小悪魔は、正義の使い
渋谷かな
第1話 忘れた
「おまえは何を忘れた?」
女性の声が聞こえる。
「ん、んん?」
俺は、その声で目を覚ました。
「ここは、どこだ?」
「ここは、始まりの森です。」
「始まりの森?」
俺は、話を聞いてもピンと来ない。俺の前に小さな精霊のようなものが姿を現す。
「おまえは誰だ?」
「私は小悪魔のデビちゃんです。」
「小悪魔!?」
「カワイイでしょ? 」
「いや、別に。」
「ズコー!?」
小悪魔は、ツッコミにコケるセンスがあった。
「一つ聞いてもいいか?」
「なんですか?」
「小悪魔ってなんだ?」
「そこですか!?」
俺は、何も覚えていなかった。キラン! と小悪魔のデビちゃんの目が輝く。
「仕方がないですね! 私が教えてあげましょう! 小悪魔とは、あのお方が、記憶を失われた、あなたのために使わした、正義の使いです!」
「正義の使い!?」
「そうです! デビちゃんは正義の使いです!」
俺は小悪魔を羨望の眼差しで見つめる。
「ああ~、私を見つめる憧れの眼差し! 一度でいいから言ってみたかった、正義の使い! 悪魔だって、正義のヒーローと言われたい!」
「なにをブツブツ言っているんだ?」
「なんでもありませんよ!?」
小悪魔は、本音をこぼしたが、とぼけるのは小悪魔らしく、上手だった。
「正義の使いとは、悪魔や天使よりも偉いのです! 上級精霊なのです!(ウソ。)」
「上級精霊!?」
「正義の使いは偉いのです! 正義の使いは正しい! 正義の使いはカッコイイのです!」
「何がなんだかわからないが、すごそうだ!」
「プププププッ。」
記憶を忘れた俺は、簡単に小悪魔に洗脳された。小悪魔は俺を騙したことを笑いたいが、必死に笑いを押さえている。
「正義の使いを、俺に使わしてくれた、「あの方」とは、誰なんだ?」
「ギャア!? しっかり聞こえていたんですね!?」
「「あの方」って、誰?」
「「あの方」は・・・。」
その時だった。正義の使いの体に、ビリビリ電撃が走る。
「ギャア!!!!!!!!!!!!!!!!!」
正義の使いは、真っ黒焦げになってしまった。
「ゲフ~。」
「こ、これは!? まさに神のイカズチ!?」
「そ、そう! 「あの方」の正体をしゃべろうとすると、デビちゃんには、神のお怒りが下るのです!」
「すごい! 正義の使いは、神に仕えていらっしゃるのですね!」
「その通り! ワッハハ!」
正義の使い方は、両手を腰に回し仁王立ちして笑うが、
(電撃が流されるなんて聞いてませんよ!?)
怖いので声には出して言わないが、心の中で愚痴っていた。
「あの・・・神って、なんでしたっけ?」
「ズコー!?」
俺は、固有名詞は、だいたい忘れていた。もちろん「あの方」のこともだ。
「あなた! 自分が人間というのは、覚えていますか?」
「人間? んん・・・下等生物ですか?」
「おまえも人間だ!」
コイツ本当に大丈夫か? という正義の使いの冷たい視線を感じる。
「そういえば・・・俺は、誰なんだ!?」
こうして、忘れ物が多い勇者!? の物語が始まった。
つづく。
あらすじ。
「おまえは何を忘れた?」女性の声で夢から覚めた俺は、名前も、どうやって生きてきたのかも、全ての記憶を失っていた。そんな俺の前に、正義の使いが現れた。小悪魔のデビちゃんに騙されているとも知らずに・・・。「あの方」とは、いったい誰なのだろう?
おしまい。
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