in memory of a man

あの日はちょうど、連休の中日だったと記憶している。

しばらく続いた雨空の切れ間のような晴れで、どこを向いても巷は人で溢れていた。

ふと見上げれば、薄青の空を白銀の機体が横切っていく。

中間層部内をつなぐ、パブリック・レールと呼ばれるモノレールだ。

住民票を兼ねたカードがあれば誰でも自由に乗り降りできる便利な交通機関で、上流階級層のように個人で車を持つことが難しい庶民には、なくてはならない重要な路線である。

ぼんやりとパブリック・レールが去っていくのを眺めていると、家族連れが横を通っていった。

父親と、母親と、子供。

皆、笑顔を浮かべて幸せそうだった。

休日返上で仕事をしている身としては、少々羨ましい。

私は、その光景を横目にしながら再び歩き出した。

明日は、かわいい我が子が三歳を迎える記念すべき日だ。

ひと月も前から膨大な量の仕事を片付けていたのは、すべて明日のため。

我ながら親バカが過ぎるきらいもあるが、普段でさえなかなか帰れないというのに、連日泊まり込みで激務をこなしてきたのだ。

明日休むくらいの贅沢は許されてもいいと思う。

プレゼントは用意してある。

妻と共に決めた。

喜んでくれるといいのだが。

そう思いながら、歩いていたときだった。

急に懐に入れていた携帯端末が震えた。

電話だ。

画面には、同僚の名前。

耳にイヤホンマイクを差し込み、通話のアイコンに触れる。

瞬間、怒号が飛んだ。

『お前、今どこにいる!!』

突然のことに一瞬答えに詰まった後、私は自分がいる場所を伝えた。

すると、同僚は告げた。

『今すぐ戻ってこい!!』

切迫した声は、私に疑問を口にする暇を与えてはくれなかった。

『人工知能が───〈ハンプティ=ダンプティ〉の様子がおかしいんだ!!』

何も知らない大衆の中で。

暴走かもしれないという言葉を、私は呆然としながら聞いた。


明日は、三歳になる愛しい我が子の誕生日。

プレゼントも用意して、準備は万端。

だが、訪れるはずだった家族の時間は、永遠にくることはなかった。

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