俺は車椅子でもいいのか?」

戸惑う三神。

「大丈夫。バリアフリーなところはたくさんあるの。案内する」

辰野が笑みを浮かべる。

「僕も土産物を家族に買っていかないと」

長島と夜庭が思い出す。

「僕も」

住吉丸達も名乗り出る。

「僕も行きたいです」

おそるおそる言う貝原。

「いいよ」

翔太は貝原の腕を引っ張った。

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