第14話 コウモリ

俺は、記憶喪失だ。「あの方」と呼ばれる夢の女神さまが与えてくれた、正義の使いさま(子悪魔)のデビちゃんとともに、旅に出る。今までは、学校とはじまりの森にしか、行っていなかったことが判明。ストーリー性のために、俺は、初めてのだダンジョン、はじまりの洞窟に向かう。


「ドキドキするな。」

「どうしたんですか?」

「初めてダンジョンに行くから、緊張してるんだ。」

「大丈夫ですよ、あなたは天使でもドラゴンでも、余裕で勝てるんですから。」

「そ、そうかな? ハハハ。」


俺は、記憶喪失のため、自分の強さを知らない。でも、正義の使いさまは、俺なら大丈夫と言ってくれる。


「逆に心配なのは、ダンジョンのモンスター達ですよ。あなたが本気で戦ったら、全員あの世行きですよ。」

「そんなもんかな?」

「ダメですよ! 弱いモンスターいじめは!」

「分かりました。」


そうこう言っていると、洞窟の入り口に着いた。洞窟の前では、モンスターの大群が待ち構えていた。しかし、少し様子がおかしい。


「なんだ!? モンスターの大群だ!?」

「でも、攻撃してくる気配はないですね?」


俺たちが戸惑っていると、先頭のモンスターが合図を送り、ババっと左右に分かれる。そして、ラッパを取り出し、音楽を奏で始めた。さらに洞窟の入り口には、「勇者さま 御一行さま 大歓迎!」の垂れ幕が張られている。


「なんなんだ!? すごい歓迎されている!?」

「ここまでやるとは・・・。」


俺たちの前に、モンスターの代表者が近づいてくる。コウモリが女の人間の姿をしている。ニヤニヤ笑いながら、ハエ男のように手をスリスリしながら、やってきた。


「ようこそ! 勇者さま! はじまりの洞窟へ、いらっしゃいませ!」

「ゆ、勇者さま!?」

「私は、モンスターの代表のコウモリ女のコウちゃんです。」

「・・・。」


デビちゃんは、思った。


(こいつ、ネタバレしやがって・・・。)


コウモリ女は、俺とデビちゃんの現状を知らない。


「俺は、勇者なんかじゃないよ?」

「ま~、謙遜なさるなんて、さすが勇者さまです! 私は感動しました。それでは、勇者さま、はじまりの洞窟をご案内します。なにとぞ、犠牲者が出ないように攻撃のコマンドはしないようにお願いします。」

「は、はあ。」


俺は、手厚い歓迎に拍子抜けして、戸惑っている。


「あれ? 勇者さまは、おまけで小悪魔を飼っているんですか?」

「え!?」

「・・・。」


デビちゃんは、思った。


(こいつ、殺してやる!)


コウモリ女は、俺とデビちゃんの現状を知らない。


「失礼だぞ! このお方を、どなたと心得る! 神々の使いである、正義の使いさまであるぞ! 控えよ! 控えよ!」

「エッヘン!」

「え? ただの小悪魔ですよ?」


確かに、ただの小悪魔です。


「・・・はじまりの洞窟は・・・破壊します!」

「キャアアア!?」


俺は正義の使いさまに、小悪魔などど失礼なことを言った、コウモリ女の巣くう、はじまりの洞窟を粉々にしようと思った。


「失礼しました! このお方は、正義の使いさまです!」

「そうですよ、私は正義の使いさまの弟子なんですから。」

「え!? 勇者さまが小悪魔の弟子!?」

「だから、俺は勇者じゃありませんって!?」


いえ、あなたは、元○○です。


「やめなさい! 弟子よ!」

「はい、正義の使いさま。」

「ええ!? 勇者さまが、たかが小悪魔に従っている!?」

「神々が言っています。言い争いをせずに、仲良くしましょうと。(ウソ。)」

「申し訳ありませんでした。正義の使いさま。」

「ま、まさか!? 姿は小悪魔だが、本当は、本当にお偉い正義の使いさまなのかもしれない!? 勇者さまが頭を下げて反省している!?」


いえ、ただの小悪魔です。


「失礼しました。正義の使いさま、と弟子の方。どうぞ、セレモニーの真ん中をお通りくださいませ。」


俺たちは真っ赤な絨毯の上を洞窟の入り口に向けて進んでいる。モンスター達の盛大な音楽が鳴り響き、紙吹雪が舞っている。実にうれしいというか、照れるというか、不思議な気持ちである。


