間章「宵の金砂の黄昏に」


―――???


 この世界が闇に包まれてから、一体どれだけの時間が経ったのだろう。


 砕けた星々。

 消えゆく魂の残響。

 暗く暗く衰えていく漆黒の中の灯。

 終焉と誰かは言った。

 何もかもが消えてしまう。


(寒い……寒い……寒い……)


 嘗て冷えゆく宙に多くが言った。

 これは運命だと。

 変えられない出来事なのだと。

 諦めずに旅立った者がいた。

 嘆かずに花を育てる者もいた。

 苦しまぬ為に死んだ者すらいた。

 でも、何も変わらない。

 まだ子供は残っているだろうか?


 昔ならば向かえた場所にある暖かな家と家族はいるだろうか?


 昨日のようにも感じられる想い出達。

 もう傍にいたはずの最愛の人すら見えない。

 もう先に旅立ってしまったのか。

 彷徨わせる手は何も掴まない。

 何も感じない。

 虚ろに自分が融けていく。

 世界は冷えて、止まって、永遠となる。

 無限に誰とも触れ合えない孤独と決して取り戻せない温もり。

 あの日の空を見上げて、色褪せていく全てがただ懐かしく。

 手を伸ばして、伸ばして……気付く。

 そこには誰もいない事に。


―――死。


 どうすれば良かったのか。

 思い出せない。

 何をすれば良かったのか。

 思い出せない。

 結末が寂しくて。

 泣き出そうとしても。

 凍り付いたモノは動き出さない。

 そのまま………全て………終わる。

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ふと。


「?」


 天に輝きを見た。

 そんな事は在り得ない。

 きっと、それは想い出だ、幻だ。

 いつかのどこかの幸せだった時の。

 けれども、その輝きは。

 宵の金砂の黄昏に。


 手を伸ばす。

 手を伸ばす。

 涙が溢れる。

 手を伸ばす。

 届かない。

 届かせたい。

 届きたい。

 届け。

 手を―――取られた。


「一つ、お願いがあるの」


 涙で何も見えない。

 手を取ってくれた誰かは見えない。

 グシャグシャになった顔では見えない。

 滲んだ世界にそれでも美しい長い長い綺麗な髪の色。


「忘れないで。これを……」


 小さな欠片。

 何かの欠片。


 それを穏やかな声の誰かはそっと握らせて、くれて―――私は―――。

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