彼のひざ

119 『掲示係の少年』


掲示係の少年は、ひざに画鋲が刺さっていた。


画鋲の針が、もうこれ以上刺さらないというくらい、深くしっかりと刺さっていた。


そう、刺さっていた。 すでに刺さっていた。


しかし、彼の中でそれが刺さったのは


彼が、自分の膝に深く刺さった画鋲を目視し

存在を認識してからだった。


それまで痛みも感じず、彼の中で膝には画鋲は存在しなかった。


画鋲が刺さっていると認識した瞬間から


画鋲の存在も、それによって起こる痛みも


そこから彼の世界に現れた。


もし、その時に気がつかなけば


数時間、彼の世界に痛みも画鋲も現れることなかった。



喜怒哀楽は全てそう


すでに在ったとしても

彼が、認識しなければ


彼の世界には存在しない。



そこに深い気づきがある賢者が

「悟り人」と言われるのかもしれない。

全てをゆだね身を任せられる人々


一瞬先も決まっていない世界に彼はいる

でも、ほぼ決まっていると信じてしまっている。


全ては、彼の認識次第なのに

複雑な虚構を信じこんでいる。


彼がコントローラーの一つを握るゲームは

ステージの難易度も、キャラ設定も

彼の認識次第なのに。


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