「ハハハ、苦しゅうない!」

「デビちゃん、これでいいのかな?」

「モンスターの方が、我々には勝てないと思って、降伏してくれています。」


デビちゃんは、たかが小悪魔の自分が、こんなに歓迎されているのがうれしかった。普通では味あうことのできない待遇であった。


(元○○のお供も楽しいかもしれませんね。エヘヘ。)


役得、役得と鼻歌交じりに喜んでいた。ついに洞窟の入り口に着いた。


「はい、洞窟の入り口に着きました。ご説明しますが、ここは地下2階までの短いダンジョンで、突き当りまで行ったら、達成感で次の街を目指すための腕試しのためだけの洞窟です。面白くないですよ? それでも行きますか?」

「とりあえず、順番だから。」

「軽く言って出てきましょう。」

「天使は、誰か呼んだ方がいいのかな?」

「余裕だから、いりませんよ。召喚を間違えて、ミカ子が出てきたら、モンスターよりも面倒ですよ・・・。」

「了解。」

「もういいですか? 早く行き止まりまで行って、ここからいなくなって下さい。私たち平和に暮らしたいだけなんですから。」

「分かります。私は力を抑えることができるんですが(ウソ。)、弟子はまだ、それができないので、怖がらせて申し訳ない。」

「正義の使いさま! なんとお心の広いお言葉・・・コウモリなんかに、もったいないです!?」


小悪魔は、コウモリ女の洗脳にも成功した。


「さぁ、行きましょう。」

「はい。」

「ご案内します!」


俺たちは、はじまりの洞窟に入っていった。中は明るく、普段モンスターが生活しているんだろうな~という、洗濯物や食べ物が置いてあり、生活感が満載だった。


「ちなみにモンスターは、みんな洞窟の外に避難していて、1匹も残っていません。宝箱も中身は、全て空っぽで何もありません。ので、突き当りまで最短ルートで行きますね。」

