迷路
袋小路 めいろ
紙
右上に螺旋階段がある。全体から、木の香りがしている。圧倒的に白色で、大きくも小さくも無い額に入った少女の絵が、爽やかな茶色の靴箱の上に飾ってあった。寂しい空気が通り抜けて、左手の方にある観葉植物が泣いている。
玄関用のちょっとした敷物の近くには、綺麗に並んだスリッパがあり、左から、赤、赤、青だった。螺旋階段の登り口から左に窓があり、太陽の光が右側の壁に長方形の自然の額縁を作り上げていて、その中に紙が、セロハンテープで静かに貼ってある。
ーあなたの近くには、わたしが居て、私の近くには、あなたが居ますー
螺旋階段の右側の扉を開けると、まずは、大きな灰色のソファーが存在感を醸し出している。L字型に一人掛けが、付かず離れずの状態だ。左側にセット物であろう、棚が三つ並んでいる。中には何が入っているのだろうか。真ん中が一番高く、扉がガラス張りで中がしっかりと見えている。本やCD、お酒に置き物。ずらっと並んだその中に、同じ様にセロハンテープで紙が貼ってある。
ー誰かの為にするのでは無い。全ては自分の為であり、あなたの為であるー
ソファーの正面にはテレビがあった。
42型ぐらいの大きさだろう。テレビの足元には、猫の置き物が十個、ぐるりと並んでいる。シックな色のテレビ台の中では、レコーダーが静かに佇んでいた。
テレビの右隣は大きな窓が四枚あり、そこから縁側へと出る事が出来る。窓の外には大きな木が、庭の一番奥側を教えている。そして、窓越しの目の前には、物干し台と物干し竿が、太陽に礼拝している様に、凛と立っていた。四枚目の窓の下側、正方形の真ん中に、申し訳無さそうに、紙が貼ってある。
ーそのままではいけません。太陽は等しく登り、月は等しく沈みます。わたしは特別で、わたしは普通ですー
四枚の窓の光が、淡い襖の引き手を輝かせて、小さな存在を大きくしていた。スーッと、襖を開けると八畳程の和室がある。冬の装いの長方形の座卓が、一番の存在感を放っていた。左側には二枚、先程のと同じ大きさの窓があり、入って正面には和室用の丸い窓が、何か用かと問いかけていた。左奥の角には、小さめのテレビとテレビ台が、こんにちはと挨拶していた。入って手前側の朱色の炬燵布団には何もなかったが、反対側には堂々とセロハンテープで紙が貼ってある。
ー繋いでみたら離れて、離れたら繋いで行く。赤い糸は、糸のまま、毛糸に成りたいと泣き叫んでいるー
座卓をぐるりと回って行くと、木のスライド式のドア。開けるとカウンターキッチンが飛び込んで来る。右側には木の食卓用のテーブルと椅子四脚。左側にはキッチンへ続く短い廊下と、その奥には勝手口の扉があった。キッチンの中へ入って行くと左側に食器棚、奥側には冷蔵庫がある。右側には水回りと並んでコンロがあり、上には換気設備が銀色に光っている。コンロの反対側の冷蔵庫に、赤い丸磁石で紙が貼ってある。
ー胃の中にある事と、心の中にある事は違うかもしれない。頭の中なら、尚更違うかもしれないー
食卓用のテーブルと椅子の横を、キッチンを背にして通り過ぎる。正面にはドアノブのある扉、右側には木のスライド式の扉、左側には怪しげな観葉植物があった。右側のスライド式の扉を開けると、ソファーのあった部屋へと繋がり、ドアノブのある扉を開けると、目の前にはトイレ用の扉が威風堂々としていた。右側にはスライド式の扉があり、開けるとソファーのあった部屋へと繋がっている。
トイレ用の扉を開けると洋式便器が清潔感のある顔を向けていた。蓋を開けるとセロハンテープで紙が貼ってある。
ー吐きたいなら、吐けばいい。眠りたいなら、眠ればいい。死にたいなら、死ねばいいー
トイレの隣は洗面台があり、鏡が真空状態で空間を反射している。ソファーのあった部屋を背にすると、真正面に浴室の磨硝子の扉があり、その左側には洗濯機が磨硝子の扉の一枚を半分隠していた。洗濯機の左側には、背の低い位置に綺麗な洗濯籠、その隣には着替え置き用のプラスティックの三段の棚があった。浴室の扉をゆっくり開けると、浴室には蓋がしてあり、その蓋の真ん中にセロハンテープで紙が貼ってある。
ー悪は悪で悪のままなら、光は光で光のままでないと、世界が狂ってしまう。良く考えてあげなさいー
ソファーのある部屋に戻り、入って来た扉から玄関へ出る。螺旋階段を登ると右側には壁、目の前にはトイレのドア、左側には右と左で扉があり、真ん中に窓があった。この廊下を左へと進む。十戒のモーゼの様に光を注ぎ込んでいる窓にセロハンテープで紙が貼ってある。
ー大切な物は大切であり、譲れない物は譲れないのです。それはあなたがあなたである。それ以外に、正しい理由がありますか?ー
右側のドアノブを回して中へ入る。右側にベッド、左側にはテーブルがあり、正面には窓が二枚、ピンク色のカーテンと一緒にイチャイチャしていた。テーブルの横には本棚が二つ並んでいて、どちらが高身長かを競っている。深い茶色のテーブルの上、右から順にペン立て、ライト、少し下にノート、辞書。辞書の横にセロハンテープで紙が貼ってある。
ーどんな顔が見たいのでしょう。どんな顔になりたいのでしょう。はたして、その顔は、あなたですか?その顔は、わたしですか?ー
右側の部屋を出ると、目の前に左側の部屋の扉が、おいでと言っていた。ドアノブを回して入ると、右側にベッド、左側には洋服ダンスが三つ並び立ち、小さな部屋を圧迫していた。正面には窓が二枚あり、深緑のカーテンと大喧嘩をしていた。窓の外にはベランダがある。窓からベランダへ出ると、ベランダの手すりにセロハンテープで紙が貼ってある。
ー決まりましたか?選んだ物は何でしたか?あなたは外に出ました。それは、今からを作る事に、世界で一番正しい方法の一つです。楽しみなさいー
空は、夕方の色で世界の何かを手助けしていた。目の前が真っ白になる為に、ベランダから飛び降りた。本当に目の前が真っ白に・・・
真っ白にはならず、真っ黒になった後、呼び戻された。真ん中から裂けて、明かりが入って来たから、それが目を開ける行為だと気づいた。ガヤガヤと耳に音が入ってくると、飲食店だと分かった。誰かの声がする。
「ねぇ、お金足りるの?」
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