「すごい準備したんだろうな・・・。」

「なんだか迷惑をかけて申し訳ない。」


俺とデビちゃんは、最初から順序通りクエストをこなしていこうとしたことを反省した。モンスターさんたちに迷惑をかけていて申し訳ない気持ちで一杯だった。


「はい、ここが行き止まりです。」


俺たちは、突き当りにたどり着いた。


「じゃあ、帰りましょうか。」

「そうですね。」

「フウ。」


コウモリ女が安堵して、息を吐いた瞬間だった。ガタガタと壁が崩れ、大きなモグラが現れた。


「なんだ!?」

「モグラ!?」

「キャア!?」


俺たちは驚いた。


「やっとつながったぜ! 今から、この洞窟は俺様のものだ! 死にたくなかったら、大人しくするんだな!」

「やめてください! ここでは、みんな平和に暮らしているんですから!」

「うるさい! 今頃、地上部隊も外の雑魚どもを包囲しているだろうよ!」

「そんな!?」


モグラたちは、自己中心的な性格だった。外では、モグラの集団が、はじまりの洞窟の平和を愛するモンスターたちを捕まえていた。


「コウちゃん、少し洞窟が壊れてもいい?」

「え? 私たちを助けてくれるんですか?」

「いいよね、デビちゃん?」

「神が徹底的にやってしまいなさいと言ってます。(ウソ。)」

「正義の使いさま! ありがとうございます。」


俺は、戦闘態勢に入った。光の魔法陣を描き、呪文を唱える。


「いでよ! 4大天使たち!」


魔法陣から、ミカ子、ガブ子、ウリ子、ラファ子が現れた。


「す、すごい!?」

「私の弟子なら当然です(ウソ。)。エッヘン。」


4天使は、なぜ自分たちが呼び出されたのか分からない。


「あ!? 神人間くん!?」

「あれ!? ここはどこだ!?」

「洞窟の中かしら?」

「ハハハハハ! 私は大人気だな、誰だい、私を呼んだのは?」

「・・・。」

「ミカ子を呼んだのは間違いでは?」

「つい・・・。」

「天使さまがいっぱい! すごい!」


デビちゃんは、4天使に事情を説明した。


「ハハハハハ! 悪党退治は、私に任せたまえ!」

「私とラファ子は、外のモンスター達の救済に・・・。」

「トウ!」

「え!?」


その時、ミカ子は洞窟の天井を突き破り、地上に舞い上がった。もちろん、洞窟は破壊された。


「神だ!」

「天使だ!」

「救世主だ!」


ミカ子は、洞窟を突き破り、地上に現れた、救いの手となった。囚われのモンスターたちは奇跡を見ているようだった。モグラたちは、おどおどしていた。


「・・・ミカ子。」

「外が見えるよ。」

「危ないわ!?」

「洞窟が崩れるの?」

「違う! 外のモンスター達がミカ子に蹂躙されるわよ!?」

「なんだって!?」

「みんなが危ない!」

「私たちは外に行くから、モグラ洞窟の制圧は、ウリ子、よろしくね。」

「ガブ子は、人使いが荒いな。」


そう言うと、ガブ子は光の魔法陣を描く。


「私も行きます! 正義の使いさまも来て、暴走天使を止めてください!」

「え? ええ!?」


コウモリ女のコウちゃんは、仲間を助けたいから、とっさにデビちゃんの手を掴みガブ子に抱き着く。


「いでよ! 光の地上行きエレベーター!」


こうして、ガブ子たちは地上に去っていった。


「さぁ、こっちもやるよ。」

「おお。」

「モグラ様をなめるなよ!」


モンスターは男、人間化してるのは女、分け方はそれでいい。


「こいつは任せるよ。私はモグラ洞窟に行ってくるから、よろしく。」

「こら! 天使! ひ弱な人間を置いてくな!」

「んん? 相手の強さも分からないから、自分の強さも分かってないんだよ。」

「なに?」

「バイバイ。」


こうして、ウリ子はモグラ洞窟を神の光と炎で焼き払いに行った。


「ふん! こんな人間に何が・・・!?」


俺は怒っていた。自分勝手で理不尽なモグラの態度に。なぜか、右手には光のオーラを、左手には闇のオーラをまとっていた。


「はああああ!」

「なんで人間が、闇のオーラを使えるんだ!?」


基本、光は天使や人間。闇は魔物や悪魔だろう。


「いくぞ! モグラ親分!」

「死ね! 人間!」


ドカーン! と光と闇のワン・ツウ・パンチがモグラの顔面をとらえる。モグラは宙を吹っ飛び、後ろに背中から地面に叩きつけられ、泡を吹いて、ピヨピヨ気絶している。


「よし! 勝ったぞ!」


俺はモグラ親分に勝った。


その頃、地上では、無差別にモグラを倒しまくっていたミカ子にピンチが訪れていた。最後の1匹のモグラ子分が、はじまりの洞窟で平和に暮らしていた。コウモリ女のコウちゃんのかわいい妹コウモリのリトルコウちゃんを人質にとっていた。


「卑怯だぞ!」

「こんな低レベルな洞窟に天使なんか着てんじゃねえよ! おまえらが卑怯だ!」

「クソ! その通り過ぎて、言い返すことができない。」


そこにガブ子たちがやってきた。


「みんな! 大丈夫!」

「天使さまが助けてくれたんだ! でも、リトルコウちゃんが・・・。」


コウちゃんは、囚われの妹を見る。


「お姉ちゃん! 助けて!」

「リトルちゃん! 待ってて、今助けるからね!」


しかし、人質がいては、攻撃することができない。


「ああ!? どうすればいいんだ!?」

「大丈夫よ。」

「安心していいよ。」

「だって、こういう時のために、正義の使いさまがいるんだから!」

「え?」


みんなが正義の使いさまに注目して視線を向ける。天使もコウモリも、はじまりの洞窟のモンスターたちも。


「ええ!?」


事態を把握し、デビちゃんは驚くが、既に遅かった。


「正義の使いさまだ!」

「救いの神だ! 正義の使いさま!」

「妹を、妹を助けてください!」


小悪魔に逃げ場はなかった。


「みなさん! こちらにいらっしゃるのは、神々の使途、正義の使いさまです!」

「これから皆の者は、奇跡を見ることになるだろう!」

「はは!」


デビちゃんを真ん中に、左右に天使がいる。まさに正義の使いさまなのだ。小悪魔は覚悟を決めた。


「みなさん、ご安心ください! 正義の使いである私が、人質を解放し、悪者も退治して見せます!(ウソ。)」

「おお! なんと力強いお言葉だ!」

「がんばれ! 正義の使いさま!」


顔は引きつっているが、1っ歩1っ歩、モグラ子分に近づいていき、目の前で止まった。デビちゃんは、お得意の小悪魔のささやきで説得しようとする。


「君は、包囲されている。速やかに人質を解放して、投降しなさい。」

「そんな言葉が信じられるか!? 天使どもなんか信じられるか!?」

「正義の使いである、私を信用してください。(ウソ。)」


デビちゃんの説得に、モグラ子分は考えている。そして答えが出た。


「わかった。人質は解放する。」

「本当ですか! それはよかったです。」


人質のコウモリ女のコウちゃんの妹は、解放してくれるようだ。


「ただし! おまえが代わりに人質になれ!」

「ぜんぜん、よくない!?」


しかし、群衆の反応は早かった。


「よかった。妹が助かる。」

「これは奇跡だ! さすが正義の使いさまだ」

「アハハ・・・。」


正義の道を突き進むしかない。小悪魔であった。デビちゃんは、正義って・・・厳しいな・・・と思うのであった。


「分かりました。私が人質になりましょう。」

「よし、こっちへ来い!」


正義の使いは、モグラ子分に近づく。


「あっちに行け!」

「キャア!」


解放されたコウモリ女のコウちゃんの妹を、正義の使いさまが受け止める。


「もう大丈夫ですよ。ニコ。」

「怖かった! うえええん!」

「お姉さんのところに行って、安心させてあげてください。」

「いいんですか?」

「はい。私は正義の使いですから。(ウソ。)」

「ありがとうございます。正義の使いさま!」


人質の妹は、姉に駆け寄り、抱きしめあい、無事を確認する。


「お姉ちゃん!」

「リトルちゃん!」

「怖かったよ!」

「ケガはない? 大丈夫?」

「うん。正義の使いさまが助けてくれたの!」

「ありがとうございます。正義の使いさま!」


その頃、正義の使いさまこと、小悪魔のデビちゃんは、モグラ子分に捕まっていた。小悪魔は、特技は小悪魔のささやき位しかないので、どうすることもできなかった。ように見えた。


「おまえが新しい人質だ! 正義の使いさまみたいな、偉いの捕まえれば、こっちのもんよ! 誰も手出しはできないだろう!」

「ギャア!?」

「騒ぐと、殺すぞ!」


モグラ子分は、調子を取り戻したかに見えた。


「ハハハハハ! 正義の使いさま! 悪者を倒すためです! 死んでください!」

「え!?」


デビちゃんは思った。ミカ子なら、やりかねないと・・・。なんとかせねば!? ミカ子が突撃してきたら、デビちゃんは、モグラ子分に、いや、ミカ子に殺されてしまうと。


「この手だけは、使いたくありませんでしたが、仕方ありませんね。」

「何をゴチャゴチャ言っている!? 静かにしろ!?」

「降伏するなら、今のうちですよ?」

「誰が降伏なんかするもんか!」

「そうですか・・・本当に残念です。」


デビちゃんは、覚悟を決めた。


「やっぱり嫌だな、痛いから。でも死んじゃうよりはマシですね。」


デビちゃんは、息を大きく吸い込み、一気に話し始める。


「正義の使いの奇跡をお見せします!」

「おお!」


大声で、その場にいる全員に叫んだ。そして、小声でささやいた。


「「あの方」は魔界の・・・。」


その時だった。正義の使いの体に、ビリビリ電撃が走る。


「ギャア!!!!!!!!!!!!!!!!!」


正義の使いとモグラ子分は、真っ黒焦げになってしまった。「あの方」のことをしゃべるのはタブーなのである。これで14話連続の小悪魔の真っ黒焼きの完成である。


「ゲフ~。」

「なんということだ!? 正義の使いさまは悪者を倒すために、自らの命と引き換えに!?」

「正義の使いさま!? まだ息があるぞ!?」


全員が倒れている正義の使いさまに駆け寄る。


「自らの体を犠牲にして・・・。どうしてこんなことができるのですか?」

「正義の使いだからです。(ウソ。)」

「おお! 感動いたしました!」

「これからは、洞窟に正義の使いさまの銅像を建てて、祭ります!」

「まさに、神々の使途だ!」


いやいや、ただの小悪魔です。デビちゃんは、小悪魔なので、他人を騙すと、傷が回復するのであった。見る見る正義の使いさまの傷は回復した。


「復活!」

「おお!? 奇跡だ!?」

「真っ黒だった、お体が元通りに!?」

「神だ! 神が、正義の使いさまを回復したんだ!」

「いえ、神ではありません。みなさんの心配してくれる心が、私を死の淵から救い出してくれたのです。(ウソ。)」

「はは! 正義の使いさま! なんともったいないお言葉を!」


こうして、デビちゃんは真っ黒焦げになる前よりもレベルアップして、完全復活を成し遂げたのであった。


「あああああ!? 私の出番が!?」

「ミカ子、ウザいよ。」

「正義ちゃん、よかったね。」

「はい。これもみなさんのおかげです。(ウソ。)」


もう天使もデビちゃんを小悪魔と疑わず、正義の使いさまとして接している。


「あ!?」

「どうしたの? 正義ちゃん?」

「弟子を忘れてました・・・。」

「そういえば、ウリ子も忘れてるな・・・。」


俺が忘れ物が多いのではなく、俺が忘れられることが多い話になった。


つづく。

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